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ビッグデータが教えてくれる最適な医療 PEST分析から読む近未来vol.4/竹林 篤実

INSIGHT NOW! / 2015年9月7日 7時0分


        ビッグデータが教えてくれる最適な医療 PEST分析から読む近未来vol.4/竹林 篤実

竹林 篤実 / コミュニケーション研究所

鶴の一声で決まった「85センチ以上がメタボ」

検診の結果、ウエストのサイズが85センチ以上なら「メタボ」と判定される。メタボ検診によって悔しい思いをされた方も、多くおられるのではないだろうか。

では、85センチという基準は、どのようにして決まったのだろうか。もちろん、何の根拠もないわけではない。とはいえ、何センチを超えるとメタボとするのか、その基準についてはいくつかの案があった。84センチかもしれないし、86センチで良かったのかもしれない。

最終的には「85センチでいけ」と、関係者の中で最も影響力の強い先生発言し、それで決まったのだという。ある関係者から聞いた話だが、医学の世界ではあり得る話だとも思う。今の医学は「EBM(Evidence Based Medicine)」である。とはいえ、EBMが言われだしたのは、せいぜいこの10年ぐらいではないか。つまり、以前はEBMではなかったのだ。

そうならざるを得なかっただろうとも思う。なぜなら、ウエスト何センチ以上になると、明らかに生活習慣病を発症しやすくなることを示すデータなど存在しなかったからだ。


なぜ高血圧の基準値は変わったのか

2014年4月、日本人間ドック協会は、高血圧の基準値を改定した。新基準では147/97mmHg以上が高血圧と診断される。以前の基準値は、140/90mmHgである。つまり血圧が145/95ぐらいの人は、以前の基準値なら高血圧と診断されたが、新しい基準に従うなら高血圧とはならない。

この日本人間ドック協会の新基準値に対しては、日本高血圧学会が即座に「世界も日本も、高血圧基準は140/90mmHg」とアピールするパンフレットを発行し反論を唱えている。

と聞けば「?」と思われる方もいるだろう。そもそも、高血圧の基準値とはなんだろうか。日本医師会は、「(人間ドック協会が発表した)基準範囲は健常人から得た検査値を集めて、その分布の中央95%を含む数値範囲を統計学的に算出したものであり、疾病の診断、将来の疾病発症の予測、治療の目標などの目的に使用することは難しい」との見解を出している(http://www.med.or.jp/shirokuma/no1799.html)」。つまり医師会も高血圧の基準値を変えることには反対している。


そもそも高血圧とは、どう考えるべきか

同じ血圧でも、持病の有無により、血圧コントロールの必要性が変わることがある。例えば、糖尿病を患っている人が高血圧を合併すると、脳卒中などのリスクが高まる。だから糖尿病患者は、血圧を130/80mmHgに押さえることが望ましいとされる。

では、同じ糖尿病患者で30歳の人と80歳の人がいる場合、血圧の目標値はどちらも同じで良いのだろうか。普通に考えれば、良いはずがないというのが答えとなるだろう。

理想をいえば、性別、年齢別、既往歴別、生活習慣別、さらにはゲノム分析などのデータをベースに、高血圧かどうかは個別に判断されるべきであり、今後は、その方向でデータ活用がなされるはずだ。

もっとも医療(医学ではない)の世界では、非常に複雑な利害関係が絡み合っているので、話がそう簡単に進むとは限らない。血圧の話にしても、仮に正常値が140/90mmHgの場合と、147/97mmHgの場合では、異常と診断される人の数がどう変わるかを考えればわかる話だ。


ビッグデータが教えてくれる理想の治療法

ある病気の手術法が2種類あるとする。これを仮にA式、B式と呼ぶことにしよう。もし、あなたがこの病気になった場合、あなたに施される手術式はどのようにして決まるだろうか。

答えは「あなたが手術を受けることになった病院によって決まる」である。なぜなら術式の違いは、ほとんどの場合、学閥の違いだからだ。

つまりA式はある大学系列で使われており、B式は別の大学系列で採用されている。従って、入院した病院が所属する系列によって、術式も決まってしまう。執刀する医師は、どちらかの術式しか教わっていないからだ。

こうした状況を、医療ビッグデータが変えつつある。

7月30日付の日本経済新聞に『がん最適治療を人工知能で』との記事が掲載されていた。東大が、米IBM社製のコンピュータ・ワトソンを活用し、患者のデータを分析して、遺伝子情報を元に個別患者に対する最適な治療方針を決める。

医療ビッグデータが整備されれば、医療の現場は大きく変わるだろう。例えば外来患者を診察室に迎えた医師が、患者の年齢、性別、体重、血圧、既往歴、生活習慣などを入力すれば、たちまち同じ条件を持つ患者のデータがリストアップされる。それらの患者に対する治療結果もひと目でわかる。こうしたデータを元に、医師は目の前の患者と向かい合い、治療方針を決める。

医療ビッグデータは、医療の質を飛躍的に高めてくれるのだ。

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