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市況・景況・為替動向を見る目/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2015年9月16日 17時31分


        市況・景況・為替動向を見る目/野町 直弘

野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

先日トヨタが鉄鋼大手と2015年度上期(4~9月)の鋼板価格を14年度下期から1トン当たり6000円(約6%)引き下げることで合意した、と新聞各紙が報道をしました。
これは最近の鉄鋼の主原料である鉄鉱石や石炭が大幅に値下がりしているのを反映したものです。また、原油価格下落に伴い、化学製品についても値下げが実施されているのが最近の傾向です。
実際に9月10日に日本銀行から発表された企業物価指数によると、2015年8月の国内企業物価は前年比▲3.6%となっており、主に原油価格の下落や中国の景気低迷などによる石油・石炭製品、化学製品、非鉄金属などの輸入物価の下落によるようです。

一方で同じ輸入物価でも小麦などの食料品原料は値上げの傾向にあります。また消費者向け食料品も値上げ傾向にあります。また、労働力不足により、運輸コストや建設コスト、システム開発などの人件費等の労働コストは依然値上げ傾向にあると言われています。食品材料や人件費の高騰により外食産業はダブルで値上げの影響を受け価格値上げで転嫁せざるを得ないような状況です。

このように品目によって市況の動きが全く違っている、のが現在。

先日もある日に化学原料を購入しているバイヤーの方から、今期は値下げでかなり大きな収益貢献ができた、という話を聞き、その数日後には建設会社のバイヤーから依然として職人と一部建設資材が供給不足で、いかに集めてくるかがポイントだと聞き、業種や購入品などによって市況動向が全く逆というおかしな状況が起きていることがわかります。

今まではどちらかというと、値上げの時期はあらゆるものが値上がりし、値下げの時期にはあらゆるものが値下げ、という画一的な動向でした。ある意味分かりやすい状況だったと言えます。それが大きく変わりつつあるのです。

これは市況だけの話ではありません。例えば為替なども2013年以降円安が進行していましたが最近は円高に振れており、現状は円高基調へ転換されたか今まで通りの円安基調に戻るのか、人によって見方が異なります。景況感に同様です。今までは全世界的に好景気、不況の波が訪れていましたが、現状は中国の景気低迷ははっきりしつつあるものの、国内景気や米国景気は一進一退であり、ASEANの景気なども個々の国により様々な状況です。これはグローバル化している日本企業にとっても大きく
生産活動や企業収益に影響を与えるようになってきています。

こういう時代には今まで以上に市況や景況、為替動向などに対して調達購買部門に情報収集能力や分析能力、予測能力や情報提供力が求められるのです。
既に米国や中国では景気指標でPMIという調達購買の視点がとても重要視されています。PMIは、"Purchasing Manager's Index"の略で、米国や中国ではISM(サプライマネジメント協会)が発表しています。「購買担当者景気指数」とも呼ばれ、将来の景気動向を占う「先行指数」として注目されています。米国FRBはPMIが50.0を下回っている(景気下落傾向)局面では利上げを実施したことが無いため、FRBがそれだけPMIを重要視していることがここからもよく分かります。
PMIは原材料や部品などを調達する役割の購買担当者が景気判断を行うので、市況や自社の受注状況、生産計画などが反映されやすく、数ヵ月先の景気動向を敏感に映すといわれているからです。
日本でも従来は日本資材管理協会がPMIを公表していましたが、正直今まではあまり大きく取り上げられたことはありませんでした。しかし、今年の7月からは日経新聞がアジア13か国のPMIを発表するようになり、最近は日経新聞紙面でPMIを大きく取り上げるようになりました。

つまり市況、景況、為替などの動向について日本においても今までよりバイヤーの視点を重視する方向に向かいつつあるということなのです。考えてみれば当たり前のことです。
何故なら一番情報がタイムリーに集まりやすく、その情報提供ができる部門ですから。
また、市況、景況、為替などの動向判断は現状の不透明な先行きや品目や国毎に異なった状況にあることからより一層経営的に重要な意思決定となっています。そういう点からバイヤーにとってより一層タイムリーかつ正確な情報提供だけでなく予測や意思決定も行わなければならないと言えます。私はバイヤーがこういう能力を磨く必要性が一層増えてきていると言いたいのです。

2015年に入り新聞記事で日本企業の国内生産回帰が報道されています。しかし生産回帰や海外調達に関しても国内回帰する方向ばかりではありません。これらの意思決定は、各企業毎に異なっています。このような戦略は数年後にその企業の競争力の優劣に結びつくものです。どちらにかじ取りするかは、正に企業としての重要な意思決定と言えます。どこで生産するか、どこから買うか、だけでなく、いつ買うか、どれ位買うか
というのも今後は企業の収益に直結する重要な意思決定になってきます。

このような重要な意思決定や意思決定のための予測、情報提供能力がバイヤーにますます求められる時代になってきたのです。

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