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医療と食マーケティングと塩分濃度の関係 PEST分析から読む近未来vol.5/竹林 篤実

INSIGHT NOW! / 2015年9月28日 7時0分


        医療と食マーケティングと塩分濃度の関係 PEST分析から読む近未来vol.5/竹林 篤実

竹林 篤実 / コミュニケーション研究所

2025年、医療費は48兆円に

人は歳を取るとともに、体のあちこちに衰えが出る。これを治すためには、適切な治療を受けることが必要だ。従って、高齢者が増えれば医療費も増える。極めて当たり前の現象である。

日本には、団塊の世代と呼ばれる、1947年から49年の間に生まれた合計約800万人の人がいる。この人たちが、後期高齢者つまり75歳となるのが2025年であり、何もしなければ医療費が急増するだろう。

日本医師会総合政策研究機構の推計によれば、2025年度の医療費は48兆円となる。これは現状の国家予算の約半分に相当する。このまま放置しておけば、国家財政が破綻するおそれがあるため、厚生労働省はさまざまな対策を講じている。その最もわかりやすい例が、ジェネリック医薬品の推奨だ。

厚生労働省は、2017年にはジェネリック医薬品のシェアを70%以上に、さらに2020年までには80%以上にする取り組みを始めている。そのため、ジェネリック医薬品業界には、奇跡的な追い風が吹いている。


健康インセンティブとペナルティ

医療費を抑制する方法は他にもある。最もわかりやすいのは、病気になる人を減らすことだ。前回取り上げたメタボ健診が始められた目的は、30代後半ぐらいから健康に対する関心を高めることにあった。

ウエストサイズ85センチに根拠があるかどうかは議論の分かれるところだが、ともかく内臓に脂肪が貯まるタイプの肥満に、脂質異常、高血圧、高血糖などが重なると、生活習慣病の発症率が高まる。そこで、肥らないように意識付けるためのメタボ健診である。

組合健保を持つ大企業では、基本的に手厚い保障を行っているため、多数の組合員が病気になると保険制度の維持が危うくなる。これを防ぐためメタボ検診を受けることを義務化したり、受けない社員に対してペネルティを課すところも出てきた。

とはいえ、メタボ検診の受診率は2013年度で47.6%にとどまっている。これが意味するのは、健康に対する意識の低さである。少々太っていたとしても、40代ぐらいで特に何らかの症状が出ることは稀だ。完全に健康であるとはいえないまでも、明らかな不具合がない人に健康を意識させるのは難しい。

そこで個人に対してインセンティブを提供して、運動プログラムに参加させる自治体も出てきている。筑波大学・久野教授が中心となって千葉県浦安市などで進められている「Smart Wellness City」プロジェクトでは、参加した市民に対して年間24,000円分の買い物ポイントを付与することで、運動を促そうとしている。運動による健康づくりに取り組めば、1人あたり9万円の医療費抑制効果があるとされるから、十分に元を取れるプロジェクトである。


企業に対してペナルティが課されるケースも

塩分を過剰摂取すると高血圧を発症しやすくなる。だからといって、食事の際に塩分を控えめにしましょうと訴えかけたとしても、実はあまり効果はない。これはアメリカの数字だが、塩分摂取の77%は加工品と外食によるものだからだ。つまり、家庭での食事で塩を振らないよう意識しても、それで減らせる塩分量は知れているのだ。

そこでCDC(=アメリカ疾病予防管理センター)は、塩分摂取に関して企業に対して協力を求め、Salt Reduction Community Programを始めた。

CDCが進めるプロジェクトでは、スターバックスやサブウェイなどファーストフードチェーンと共同で、店頭で提供する食品に含まれる食塩量を2012年から2015年の3年間で2割減らす。これにより外食をする人は、何も意識することなく減塩できることになる。

こうした国を挙げての取り組みは、1972年にフィンランドで始まっている。同国では、過去30年にわたって加工食品に含まれる塩分量を最大25%削減した結果、平均塩分摂取量が40%下がり、高血圧や心疾患にかかる人の割合が減少している。

産官連携による取り組みは大きな注目を集めており、今後、導入する公的機関が増える可能性がある。将来的には、協力しない企業に対してペナルティが課せられることも考えられる。

塩分を抑えて、おいしくできれば勝てる

塩分に対する嗜好性は、人の進化の過程で形成されてきたものであり、塩辛いものに対しておいしさを感じるのは、人間の性である。そのために、普通に食事をする上で意識的に塩分を押さえることは難しい。

逆に考えれば、ここにビジネスチャンスがある。つまり、塩分を控えながら、塩分が含まれていた場合と同じようなおいしさを提供できる新しい調味料なり料理法なりを開発すれば良いのだ。

例えば、ユネスコの無形文化遺産となった京都の和食が参考になる。だしをしっかりと取れば、だしのうま味があるために、塩分を控えても十分に美味しい料理を作ることができる。もちろん、京都の一流料亭と同じように、高級なわかめや昆布をぜいたくに使ったのでは採算が合わない。

けれども、うまみの成分は科学的に解明されているのだから、コストを抑え、塩分も控えたおいしい料理を作ることは可能だろう。ニューヨークでは、四川料理の麻辣フレーバーを活用することで、減塩とおいしさの両立に成功した例が報告されている。

健康は個人で努力するものから社会が与えるものに

経済格差は健康格差に直結する。身もふたもないような話だが、これはすでに医学界の常識だ。生活習慣が個人の努力で変えられるというのは、幻想に過ぎない。

所得格差は生活習慣の格差と相関関係がある。例えば世帯所得600万円以上、600万円未満~200万円以上、200万円未満の世帯を比べてみると、男性喫煙率は27%、34%、37%となる。低所得層ほど喫煙率が高まるのだ。

あるいは女性肥満者の割合については、年収600万円以上が13%、200~600万円が21%、200万円未満が25%となる。所得格差が生活習慣格差にリンクし、結果的には健康格差につながっている。

生活が苦しい人は、走ったり運動したりする時間がそもそもない。仮に時間があったとしても、働くだけで疲れきっていて、余分な運動することなど考えもしないだろう。

病人を減らし、医療費を抑えるためには、社会環境全体を改善する必要がある。これは、これからの日本でも主流となる考え方であり、この流れからはさままざまなビジネスチャンスが生まれるはずだ。

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