売りつけたくない君へ(7)/「話が違う」って言われるんです。/伊藤 達夫
INSIGHT NOW! / 2015年9月28日 15時31分
伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社
渋谷でサルジニア料理を食べてから2週間後。彼女とミュージカルを見てから4か月後。
その日の夕方は渋谷道玄坂上のモリバコーヒーで呆けていた。プレゼンは再来週にあるが、しばらく時間がある。さすがに休まないと体がおかしくなる。平日夕方にコーヒーを飲みながら呆ける。素晴らしき時間だ。
バッグの携帯が震えた。メールだろうと呆けていたら、ずっと震えている。とにかくずっと震えている・・・。しばらく無視したが、バッグの振動は止まらない。
仕方なく電話を取り出す。電話を見ると彼女だった。無視するか・・・。出るか・・・。迷う・・・。が、いまだに電話は鳴りやまない。留守電にしておけばよかった・・・。
「出るのが遅いですよー。なにやってるんですかー。」
あまりの声のでかさに、受話器を耳から話す・・・。やっぱり出なければ良かったかな・・・。
「・・・。どうしたの?」
努めて冷静な口調で言う。もはや運命だと思って諦めるか・・・。
「蕎麦を食べます。蕎麦屋に連れて行ってください。」
脈絡がない・・・。意味がわからない・・・。が、仕方ないか・・・。
「じゃあ、渋谷の道玄坂上においで。交番があるビルの上に美味しいお蕎麦屋さんがあるから・・・。」
「はい!」
返事だけは元気が良かったが、今日は何があったのだろう・・・。ひょっとして契約が取れたのかな・・・。いや、そんなわけないか・・・。
夜の営業が始まったばかりの蕎麦屋に入る。右側は寿司スペースだが、気づかないふりをして通り過ぎる。こんな時間に来たのは初めてだ・・・。厨房の人はまだ仕込みをしている感じだ。真ん中あたりの席に通されそうになったので、すぐ帰るからと個室に通してもらった。
「で、なぜ蕎麦が食べたいの?」
彼女の行動に論理的なつながりを求めることのほうが間違っているかもしれないが、とりあえず聞いてみる。『蕎麦が食べたいです』だけでこんなところに付き合う俺も相当なものだと思う。
「『蕎麦でも食って出直してきてくれ』って言われたんです。」
「・・・。お客さんに?」
「はい。」
彼女はさも当たり前だといった感じで答えた。いや、意味がわからん。
「で、なぜ蕎麦でも食って出直さなくてはならないの?」
「わかりません。」
「そう・・・。」
これはこの世代の人の特徴なのだろうか?若い世代の人と話をしていると『コンテクスト、文脈』を伝えるということがわかっていないのではないかと思うような表現、応答が多々ある。まるで一問一答マシーンだ。しかし、それはなんとなくみんなわかるもののはずだ。理解するのに特に訓練は要らないはずなのだが・・・。
「じゃあさ、お客さんがそう言った経緯を教えてくれるかな?」
「はい。ヒアリングをして提案書を作って、お伺いしたんです。それで、提案書の1枚目に『先日の合意事項の確認』って書いて、1つ1つこうでしたよねって確認したんです。」
「ああ。いいんじゃない。」
まともだ。ちゃんと自分で考えてできるようになっているんじゃないか・・・。意外と成長している・・・。
「それで、その合意事項の最後の文章が、『これは合意してないんじゃない、お姉ちゃん。』って言われて。」
「それで?」
「そうすると、『提案自体が違うことになってしまいます』って言ったら、『じゃあ、蕎麦でも食って出直してきてくれ』って言われたんです。」
「そう・・・。」
「はい。提案が10分で終了して、帰ることになりました。」
別に俺を呼び出すことではないのではないか?しかも、こんなに高い蕎麦を奢る必要もなかったのではないのか・・・。と思いつつ、まあいいかと思いつつ。
「いいじゃないか。その事項を修正して、提案を作り直せ。いちいち俺を呼び出すな。」
「でも、この前、ヒアリングした時に確認したんです。『うん、うん』て頷いていたんです。それなのに後日訪問したら言ってないなんて、おかしくないですか?」
「すぐに提案を作り直せばいいじゃん。そこまでさせられて契約できなかったらちょっとイラっと来てもいいけどね。」
「ちょっと『イラ』だけですか?」
「ああ、いちいちお客さんに怒るのか?」
「だって、言っていることが違うなんて許せないじゃないですか。」
「あのねえ、誤解は常に常に生じるの。生じるもんだと思ってやるの。だから、いちいち、『その他質問はないですか?』とか何度も何度も言うことが大事なの。」
「え、言わないとだめですか?」
「言ってないの?」
「はい・・・。」
今日の彼女は少しだけしょんぼりしている。10分で帰れと言われたら確かに気分的に落ちるだろう。しかし、そんなメンタルのケアは自分で何とかしてほしいとも思う。
「・・・。あのねえ、言わないで誤解が生じたら非効率でしょ?そうじゃない?」
「でも、そういうのを聞くと昔の言葉で『ヤブヘビ』って言うんですか、余計な疑問を生じさせそうで。」
「・・・。あのねえ、お客さんが抱く疑問に余計なものなんてないの。お客さんが疑問を抱いたら、それに対しては全部答えるの。それが営業マンの仕事。」
「それじゃ非効率じゃないですか?」
「ほー、言うようになったねえ。効率というのは成果に至る歩留まりが悪くなることを言うんだ。契約ゼロの君の手数がいくら増えても効率は変わらない。つまり君が言うことではない。そう思わない?」
「う・・・、そうです・・・。」
ちょっと意地悪になっている自分を感じるが、たまにはいいだろう。調子に乗りすぎるのも困る。
「相手に1つ1つ丹念に説明して、何かご質問はありませんか?は接尾語だと思って何度でも言うんだ。焦る必要は全くない。焦るとかえってやましいところがあるんじゃないかと勘繰られるよ・・・。」
「そうですか・・・。」
彼女は少し不服そうだ。確かに確認は初めは面倒に感じる。しかし、慣れてくると確認しないことのほうが面倒な事態を招くことが身に染みるようになる。
「そうだ。お客さんが必要なものを買うなら、お客さんが必要なものかどうかを確かめるのは当然だろう?営業マンの説明でわからないところがあったら大変だ。わからないまま契約になったら後でどえらいクレームになって、対応の工数でかえって効率が悪化するよ。クレーム対応とちゃんとした商談のどちらがやりたい?」
「ちゃんとした商談です・・・。」
「クレームになったら隠蔽すればいいと思ってない?」
「う・・・。それは言わないで下さい・・・。」
少しは反省しているようだ。どうせ上司には言ってないだろうけど・・・。
「まあいい。でも、相手が『はい』と言っていても、わかっている場合とそうでない場合があるのは注意が必要だ。『わかる』のレベルには4つあると思っておいたほうがいい。」
「4つもあるんですか・・・。」
「ああ、4つだ。まず最低レベルは、相手が言っていることが聞き取れるレベルの『わかる』だ。」
「そんなの当たり前じゃないですか。」
「いや、聞こえない場合は聞き返すだろう。聞こえているという意味で相槌を打つ人は多い。ひどい場合は営業マンの言葉が早口すぎて聞き取れていない場合もある。音が聞こえても単語を拾えないとかね。このレベルの相槌でちゃんとわかっていると思わないほうがいい。うんうんと頷いていても、聞こえているだけということはあるんだ。」
「そうですか。」
「ああ。そうだ。レベル2は、文章としての言っていることがわかるということだ。『私は火を吹きます』とお前が言ったとして、文章としてはわかるが、意味はわからないだろう?文章として、文法として正しいと思えば『わかる』と言う人もいる。それは頭に入れておいたほうがいい。」
「私はそんなこと言いませんけど・・・。でも、確かに意味がわからないですね・・・。」
「そうだ。そして、次のレベルはその言葉が示している状況が具体的にわかるということだ。くもと言った時に、空に浮かぶ雲なのか、昆虫の蜘蛛なのか、ちゃんとイメージができるレベル。これは意外と難しい。相手が使用したことがない商品がこんな感じで使えますというのをイメージさせるのは難しいだろう?」
「あ、はい。確かにそうです。」
「だから、コストが削減されますだったら、数字でどれぐらいか?を示したほうがいいし、壁の塗装を売る営業マンだったら、カタログには完成した壁の塗装の写真を掲載すべきだろう。言葉で言ってもなかなか難しい。」
「確かにそうですね。」
「最後が一番高度なレベルだけど、文脈としてわかるということだ。例えばお前が突然電話をかけてきて、『蕎麦を食べます』と言われても文脈がわからない。言っていることは聞こえるし、日本語の文法として間違っていないし、蕎麦をお前が食べるイメージは湧く。だが、なぜ突如としてそのようなことが言われるのかがわからない。そう思わないか?」
「う・・・、それはそうです・・・。」
「だから、『文脈としてわかる』のレベルまでわかるような説明の仕方をしないと、誤解が生じているおそれがある。その確認のために、いくら相手がうんうんと頷いていても質問がないかを常に常に確認する必要があるんだ。わかった?」
「はい・・・。でも、大変ですね。そんなに大変なことをしないといけないんですか・・・。なんだか気が遠くなってきました。」
「でも、こんなことはコミュニケーション全般に言えることだぞ。お前は人とコミュニケーションを取るのが嫌なのか?」
「え、はい。どちらかというとコミュ障気味ではないかと・・・。」
「お、自覚があったのか・・・。」
「えー。ひどいー。」
「自分が言ったんじゃないか・・・。やっぱりわかってなかったか。」
「むー。ひどいです。やけ食いです。」
彼女は目の前に置かれていた蕎麦をズーズーと大きな音をたてて食べ始めた・・・。蕎麦は確かにそうやって食べるものではあるが・・・。
個室から見える渋谷の夜景はそれなりに見られるものだ。この真下はホテル街だが、再開発が進んで、大きなビルもけっこう建っている。10年以上前だが、東京電力のOLが殺される事件があったのもこのあたりだったか・・・。
「先生、もっと食べます。」
彼女はそういうと、店員を呼んで天ぷらなどを注文した・・・。まあ、いいのだが・・・。俺はなんでこいつの飯代を払っているのだろうとたまに疑問に思う。そうか、ノウハウにして宣伝材料にするためか・・・。そろそろ書きはじめないと元が取れない気がしてきた・・・。そろそろ彼女に教え始めて半年になる。半年で結果が出ないノウハウはやはり使えないノウハウだろう。いい加減に契約を取ってくれないかな・・・。
「さて、先生。今日のまとめは誤解が生じると結局は効率が悪化する、『わかる』のレベルが4段階ある、『ご質問はありますか?』を接尾語のように使わなくてはならない、でいいですか?」
蕎麦を食べ終わって彼女が言った。よくわかっているじゃないか。ここのところ成長は著しい。まだ不安ではあるが、もう少し続ければ本当に契約は取れそうな気がする。もう少し続けてもいいか・・・。
「わかっているじゃないか。じゃあ、もう1つ追加しよう。」
「えー。」
「そんなに難しくないよ。もう1つは『お客さんが言っていること』と『言いたいこと』が違う場合は多々ある。お客さんに伝える時は、4つのレベルでわかることを意図すべきだし、お客さんの話を聞くときにも、4つのレベルでわかろうとすることが大事だと理解していい。ただ、若いうちはわからないことは素直に『教えていただけますか?』と素直に聞くことも大事だ。しかしこれも程度問題で、お客さんの言っていることを営業マンがあまりに理解できないと、お客さんはこの人でいいのかと不安になることもある。これはわかっておいたほうがいい。」
「理解しました。自分はなるべくお客さんが理解できるように説明すべきだし、お客さんの言っていることはわかりにくくても理解できるようになるべきだって感じですね。」
「そうだ。よくわかっているじゃないか。」
店員がてんぷらを運んできた。彼女はうれしくて仕方がなさそうに天ぷらを写真にとって、食べている。フェイスブックにでも上げるんだろうか・・・。
しかし、人を育てるのは本当に時間がかかる・・・。気が遠くなる。多くの企業が人を育てることを放棄し始めたら、本当にどうなってしまうのだろう・・・。彼女を見ながら、少し気が遠くなる気がした。
本当に企業は研修コストを削り始めている。そして、大学には社会接続という名称で筋の悪い自己啓発ノウハウ満載の不思議な『キャリア教育』が入り始めている。誰も売りつけろと言っているわけでもないのに、『売りつけたくない』と言い始める若手がものすごく増えているように思える。今後10年、どんな荒廃した時代が訪れるんだろうと思うと、正直、こんなことには関わらないほうがいい気もしていた。
解説
さて、いかがだったでしょうか。この章では誤解が生じないようにどうすべきなのか?ということを中心に営業で注意すべきことを見てみました。コミュニケーションと名のつく本が書店に溢れていることを見ればわかるように、意思の疎通というのは非常に難しいです。
お客さんが言う「わかる」には4種類ある。ご不明な点はありませんか?は接尾語だと思っておく。これぐらいで考えておかないと誤解は生じるものです。
誤解が生じて売れなければ機会損失の恐れがありますし、誤解が生じたまま売ってしまえば大クレームになります。誤解で契約させて、リースで解約できないという手法を使う会社がないとは言いませんが、まっとうな会社ならば誤解の発生は避けたいところです。
この4つのレベルについては、わかっておくと非常に使えるので、しっかり理解しておきましょう。
まずは、相手の言っていることが聞こえているレベルでの『わかる』。これは『聞こえる』『聞こえている』『言葉が追える』を提示していると思っておいていいでしょう。滑舌が悪かったり、声が小さい営業マンはこのレベルにすら達していない場合があります。発声や滑舌はしっかり練習しておきましょう。自分の声を録音して聞いてみると、意外と聞き取りにくい言い方をしていることに気がつくことがあります。
公衆の面前で発声練習はしにくいかもしれませんが、お風呂や会議室で早口言葉などをやっておくといいと思います。その上でゆっくりはっきり相手が聞き取りやすいようにしゃべる。意外と忘れがちですが練習の価値はあります。
その上で、文法的に、文章としてわかるレベルの『わかる』があります。これは厳密に正しい文法で話す必要があるということではありませんが、文法的に正しくてもわけのわからないことを話すことも可能です。この構文を整えることをロジカルシンキングだとおっしゃるような方もいらっしゃいますが、このレベルの正しさはあまり意味がありません。売れる営業マンの商談を録音してみると気づくかもしれませんが、売れる営業マンは聞き取りやすい声で話をしていることは多いのですが、必ずしも文法的に正しい日本語を話していません。提案書などの日本語は文法的に正しい必要性はあるでしょうが、話し言葉は必ずしも文法的に厳密に正しい必要はないですね。時代とともに言葉は変わって行きます。この部分はそれほど徹底して正しくある必要はないのです。
次がとても重要です。言っていることの具体的状況が想像できると言うレベルの『わかる』です。ここがしっかりできていれば、それほど誤解は生じません。このレベルで相手がわかるためには何が大事なのか?どうすればいいのか?
本当にイメージができるためには、言っていることに関する『経験の共有』が必要になってきます。ポメラニアンを飼っている人たちが特有の苦労について語り合っているなら、きっとすごくよくわかりあえるでしょう。しかし、そもそも犬を飼ったことがない人はそういう話で盛り上がること自体が難しいのです。
新しい商品の場合で考えると、商品を使うとどうなるか?といったことをお客さんにイメージしてもらうのは非常に難しいです。しかし、ここをある程度想像してもらわないとなかなか成約に至りません。しかも、誤解が生じる場合も大いにあり得る部分でもあり、細心の注意が必要となります。ポイントとしては、コストが削減されるのならば、具体的にどれぐらいなのか?を数字で示したり、オフィスのレイアウト変更であれば、模型やイメージ絵を書いたりすることが必要です。
ただ、実際にやってみてそうでない場合はクレームになってしまうことがあります。私がたまに行く喫茶店ではミ〇ノサンドという商品があって、写真が美味しそうに映っているのですが、実物は写真とは全く違います。さすがに数百円の商品ですので怒る人は少数でしょうが、私は一度食べてみて、『二度と頼むものか!』と思いました。この例は誤解というより詐欺に近いような気がしますが、いろいろな意味で誤解はクレームを生みます。
契約できるか、誤解になってしまうか、一番ポイントになるのはこの部分ですので、よく考えておきましょう。
そして、少し高度ですがコンテクスト、文脈がわかるという『わかる』もあります。多少年齢が行っている人は、この部分の能力がそれなりに高い場合もあるのですが、最近の若い人はこの部分の能力が非常に弱いと思います。
この能力は『空気を読む』に近い能力です。論理学では『語用論』と言われています。研究が本格的に始まったのは1980年代ですので、非常に新しい分野と言えますが、人間が自然にやっていることに過ぎませんので、具体例で見ていきましょう。
文脈がわかるというのは、相手がどのような目的をもって話しているのか?がわかるということとほぼ同じです。
例えば妹が姉に、
「お姉ちゃんのジャケットクリーニングから返ってきた?」
と聞いたとします。
姉は妹の目的がすぐにピンときます。それを踏まえて姉の答えは
「貸さないわよ。」
でした。
つまり、姉から見ると、妹がジャケットを使いたいということがわかって答えているということです。文章の形上の論理から考えると、「返ってきたか返ってきていないか?」を答えることが正しいのですが、姉はそれを聞いている妹の意図、目的がわかるので、その意図を見透かした答えをしているのです。
これは簡単そうに見えて意外と難しいです。これと全く同じマーケティングで使われる有名な事例があります。
あるお客さんがホームセンターで
「ドリルはありませんか?」
と聞いてきました。店員さんは
「ドリルはA4のコーナーにあります。」
とご案内しました。勉強されている方はすぐにわかりますね。これはマーケティングの教科書的にはダメな応答です。店員さんは
「ドリルをお探しですね。かしこまりました。ドリルは具体的にどういったことにお使いの予定ですか?」と聞くのが一応、正解とされます。
お客さんが
「いやあ、板に穴を開けたくてね。」と言ったら、お客さんは板に穴を開けたいということがわかる。だったら穴が開いた板をご案内することができる。お客さんは満足する。そういうお話です。コトラー先生が引き合いに出したことで広まった有名なお話です。
お客さんが「何が目的なのか?何がしたいのか?」によって、提案できることが違うわけです。そして、恐ろしいことに言っていることの意味合いが目的によって変わってくるということです。一問一答的にお客さんが言っていることに答えることは確かにできます。しかし、根本の部分の「何が目的なのか?」「何がしたいのか?」がわかってこないと、1つ1つの質問のつながりが見えてきません。
こういったつながりがわかるレベルまでお客さんのことがわかると素晴らしいわけです。
ちなみに営業マンの意図、目的は『商品を売ること』として、お客さんは営業マンの1つ1つの言動を理解しています。いろいろなカタログを無秩序に出したとしても『ああ、売りたいのだろうな。』と理解してくれます。買ってくれるとは限りませんが、お客さんの目からは営業マンの言動はそのようなコンテクストで解釈される。そこは当たり前ですが、しっかり理解すると、求められる営業マンとしての立ち居振る舞いがわかってきます。
ここで少し脱線しつつもう少し深堀りします。
お客さんが何がしたいのか?によって、購買において重視することとその優先度が定まってきます。これは、お客さんの購買における価値観を示していることになります。
価値観とは何か?というのは小学生で本当はやるのですが、学校でも真面目に解説しなくなってきているようなので、ここで解説します。
児童文学の大きなテーマの1つとして、経験を通じた価値観の変容、つまり成長、があります。家族の誰かが死んだりして、その経験で僕が落ち込みつつもたくましく変わっていくとか。別世界を覗き込んでそこでの経験を経て、行動が変わるとか。そういった作品を読んだことはあるでしょう。
しかし、最近の大学生を指導していく中で、価値観が固定的であるかのような思い込みをしている人を多数見かけるようになりました。それなのに自分では成長を求めていると言ったりしている人を見かけます。これはとても不思議な現象です。『価値観は変えたくないけど成長したい』という人がいるのです。
価値観は大事なこととその順序です。そして、大事に思っていることによって、日々、見える風景が相当変わってきます。サッカーが好きな人はサッカーのニュースが目に飛び込んできますし、バレエが好きな人は、ひっそりと存在しているバレエショップの看板が目につきます。同じ道を歩いていても、目につくものは違うのです。
そして、その大事なものとその順序はこれまでの経験で作られています。小さい頃に経験したことから、決まってきています。そして、全く同じ経験をしている人は絶対にいません。肉体がある以上、同じスペースに2人の人がいることなどできないのですから。同じテーブルを囲んでいても、座る場所、これまでの経験によって、今の出来事の経験の仕方は変わってきます。個性を主張せずとも、そもそも見えている世界、経験している世界は違うのです。
これに気づくと、自分と全く違う意図、目的を持った『他人』というものがこの世界にいることに気づきます。その『他人』の見えている世界を垣間見るだけでも一苦労だということがわかってきます。そして、自分の意図、目的の固有性に気づき始めます。その上で、『他人への敬意』が芽生えてきます。
お客さんの意図、目的がそれぞれ違い、商品をお届けする側の自分の意図、目的があり、たまたま契約が成立した時にお互いにお互いのメリットが生まれることになります。この奇跡的な『交換』という出来事に出会うわけです。
ここがわかっていれば、そもそも『売りつける』というのは他人を見下していなければできない表現だということがわかってきます。ここから教える方法論もないことはないですが、なかなか難しいですね。自分の見えている世界と他人の見えている世界が完全に違うことを実感させるためのワークなどがどうしても必要となってきます。
難しい話ですね。ごめんなさい。脱線はここまでにしましょう。
さて、本当にあと少しで彼女は売れそうな感じになってきましたね。この先どうなるでしょうか。次はいよいよクロージングを先生が説明してくれます。それでは、次の章をお楽しみに。
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