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日本企業で職種別賃金が進まない理由/株式会社新経営サービス 人事戦略研究所

INSIGHT NOW! / 2015年10月22日 10時0分


        日本企業で職種別賃金が進まない理由/株式会社新経営サービス 人事戦略研究所

株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 / 株式会社新経営サービス

日本で馴染みの深い年齢給や家族手当、住宅手当といった発想は、ほとんどありません。その人が何歳であろうが、子供が何人いようが、仕事内容とは関係なく、基本的に賃金に影響させることはないのです。アメリカの企業などでは、通勤手当すらないケースも珍しくありません。どこから通勤しようと仕事には関係ない、ということなのでしょう。
> すなわち、日本では『人』に対して給与が決まってきたのに対して、欧米では『仕事』に対して決まる給与体系(=職務給)が一般的です。

職務給で重要なのは、職務を適切に評価するということです。職種や職務を区分し、それぞれの責任の重さや難易度、影響度の大きさといったことを判定し、値決めする。転職によるキャリアアップも活発なため、企業は同業種や同地域における他社の給与水準を、日本以上に気にかける。他社より劣っていれば、優秀な人材を引き付けられない、と考えるからです。
 もちろん、日本でもパナソニックは、ソニーやNECの給与水準をチェックしているでしょうし、意識もしているでしょう。ただし、それは他社への転職を恐れてのことではありません。パナソニックの社員が、ソニーの方が少し高給だからという理由で、転職することはあまり考えられないからです。

一方、欧米は『仕事』によって賃金も異なるのですから、職種ごとに賃金水準が違うことも、ごく自然なこととなります。生産職より生産技術職の方が高給であったとしても、そのこと自体は当然のこととして受け止められる。より高給を望むなら、技術を勉強して生産技術職に異動させてもらうか、社内で叶わなければ、他社の生産技術職に応募すればいいのです。

インドや中国も職種別賃金

また、このようなことは先進国だけに限ったことではありません。成長著しい中国企業でも、営業職と技術職、事務職、生産職では、給与水準や給与体系は大きく異なるケースが多い。ただし、中国の場合は、都市部と地方では所得格差が著しく、地域別・職種別賃金といった方が適切かもしれません。
インドでは、IT技術者になれば、普通の仕事の何倍もの給与を得られるため、優秀な子どもの多くが情報工学系の大学を卒業し、ITエンジニアになることを目指します。なおかつ、国もそれを後押しします。日本がIT技術の分野で、インド・中国に追いつき、追いこされた背景には、このような事情があるのです。

このように見てみると、主要国のほとんどは、職務を中心に置いた賃金体系であることが分かります。

日本以外は、職種別賃金が主流の考え方であるといってもいいでしょう。
では、なぜ日本企業では、職種別賃金が浸透しないのでしょうか?

「上場企業の約2割が導入、約3割が検討中」

社会経済生産性本部の調査による、職種別賃金の実施状況です。
サービス業に限定するとやや導入率は上がりますが、逆に製造業などでは2割を切る水準となってしまいます。前回、職種別賃金は世界のスタンダードであるということを紹介しましたが、どうして日本企業ではなかなか浸透しないのでしょうか。

この調査では、導入予定がない企業に、導入しない理由を尋ねていますが、
・「柔軟な異動配置やキャリア転換などができなくなる」
・「職種毎の市場が明確でないため賃金水準の設定が困難」
という回答が多く出ています。

導入企業においても、
・「職種毎の市場が明確でないため賃金水準の設定が困難」
・「賃金水準の低い職種の従業員のモラールダウンがおこる」
といった導入・運用時の課題が挙げられています。

日本企業の特徴の1つとして、『職場ローテーションによる人材育成』があります。さまざまな職場を経験させることで、ゼネラリストを育成しようというのです。その際、職種ごとに給与水準や体系が違えば、人事異動がしづらくなる。したがって、職種別賃金導入には躊躇してしまう、ということになります。

しかしながら、職種転換時の賃金については移行措置を設けるなど、解決可能な課題といえます。むしろ「そんな面倒なことをしてまで、導入するだけの強い必要性を感じてこなかった」というのが企業の本音ではないでしょうか。

事実、導入企業には強い動機が存在します。レストランにおける調理師や、運送業のトラックドライバーなど専門性が高く、職種間異動の少ない仕事を別体系にしたい。同様の理由で、病院などは完全な職種別賃金業種です。
また、製薬会社などでは、労働市場で人気の高い研究開発職やMR(医薬情報担当者)の待遇を少しでも良くし、採用競争力を高めておきたい、という動機があります。

そう考えると、多くの中堅・中小企業では、導入の条件が揃っているといえます。
「営業マンの待遇を高めにしておきたい」「工場と本社の給与は分けておきたい」「店舗部門には本部よりも、業績によるインセンティブを高めたい」「少ない昇給原資を重点的に配分したい」といったニーズをもっている会社は少なくありません。なにより、大企業のように、ローテーションによる人材育成を強く打ち出している企業は限られています。

以下に、職種別賃金に適した会社の特徴を挙げてみます。意外と、「ウチのことじゃないの」と思われた方も、いらっしゃるのではないでしょうか。ちなみに弊社では、「部門別賃金」「職種別賃金」は、20年以上前から導入されていますので、社員の誰もが当たり前と考えています。 このように、職種別賃金への移行環境は、整ってきているのではないでしょうか。

【職種別賃金に適した会社の特徴】    【職種別賃金に制約の多い会社の特徴】

・成果主義人事を指向している   ⇔  ・年功的要素を重視している
・職種別採用を積極的に行っている ⇔  ・配属職種は、入社後に決定している
・地域別採用を実施している    ⇔  ・本社一括採用を実施している
・専門性の高い人材を求めている  ⇔  ・社風に合った人材を求めている
・職種間の異動は少ない      ⇔  ・職種間の異動も積極的に行う
・優秀な外部人材の獲得に積極的  ⇔  ・あくまで社内人材の育成を基本とする

執筆者:山口 俊一

人事戦略研究所 所長

人事コンサルティング、講演、執筆活動を中心に活躍している。職種別人事をベース

にした独自の発想と企業の実状に沿った指導により全国からコンサルティング依頼を

受け、定評を得ている。現在までに中小企業から一部上場企業まで、200社以上の

コンサルティング実績を持つ。主なコンサルティングテーマは人事評価・賃金制度の

構築、組織運営など。

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