善い購買部の作り方/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2015年10月1日 17時50分
野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ
今年の2月頃だったかと記憶していますが、日経ビジネス誌が「善い会社」のランキングを発表していました。会社を単なる「営利組織」としてではなく、働き手、顧客、取引先、地域社会、投資家などの多様な利害関係者、つまり社会への貢献が求められる、と定義し、利益の向上と社会への貢献の一体化を評価しトップ100社を公表したものです。
このように近年は利益と共に社会への貢献が善い会社の条件となっていることは当然の流れになってきました。
デフタ・パートナーズのグループ会長であるベンチャーキャピタリストの原丈人氏も「会社は株主のものである」という考え方は間違っており、高度経済成長期の日本企業のような「公益資本主義」的な会社が「善い会社」であると提唱しています。
原さんが提唱する「公益資本主義」とは株主だけでなく従業員、顧客、取引先、地域社会、さらには地球全体のことを社会の構成要素として、社会全体に広く利益を還元する社会のことです。
また、かつての日本には公益資本主義的な発想を持つ経営者が数多く存在し、今でも日本には公益資本主義の土壌があると考えています。
原さんは日本企業は従来の欧米の「株主資本主義」から脱却し「公益資本主義」のお手本となり世界に発信していくべきだとおっしゃっているのです。
以前のメルマガでも触れましたが私もこのような日本型なるものに対する回帰が起こりつつあり、購買の世界でもそれが顕著にでてきていることを繰り返し述べています。
例えば行き過ぎたサプライヤ集約、競争の強化等は一部の企業や商材では限界がきており、サプライヤとの関係性づくりやサプライヤとの協働作業が望まれつつあること。
これは歴史的には正に日本企業が得意な手法と言えます。またサスティナビリティ重視(持続可能性)についても同様で、単年度の収益や目先の株価の維持が最重要課題である企業にはこのような中長期的な視点から「持続可能な」サプライチェーン構築などできるわけがありません。
また人材育成や部門改革の柱となる日本的「課長」の存在も、一時期は課長不要論が多かったものの今後見直されていくと考えます。
このように会社全体もしくは購買部にとっても日本型なるものの回帰が望まれている方向なのです。
しかし、回帰といっても10年前、20年前の状況にまた、戻ればよいか、というとそれは違います。10年前、20年前の日本企業における調達購買の状況は産業革命前の状況と言っても過言ではありません。属人的な組織であり交渉術の長けたバイヤーや声の大きなバイヤーが偉いというような状況でした。望まれるのは欧米型の合理主義、標準化、効率化と日本型の中長期的視点を伴った施策を融合させることです。これが今後の調達購買の発展につながるでしょう。
それでは具体的に良い購買部を作るために必要な条件とはなんでしょう。
私は少なくとも2つのことが必要となると考えます。
一つは調達・購買部門のミッションづくりです。今年の3月に発行しましたメルマガで大手企業3社の調達部門の行動指針についてふれました。
http://www.agile-associates.com/2015/03/201534.html
行動指針でもクレド(信条)でもビジョンでもミッションでも、どんなレベルのどんな呼び方でも結構です。いずれにしても「部門長の思い」を価値観として共有させることが重要。
ミッションを持っていて価値観が共有できている企業は中長期にわたり調達部門が何を果たすべきか、そういう中でバイヤー各人がどのような役割を果たしていくべきなのか、これらを良く考えている「ぶれない芯」を持っています。これは意思決定のスピードアップにもつながることです。昨今複雑化している経済環境の元、多くの社員が意思決定をする場面が増えています。こういう場面であっても社員全員が共通の価値観で間違いのない意思決定ができる組織は強い組織です。
これも日経ビジネスオンラインの記事の情報からですが、ダイエーなどの多くの企業再建に成功しているアドバンテッジパートナーズの代表パートナーであられる笹沼氏は自身の経験も踏まえこう述べています。
「まず、きちんと企業理念なり部門理念をつくりチームと共有すること。これが会社経営、または部門運営に大いに役立ちます。心が通じあう時に組織が発揮する力は非常に大きいと思います、」と。
もう一点良い購買部門をつくるために必要なことは「仕組みで回す」ことです。多くの日本企業には(特に購買部門は)必要な仕組みが欠如しています。
例えばお客さんやネットワーク会などで多くの購買部門のマネジメントの方と話をしていて「結局は人のスキルややる気、意識なんですよね。」という会話になることがあります。
それはその通りかもしれません。それでは「人のスキル」や「やる気」「意識」を改革するために何か仕組みを作っていますか、という問いに対しては殆どの企業が「No」です。
最近はスキルについては必要なスキルを定義し、不足するスキルを育成していこうという企業もでてきています。しかし「やる気」とか「意識」改革などには手がつけられていない企業が殆どです。
「仕組みで回す」というと難しいし場合によってはお金がかかると思われますが、例えば「担当を設定して計画的に中長期で指導させる」なんていうものでもいいのです。もしくは「上長承認で徹底的に鍛える(昔は皆そうでした)」でもいいのです。そういう継続的、意図的にやる気や意識を改革する仕組みを持たない限り、人なんて変わる筈がないのです。
これらが良い購買部作りに必要なの2つの条件です。
と書いていて気がついたこと。何もこれは購買部だけの話ではないな、と。あらゆる部門運営にあてはまることですね。
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