マンション・リスクと限界国家/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2015年10月15日 12時30分
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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
たしかに、都心で、ある程度の広さのある住居は魅力的だ。とはいえ、もちろん一戸建てというわけにもいくまい。となると、マンション。最近は、プール付きのスポーツジムはもちろん、便利なショッピングモールが隣接するような、大規模開発物件もある。
しかし、今回の一件。残念ながら、どうにもならないのではないか。単純なミスですら、建物の基礎部分となると大きな問題なのに、どうも意図的な手抜きで、それがバレないように作為的なデータ改竄の隠蔽までやっている。規模が規模だけに、だれか一人がやって、他のだれも気づかなかった、などということがあろうはずもなく、組織的な、場合によってはトップ層も承知のことか。文字通り、地中の奥深く埋めてしまえば、だれも掘り返しはしない、と思ったのだろう。そして、ゴキブリのように、1匹見たら20匹を疑え、という方が実際に近い気がする。
どうにもならない、というのは、改修の規模だけの問題ではない。所有権が大勢に分割されてしまっている以上、所有者たちの中での意見調整コストが莫大すぎる。それぞれに年齢や所得も異なり、家族構成も、学童や通勤の都合、ローンの支払形態も異なるだろう。いくら売り手側が、誠意を持って、などと言っても、そんなもの、買い手側の意見がまとまらないのでは、どうしていいか、決まりようがない。
よく、購入と賃貸、どっちが得か、という話があるが、たいていはもっぱらローンと家賃の比較。今回のような所有リスクを考えていない。所有者は、他人に売却できないかぎり、当事者責任を負い続ける。それも、戸建てなら自分で交渉や決断もできるが、こういう広義の「共有」では、一人で勝手なこともできない。かといって、売却して手を引こうにも、すでにトラブルが発覚しているマンションの所有権など、好んで買う第三者がいるわけがない。
すでにバブル期に建てられたリゾートマンションでは、相続などの結果、所有者が不明確になり、管理費滞納が蔓延し、水道や暖房、エレベーターなどの共有施設の保全改修すらままならないところが続出。都心の高級タワーマンションなどでも、外国人が投資のために買いあさっているものも多いそうだから、これから同じようなトラブルが多発して、設備の更新が必要となる築20年目あたりで急激に廃墟化するのかもしれない。
有名企業のマンションだけではない。超巨大グループですら、事実上の粉飾決算。こんな信用ならない国でヘタに投資などできたものではない。にもかからず、いや、それだからこそ、近年は行政までもが、わけのわからない「共有投資」を強いる。年金なんて、その最たるもの。頼みもしないのに、将来のためにまとめて運用してやろう、なんて言って天引きして、実際は老人世代が原資を山分けにして食い潰してしまっている。政治家たちは、短命な任期中の人気しか考えず、地元ブランド創成だの、第三セクター公共施設だの、一億総活躍だの、およそ民間企業の水準にはるかに劣るドシロウト以下のデタラメのバラマキ。いずれその手を広げすぎたツケで、水道や道路などのような本来の生活基盤の方の保全改修が滞るのは、自明の理。
共有はもちろん個人でも、この国の中で資産や地位を持つこと自体が、もはやリスク。人口減少というのが、ファンダメンタルの致命的なボディブローなのだから、まさにあのマンション同様、行政も企業も社会も、なにもかもが傾いていくことは必至。つまり、この日本そのものが、限界集落ならぬ「限界国家」へ突き進んでいる。このリスクをヘッジするには、「賃貸」的生活、つまり、できるだけ余計なものは持たず、なにごとも経常費用と割り切って即金支出で決済し、ヘタに立身出世して責任者になったりせず、むしろ、いつでも身ひとつで海外脱出しても生活が成り立つように、手に職を付け、語学に励んでおく。残念ながら、それくらいの対策しか思い浮かばない。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)
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