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問題は、「家」なんじゃないか。/川口 雅裕

INSIGHT NOW! / 2015年11月13日 8時0分

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川口 雅裕 / 組織人事コンサルタント

家に子供がいるのは、せいぜい20~30年くらい。進学や就職や結婚でいつかは出て行ってしまう。残された夫婦は50歳代中盤で、男はあと10年くらい会社で働き、女は夫の世話とパートなどの仕事を掛け持ちしながら頑張る。60歳代も半ばを迎えて男は定年退職して家にいる時間が増える。本格的な夫婦二人の生活の始まりだ。5年や10年でそれは終わりではなく、20年以上は続く。

そんな夫婦が暮らすのは、広い一戸建やマンションだ。使わない部屋があるし、広すぎて掃除が面倒だし、庭があれば手入れもしなければならない。それに、広すぎるのは何だか寂しい。築20~30年も経てばガタもくるし、地震も不安だし、スキ間があって冬は寒い。買った当時と違って寂れてきたり賑やか過ぎたりして、周辺の環境も気に入らなくなってきた。若い頃には気にもしなかった坂道や段差に、つまづくことがあった。昔は通勤があったから駅近が良かったが、今や電車は週に1~2度しか使わない。評判の良い学校の校区を選んで買ったが、子供もいないので今やどうでもよいことだ。もはや職場仲間もおらず、同世代の知り合いも引っ越して少なくなり、誰とも会話しない日がある。

そんな前向きになれない環境でも、健康でいたい、長生きしたいと思う。だからウォーキングをしたり、スポーツクラブに行ったり、サプリや健康食品を口にしたりするが何か虚しい。健康や長生きが目的になってしまっており、本当にしたいことが見つからない、何のために健康維持に努めているかが分からないからだ。とは言え、病気や介護状態にならないか不安を覚える。病院や介護事業所は近くないし、もしそうなったら誰かが見つけてくれるか、手助けしてくれるか。衰えは避けようがないから、いくら健康維持に励んだって、このような不安が解消されることは決してない。

こういった高齢者の心理を考えると、問題は「家」なのではないかと思う。家に対する不満や不安が多くあり、高齢期の暮らしをネガティブなものにしてしまっている。また、家が事故を誘発したり、孤独を助長したりして、衰えを早めているようでもある。面倒から解放されたい、人と交流して元気に暮らしたい、ケガや病気や介護の不安を解消したいと思うなら、高齢期に合う家に引っ越せばどうだろう。必要なだけの広さと部屋数、いざというときに手助けやサービスが受けられる、人との交流がある。そういう家に住み替えればよい。ライフスタイルに合わない家に住み続けた結果、早く衰え、要介護状態になって子らの世話になり、しばらくして施設に入所、あげくに病院で終末治療を受けて死を迎えるといった高齢期は本人も嫌だろうし、家族も苦労するし、社会的にもお金がかかる。

住み替えは、予防医療のようなものだ。高齢期に適した住まいに引っ越して、社会とつながりながら元気で楽しく暮らせば、衰えは遅くなり、寿命と健康寿命の差が縮まる。だから、健康寿命の延伸と社会保障費の削減には、健常高齢者の住み替えに対して予算措置をとるのが効果的だ。国が進める「生涯現役社会」「病院から在宅へ」という方針とも合致する。要介護者を対象とした医療・介護、要介護者対象の老人ホームやサービス付き高齢者住宅などの施設に対して、税金をつぎこみ続けても問題はいっこうに解決には向かわない。予防注射や健康診断が当たり前になったように、高齢期の住み替えが衰え予防として当たり前のようになれば、超高齢社会の諸問題はかなり解決するはずだ。

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