評価と教育をリンクさせる 2/株式会社新経営サービス 人事戦略研究所
INSIGHT NOW! / 2015年12月17日 14時5分
株式会社新経営サービス 人事戦略研究所 / 株式会社新経営サービス
少し前に、「評価傾向」について述べました。よく耳にする「ハロー効果」
「寛大化傾向」「中心化傾向」「対比誤差」などです。
私共が行う評価者研修でも、これらについて説明し、評価者に注意を促します。
研修の受講者も、「なるほど」という表情で聞いていますが、自分がどんな
評価傾向を持っているかは理解できていないようです。
それらを客観的に伝えるには、評価結果を集計・分析し、それぞれの評価傾向
を他人と比較するのが効果的です。人事評価結果をオープンにしていない会社
では難しいですが、ある程度オープンにしている企業では可能です。
分析するにあたっては、評価者自身が下した評価について、下記の2つを確認
します。
観点①...のべ評価項目数(=部下の数×評価項目数=)のうち、どの評価評語
に何割が配分されているか
(例)各評価項目を1~5点で評価するなら、
1点=○%、2点=○%、3点=○%、4点=○%、5点=○%
観点②...部下の自己評価(実施している場合に限る)の点数について、アップ
させたか、ダウンさせたか、維持したか
(例)部下の自己評価点を引き上げた=○%、
引き下げた=○%、変えなかった=○%
こうやって可視化していけば、例えば「中心化傾向」なら観点①において3点の
割合が増えますし、「寛大化傾向」なら観点①において1・2点より4・5点の
割合が増えます。
また、「厳格化傾向」なら観点②において部下の自己評価点を引き下げる傾向が
強く出るかもしれません。これらを他の評価者と比較すれば、自分がどんな評価
傾向を持っているのか、より理解しやすくなります。
ただし、分析においては、(1)部下の自己評価が高過ぎないか、低過ぎないか、
(2)部下の仕事レベルが相対的に高過ぎないか、低過ぎないか、
(3)評価項目の記述内容に大きく影響を受けていないか、等を確認する必要が
ありますが、しっかりと分析をすると、評価者自身に良い気づきを与えられます。
一度、お試し下さい。
多面評価(360度評価)の活用①
「部下が上司を評価する仕組みを検討したい」
という相談を受けることがよくあります。色々と議論する中で、人事評価制度として
活用することはほとんどありませんが、活用できる事例もあります。
これから何回かに分けて、上司が部下を評価する以外の評価(多面評価、360度
評価)について述べていきます。
まず、多面評価を人事評価として機能させる上で難しい点について挙げてみましょう。
<縦方向の評価として>
縦方向で考えられるのは、①上司からの評価、②部下からの評価です。
①は通常の人事評価ですので、ここでは割愛します。
②の問題点として、正確な評価が出来ないことが挙げられます。上司が正しい評価を
できるのは、部下がなすべき仕事(成果、必要な職務プロセス)を分かっており、
自分自身もその経験をしたことがある、という前提がありますが、部下ではその
見識・経験がなく、正確な評価が難しいと言えます。
<横方向の評価として>
横方向で考えられるのは、③他部署からの評価、④顧客・取引先からの評価です。
共通して言えるのは、普段の業務内容を見られず、あくまで一面を見ているに過ぎ
ないことです。縦方向の評価と同じく、正確な評価が難しいと言えます。
人事評価における多面評価について、本来の目的に立ち返ってみると、「上司だけ
では評価できない、様々な観点を取り入れたい」ことであると考えられます。
であれば、「部下マネジメント状況」「他部署との連携」「顧客・取引先への対応」
について評価項目に記載し、その部分のみ多面評価を実施することで十分に目的を
果たせますが、全て行うのは手間と時間がかかり過ぎます。
それなら、これらを人事評価項目に入れておき、上司が日常業務においてそれぞれの
対象にヒアリングし、その評価事実をもとに評価点をつければ事足りる、ということ
になります。
以上の前提に立つと、多面評価を給与考課・賞与考課にそのまま取り入れるのは
無理があると言えますが、少し工夫を加えると活用方法もあるものです。
多面評価(360度評価)の活用②
人事制度における多面評価の目的は、「上司だけでは評価できない、様々な観点を
取り入れる」ことであると述べました。では、具体的な評価項目例を見てみます。
(内容は、部下の上司評価を想定しています)
<ある企業の評価項目例>
① トラブルから逃げず、責任を持って対応しているか
② 部署をまとめるにあたって、言行一致しているか
③ 理念・方針を自ら口にし、確実にメンバーに伝えているか
さて、これら評価項目例は、何を知るために評価するのでしょうか?
・・・・・・・・・・
共通点は、「リーダーとして取るべき行動・発言を実践しているか」ということ
です。特に、被評価者の仕事をマメにみられないのに評価しなければいけない場合、
例えば小売業においてエリア長が店長を評価する場合などに有効と言えます。
ただし、一人の部下のみが評価すると、上司・部下の関係性に大きく影響を受ける
ため、最低でも3名程度の部下が評価するようにします。また、誰が評価したのか
が分かるとトラブルを誘発する恐れがあるため、人事部主導で匿名性を高めて実施
することも重要です。
多面評価制度を管理職に対して実施している企業は、13.9%(労務行政研究所
調べ)となっています。しかし、その中身を見てみると、「昇進・昇格の参考資料」
「上司による人材育成の促進」「本人のきづき」が目的であり、昇給や賞与に活用
している企業は少なくなっています。
多面評価(360度評価)の活用③
多面評価は非常に有効な手法ですが、人事評価制度の一部として処遇に大きく反映
させるのは難しく、世間でもそれほど採用されていません
企業が研修スタイルで社員教育を行う場合、大きく2つの方法があります。
一つは、知識や技術を習得するための研修で、ロジカルシンキング研修や、計数
能力強化研修などがそれにあたります。
もう一つは、参加者に "気づき" を促し、今後の行動変革につなげるための研修
ですが、多面評価の実施は非常に有効なツールになりえます。
非常に有効と言えるのは、教育研修のツールとして活用する場合です。
気づきを起こす手段の一つとして、自分が考えていた"自分像"と、他人から見た
"自分像"を比較する方法があります。自分では、それなりに考え、場合によっては
信念を持って日頃の言動を行っているものの、他人からは違った印象を持たれている
ということが多々あります。
上記に、弊社が研修時に使用している多面評価シートのサンプル(実際は、各企業に
合わせて設問を加工します)を掲載していますが、こういった設問について自己評価、
上司評価、部下評価、他部署評価などを行うことにより、自分が認識している自分と、
他人から見た自分を比較します。
実際の研修では、特に自己評価と他人評価のギャップが大きい項目を中心に、「何故
そのような評価結果になったのか」を検証することで、新たな気づきにつなぐことが
できます。
ただし、評価結果は非常にシビアなものである可能性も高いため、参加者が評価者を
特定できないようにするなどの工夫が必要です。安易に取り組むと、参加者のモチ
ベーションを下げたり、会社の雰囲気を悪くしたりする恐れがあります。
専門の外部業者に依頼した方がよいと言えます。
執筆者:森谷 克也
人事戦略研究所 マネージャー
事業会社で営業職や販売管理職を経験した後、前職ではマーケティング・営業強化の
コンサルティングに従事。現在は、5~10年先の内部環境・外部環境を想定し、企業の
成長を下支えする「組織・人事戦略」の策定・運用が図れるよう、≪経営計画 - 人事
システム -人材育成 ≫を一体的にデザインする組織開発コンサルタントとして実績を
積んでいる。また、カタチや理論に囚われない、中小企業の実態に即したコンサルティ
ングを身上とし、現場重視で培った独自のソリューションも多く開発している。
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