プロでなくても職場のメンタルケアに取り組める、ウェルビーイングの概念とは (1) - 人を活かし、組織も活かす/おおばやし あや
INSIGHT NOW! / 2015年11月20日 5時12分
おおばやし あや / SAI social change and inclusion
うつ病、心の問題と職場との関係
「日本は職場のうつ病ケアは先進16ヶ国中最低である」(デンマーク・ルンドベック社調べ)という不名誉なニュースが春に発表されたのも記憶に新しく、12月より「社員50名以上の会社の年1度のストレスチェックが義務化」されることも決まり、さらには職場でメンタルケアに取り組むことが望ましい…という政府からの無茶ぶりに、一体どうしたらいいのかと悩まれている人事、管理職の方もたくさんいらっしゃることかと思います。
WHOによれば、日本人の10人に1人が過去にうつ病と診断された経験があるというものの、実際の患者はその数倍いるだろうとしています。また内閣府の統計を見ますと、近年の自殺の理由の第4位、約11~12%は「勤務問題」にあり、個人レベル、組織レベル、また社会レベルで影響を与えるものとして、職場の在り方というのは今後もずっと見直され続けなければならないでしょう。
私はフィンランドにて約4年学び、メンタルケアを含めた福祉系(ソーシャルサービス)の学問を修めようとしていますが、それ以前は東京のIT系企業に勤め、自身を含め社員の心の問題、うつ病ケア・防止に深く悩まされてきました。
チームワーク、生産性、売り上げの減少や人事に大きな打撃を受けるのはもちろんですが、何より身近で苦しむ仲間のために大したこともできず、時に去っていく彼らを見送るしかなかったのが、今も忘れられない非常に辛い経験です。
「精神医学や心理学のスペシャリストでなくても、心の問題には立ち向かえるはずだ。人は本来自分の力で生きるための力を持っているはずなのだから。しかしそのためにはどうしたら良いだろうか」という信念と疑問は、その時代からずっと私を突き動かしているものです。
その問いの答えを知るためという動機もあり、大枠では「苦しむ人の少ない良い社会というのはどういうものか」の答えを見つけるため、この国に来て理論と実践を学び、また途中より関連サービスにてフィンランドと日本で事業を興させて頂いています。
相変わらず未熟もので、人に多くを教えられるほどのものではありませんが、特に日本でこの問題は待ったなしです。うつ病ケアの必要性は身に染みて理解していますし、知識を活かそうとしてこその学びです。
このシリーズでは、「メンタルのプロでなくてもできる、職場のウェルビーイング向上」をテーマに、職場での身近な福祉、エンパワーメントからうつ病予防・改善について考え、様々な提案をさせて頂ければと思います。
well-being(ウェルビーイング)…より良く生きるという概念
私は、今後の日本には必ずwell-being(ウェルビーイング)という考え方が必要になってくると思っています。
well-beingは欧米や、特に今いる北欧では非常に一般的な言葉ですが、日本ではまだそれほど良く知られていません。辞書を引くと、福祉、幸福、福利、健康といった訳が出てきますが、「福祉(welfare)」よりもより広義に、全ての人がより良い人生を全うできることを指します。
私の学んだのは、大枠では「社会意識を持ち、抑圧されているクライアントと実際に接し、彼らのウェルビーイング向上を手助けすることを通して、最終的にはより良い社会の実現を目指す」というような幅広い学問です。これを学んだ学生は、カウンセラー、ソーシャルワーカー、様々な福祉施設の職員、国連やNGO・NPO職員、社会起業家まで広く就業の機会があり、これらの共通点は「社会問題に取り組む仕事」と言えます。
このウェルビーイング特徴を、馴染みのなかった日本育ちの自分が言うならば、「趣味などの文化的活動から、うつ病の防止やケアまで、ハンディがあるなしに関わらずどんな人でも自分の人生をより健康に豊かにする権利があり、実現されるべきだ」という概念であろうと思います。
福祉は高齢者や障がいを抱える方のためのものと認識されがちですが、ウェルビーイングは「誰にでも」というのがポイントで、自分はそこそこ健康だからと、サポートを受けることに引け目を感じる必要はありません。簡単で当たり前のようでいて、実現はとても難しく、しかし「人生は自分のもの」なのですから、より良い形で人生を全うするというのは、誰にでも等しく与えられた、実行されて当然の人権のはずです。
そしてそれが実現されていない状況が、個人の心の問題から、差別問題、社会問題といった大きくてシリアスな現象を生み出しますし、逆にその問題に苦しめられている個人のウェルビーイング向上を目指すことで、社会問題も改善に向かう、というものです。
ストレスチェックが義務化されることで、もちろん良い面もあるでしょうが、人の心の問題が数値化、形骸化され実を持たなくなることへの懸念もあります。人の心というのは、ご存じのとおり、簡単なものではありません。ハイやりましょう、ハイできた、というものでは決してないのです。
メンタルに取り組む、うつ病予防やケアに取り組む…というのは、専門家でない我々には、時に一体どこを目指して何をしたら良いかわからないところがあります。しかし、ウェルビーイング…「より良く在る、より良く生きる」という、人として当然のことに職場でも正面から取り組むこと、「人を活かし、組織も活かす」という視点で進めていくと決めれば、それほど難しくならないのではないか、と考えます。
例えば、「より精神的に落ち着く環境」「うつ病を緩和できる方法」という視点で改善点を探すのではなく、「この人がより活きるには」「自分たちが快適だと思う、安らぐのは」という視点で、仕事や環境について、状況を見据えつつ内部から改善を考えてゆくやり方です。
労力と時間を無駄にしないためにも、「(義務だから)やらされてやる」のではなく、「成果の向上を目指す組織として主体的に行う」という視点で、ストレスチェックも含め、職場のウェルビーイングの実現を実行可能なレベルで考えていってはいかがでしょうか。
次回も引き続き、ウェルビーイングについて考えていければ…と思っています。ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
関連記事:プロでなくても職場のメンタルケアに取り組める、ウェルビーイングの概念とは (2)- 「今、できること」に焦点を当てる
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