ショッピングモールが死んでいく/純丘曜彰 教授博士
INSIGHT NOW! / 2015年11月30日 5時0分
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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学
生ける廃墟、稼働4/200店、などと揶揄されたピエリ守山が昨年12月17日に華々しくリニューアルオープンして、かれこれ一年。だが、調子が良かったのは、最初の数ヶ月だけ。昨今、早くももう、あまり芳しいウワサは聞かない。リーマンショックのせいだ、とか、立地が、近隣競合が、とか、いろいろ言われたが、再生もできずに、事実上、潰れ去ったショッピングモール、アウトレットモールは、大阪貝塚のコスタモール(1999〜2009)、岐阜のリバーサイドモール(2000~10)、千葉のコンサート長柄(2004~09)などなど、数知れず。このほか、閉店したダイエーの専門店街などまで入れれば、さらに膨らむ。まだ潰れていないが、潰れるのは時間の問題というところも各地に点在。
しかし、これは日本だけの問題ではない。郊外型モールという業態を展開してきた米国は、いまや全州が「デッドモール」だらけ。その先駆けのひとつ、セントルイス州クレスウッドコートは1957年にオープン、157店舗あったが、2013年に閉鎖。ドイツでもシュヴェニンゲンにできたレスレ・ショッピングセンター(2010~)が開業当初から廃墟状態で、いまだに揉め続けている。2350店営業可能と世界最大を誇る中国の華南モール(2005~)は、わずか数店のみでもなおまだ営業中とか。
後発のものは、いかにも計画そのものの失敗のように見えるが、全体を見れば、歴史のあるものも含め、じつは、2009年ころからバタバタと潰れ始めた、と言った方がいい。2009年と言えば、2007年末からのサブプライム、08年9月のリーマンショック、そして、10年のユーロ危機に続く経済混乱の時期だが、このころになってもなお、不景気や海外移転で国内の古い大規模工場などが売却され、その跡地に新規に郊外型モールが計画され続けた。そして、イオンモールやララポートなどのように、うまく軌道に乗ったところもある。つまり、郊外型モールの衰退を、一概に経済状況悪化のせいにはできない。
むしろ重要なのは、この時期にamazonを初めとするネットモールが一般化してきたこと。また、世界的に晩婚化・独身化・少子化の傾向が見られ、2009年に大型車を得意としてきたGMやクライスラーが破産。家族が車でこぞって郊外型モールに出かける、というライフスタイルモデルが消滅。クリスマスだから、ボーナスが出たから、との「ブラックフライデー」の年末商戦とやらも、勤め先の雲行き怪しく、年功序列の定期昇給を当てに大きな郊外新築住宅を買って長期ローンを組める時代でもなし、日米欧中、どこもともにもはや過去の話。
きわめて主観的な観察だが、とりあえずうまくいっているモールは、家族より個人客が多い印象。せいぜい母親たちの子連れ、昼間からすることも無さそうな老人夫婦。買って手に持っているものは、妙に少ない。ただ、だらだら、ぷらぷら、実店舗でウィンドウショッピング、フードコートで食事。家で過ごす時間、家族でのレジャーが崩れてしまい、かといってテレビやネットにも親しめず、ただの暇つぶし、公園の代わりにモールに転がり込んできている。一方、若い連中は、車もカネも無いせいか、あまり見かけない。
この状況は、かなりの崖っぷち。来場人数が増えても、客単価は伸びまい。若者が来なければ、未来も無い。外国人の免税爆買いを呼び込もうとしているが、彼らは短時間で多品種を買い回れるドンキやマツキヨのような廉価日用品集中店や、超高級ブランドがビルひとつに集積している日本独特のデパートを好み、むだにやたら広大で、長時間滞留型の地元客が多く、半端なプレミアムブランドが主軸のモールとは趣向が相容れない。アイドルやキャラクターを週替わりに投入して集客を図っても、それは一時のドーピングで、モールそのものの日常的吸引力には繋がらない。また、初年度はテナント料の猶予で、各店舗も無茶なセールができるが、その後、その重みは、猶予期間分の追徴も込みとなり、経営に大きくのしかかる。
さして集客力も無いモールに入って、高額のテナント料を払い、長期の契約に拘束され、おまけに、その客寄せにセールを強いられるくらいなら、土地あまりの時代、自前ででかい駐車場付き郊外型店舗を構えた方が得。その方が、必要と状況に応じて、かんたんにスクラップ&ビルト、居抜きの転売もできる、と考える企業も出てくる。実際、有名ブランドとして相応のプレミアム(原価差益)が稼げるところでないと、大型モールの新規建設と価値維持を分割負担する高額テナント料を払い続けることは難しいのではないか。
要は、リゾートマンション問題やコンビニチェーン問題と同じ。入ってしまったら、一蓮托生。それどころか、搾取され続けるだけ。契約を解消して手を引くのも容易ではない。だが、実状からすれば、いましばらくはいいにしても、長期トレンドとしては、家族や車という、前世紀的な古いライフスタイルに依拠している郊外型モールは、かつての街中のシャッター商店街と同様、沈没、そして、死滅に向かっていっている。
(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』などがある。)
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