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日本がエネルギー自給国になる未来 PEST分析から読む近未来vol.8/竹林 篤実

INSIGHT NOW! / 2015年12月11日 9時10分


        日本がエネルギー自給国になる未来 PEST分析から読む近未来vol.8/竹林 篤実

竹林 篤実 / コミュニケーション研究所

エネルギー自給率と日本
日本がエネルギーに恵まれない国であることは、誰もが知っている。では、日本のエネルギー自給率が、いくらぐらいかご存知だろうか。2010年のデータによれば、自給率はわずかに4.4%に過ぎない。だからこそ、大量の石油や天然ガスを輸入し、それらを燃やすことでエネルギーを得ている。つまりCO2を大量に排出してもいる。
自給率とは、需要と供給のバランスである。だから今後、日本の人口減少を踏まえるなら、需要が増え続けることはないだろう。では、供給はどうなるだろか。
エネルギー供給を考える場合には、エネルギー源をどうするかが問題になる。IEA(国際エネルギー機関)が発表した「世界エネルギー見通し2015」によれば、2040年までに既存油田の原油生産量は1/3になる。「石油がなくなる」とは、これまで何度もいわれてきたことだ。そのたびに新しい油田が発見されたり、シェールオイルのような新資源が登場し、石油枯渇に対する危機感が薄れてきた。けれども、そろそろ、それも限界が近づいているようだ。仮に世界の原油生産量が大幅に減ることを想定したとき、ただでさえエネルギーに恵まれない日本には、どんな道が残されているのだろうか。


イーロン・マスクの構想
アメリカにとてつもなくスケールの大きな起業家がいる。スペースX、テスラ・モーターズを立ち上げたイーロン・マスクである。彼は「人類を救うために」テスラ・モーターズを起業した。この会社は、電気自動車を開発・販売する自動車メーカーである。クルマを作って売るだけで、どうやって人類を救うのか。
テスラ・モーターズが売っているクルマが、電気自動車であることがポイントだ。イーロン・マスクはクルマを売ると同時に、全米に太陽光発電による充電スタンドも作っている。テスラ・モーターズのクルマは、ここで無料で充電できる。
もちろん、テスラ・モーターズ一社が、電気自動車を売り、充電スタンド整備しても、全米の自動車によるガソリン消費とそれに伴うCO2排出を考えれば、その効果はスズメの涙ぐらいにしかならないだろう。だから、イーロン・マスクは、テスラの全特許をオープンソース化した。要するにテスラの技術を誰が使っても良いのだ。なぜ、そんなことをするのか。一台でも多く電気自動車を普及させることで、イーロン・マスクが人類を救いたいからだ。彼はど真剣なのである。
CO2を排出するエネルギー源を使わずに、電気エネルギーを手に入れることができれば、温暖化の進行を止めると同時に、人類が救われる可能性は高い。ここにチャンスが有る。


エネルギー最貧国日本の挑戦
テスラ・モーターズのクルマは、日本でも買うことができる。けれども、今のところイーロン・マスクが、日本にも充電スタンドを用意してくれる様子はない。では、石油が枯渇に向かう中、原子力に頼ることも難しい日本は、この先どうやってエネルギーを賄えばよいのだろうか。
お先真っ暗、ではなくなる可能性が見えている。そのカギとなるのが「次世代エネルギーマネジメントシステム(EMS)」だ。これは電力の需要側と供給側をスマートグリッドで結ぶことで、電気の全体最適を実現するもの。
需要側では、電力消費の徹底したスマート化を図ることで消費量を抑える。
電力消費のスマート化とは、電気を使う機器を通信によってつないで動かすことで、極力無駄を省くことだ。機器同士の接続は「エコーネットライト」と呼ばれるプロトコルにより、既に実現しつつある。消費を最適化するプログラムも、現在、早稲田大学を中心とするプロジェクトで開発中。近いうちに実現する可能性が高い。
供給側では、太陽光発電の高効率化が期待できる。技術革新により発電効率が高まれば、大規模太陽光発電はもちろんのこと、家庭での発電量も増える。そうなると、世帯単位で電気の自給自足が実現する可能性が出てくる。このシステムではバッテリーが重要な役割を担う。昼間発電した電気を貯めておくことで有効活用する、その役割を担うのが電気自動車だ。
さらに技術開発が進めば、電気を水素化して貯めておくことも考えられる。この場合のキーテクノロジーは水素吸蔵合金である。これが実用化されれば、巨大でリスクのある水素タンクを使うことなく、水素を省スペースで大量に貯蔵することができる。


エネルギー技術が日本の輸出を支える
技術の進歩はめざましい。太陽光発電を例に取るなら、1990年での設備コストは1kwあたり600万円だった。これが今では30分の1の20万円にまで下がっている。つい最近、チリで100万kw級の発電所新設の競争入札が行われた。火力発電と太陽光発電が競い合った結果、コストパフォーマンスの高さで太陽光が勝っている。発電効率は今後も高まる可能性、つまり発電コストが下がる可能性を大いに期待できる。有機ELをパネルに使う最先端研究も進められている。
一方で、需要をきめ細かく調整するEMSが実用化すれば、電力消費の無駄を徹底的に抑えることができるだろう。電気エネルギーの「貯めることが難しい」欠点も、バッテリーの進化(リチウム電池の次にはナトリウム電池に期待がかかる)や、電気を水素に替えて貯蔵するシステムの開発により補える可能性が高い。
これらはすべて国内で研究開発が進められている技術であり、実用化できれば、これこそがこれからの日本の輸出品となる。日本がエネルギー自給国となり、エネルギー関連技術の輸出がこれからの日本を支える可能性は意外に高いのだ。

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