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経営者と経営学者の違い、B'zとAKBの違い/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2015年12月15日 6時33分


        経営者と経営学者の違い、B'zとAKBの違い/増沢 隆太

増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

・名選手は名監督?
スポーツの世界では、現役時代名選手と呼ばれる人のほとんどが、引退後監督など管理者になります。逆に現役時代の成果が乏しい人は、特にプロスポーツの監督などにはなりづらい風潮があります。ホリエモン氏の意見は「経営ができなければ経営学者ではない」というのは、これと同様の根性論になっているのではないでしょうか。板場の修行に意味がないと喝破する氏の、一番嫌う主張と同じ根拠になっているように思います。

アメリカのメジャーリーグに詳しい菊田康彦氏によれば、メジャーリーグの監督20人中、球宴出場経験など「スター選手」はわずか5人。他はほとんどが控え選手か、メジャーでプレーした経験すらない、とのことです。これに対し日本のプロ野球では、一流選手が監督を務めるケースが大半で、「監督」という役職のバックグラウンドには大きな違いがあります。(同氏、スポナビ、2011年7月19日コラムより)

名選手でなければ名監督は務まらないという風潮への疑問を昔から感じていました。私がかつてプロ野球好きだったころ、好きだった監督は超弱小チームながらおおいにトーナメントを沸かせてくれた元大洋の近藤貞夫監督や横浜優勝という奇跡をなしとげた権藤博監督(単なる大洋ホエールズファン!?)、須藤豊元巨人二軍監督(あ、元大洋監督でした!)といった元大洋監督たちに(開き直りました)とてもシンパシーと、「指導者とは」というあこがれを感じていたのです。

どの方も、現役時代を通じて超一流のスターだったというより、一瞬のスターで終わってしまったり、大きな花は咲かずに終わった方ばかりという印象です。しかしそうした挫折経験もある方が指導者になり、勝って当然の戦力を持つ人気球団の1/10の人件費でも、局地戦で胸のすく勝ち方をする超弱小球団に、戦略の妙味を感じていました。結局総力戦では負けてしまうのですが。(遠藤と斉藤明雄とスーパーカートリオの話、いくらでもできますが、元大洋ファンのつぶやきは終わりにします)


・日本の歌謡史上最高の絶対王者・AKB
オリコンによれば、AKB48のシングル総売上枚数は累計3615万枚で、それまでの最高記録だったB’zを抜き、国内全アーティストの歴代最高となったとのこと。また合わせて秋元康氏の作詞シングルの総売上も、史上最高の1億枚を突破したそうです。ということで、AKBは日本史上最高の歌手であり、絶対王者ということでよろしいでしょうか。もちろん皮肉でいっています。

経営における売上利益絶対主義も同じですが、それらを達成できなければ経営として認められないのは事実です。キレイごとではなく、経営数値的な絶対値が経営を評価します。しかし一方、コンプライアンスに反した手法でそれを達成しても、それは経営ではありません。密輸だの薬物だのの販売によって得られた金銭はそもそも売上ではなく、ただの犯罪です。詐欺で得た収益も同じです。

しかし文化や芸術も金ですべてなのでしょうか。私は商業主義を一切否定するものではありません。しかし聞きもしないCDを売った枚数で芸術の評価が決まるとなると、納得できません。AKBと秋元氏をビジネスでの大成功者とすることに、一切異議はありません。しかし史上最高の歌手だと認めることには強い抵抗を感じます。B'zファンでも何でもありませんが、すくなくとも、それまでの売上トップだったB'zのCDは大量に捨てられたりはしていないはずです。評価されるべき基準は明確に違うものだといえます。


・経営学者は経営の専門家ではない
経営学者が社外取締役などに就く例はあると思いますが、経営学者と経営者は違います。論争の一人、一橋大学の楠木教授も述べているように、経営学者と経営者は役割が違うのです。経営をすることと、経営学を極めることは別物です。動物的なカンや偶然による成功も、経営において時には必要だったり、そのおかげで危機を乗り越えたということもあり得るでしょう。

しかし経営学は「学問」です。学問として成り立つだけの信頼できるソースによる裏付けと、論理的整合性を持った論文を書けることは学者としては最低限必要であり、教授職にまで至る以上、そうした研究能力こそが欠かせない資質になります。一部の有名人以外、普通で教授になれることはありません。論争に一時加わった一橋大の佐山教授は、自身が投資ファンドの社長=経営者であり、非常に例外的存在だといえます。ただし経営といっても事業経営者と投資ファンド経営者ではかなりその役割は異なりますが。

いずれにしても経営学者が経営の専門家でない以上、その発言も学問的領域での価値判断であって、実際の経営的な精度を持つとはいえません。逆に事業経営者は常に論理的整合性やソースの分析を行う仕事ではありませんから、ヤマ勘で当たることもあり得ます。それも含め経営の成功に数えられるでしょう。やはり評価軸となる基準をしっかりと持つことが重要です。他人が決めた評価を鵜呑みにする、リテラシーの無さは、どんなことであってもインテリジェンスがない行為だといえます。

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