調達購買部門の新しい役割/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2015年12月25日 12時0分
野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ
今回は2015年の締めくくりということで昨今の調達購買で私が感じ、考えているトレンドについて皆様へのメッセージとさせていただきます。
アジルアソシエイツでは2011年まで8年連続で調達・購買部門長調査を実施していました。その中で必ず聞く質問が、「経営者から調達・購買部門への期待であてはまるものは?」
です。8年連続で回答企業の8割強の企業では「期待が高まっている」「近年特に期待が高まっている」と答えています。
確かに私が会社を立上げたのが2002年で、以来調達・購買コンサルティングを専門的にやるようになって15年近くなりますが、十数年前と比較し調達・購買部門の会社内での地位は間違いなく高まっているでしょう。しかし最近は一部企業でこの傾向が変わってきているように感じる場面に行き当たる機会も増えています。
この十数年間で調達・購買部門はコスト削減を請負う部署として収益貢献を行い社内での地位も確かに高まってきました。特にリーマンショック以降数年は収益貢献部署として経営陣からも他部門からも評価されてきたと言えます。一部企業では調達・購買部門を本部化したり人員増強を行ったりしていることからもその状況が理解できるでしょう。一方で社内の他部門に対して社内統制強化の旗印の下、場合によっては様々な手間を強いることも多くなってきました。
それが近年は円安環境や慢性的な人手不足、またある程度のムダが顕在化したことなどから購買コストは以前ほど下がらなくなっています。経営陣や他部門は調達購買部門に対して「あの部門は何をやっているんだ、あそこが会社に対して与えている付加価値は何だ」という声が上がる状況になってきているようです。
購買コンサルタントの寺島哲史さんのブログ「2014年の憂鬱 ~ 購買部門の業績向上は限界に達しました」では欧米のワールドクラス企業において購買部門の効率改善は限界に近づき、コスト削減率についても以前より
悪化しているということを取り上げています。大袈裟に言うと「購買部門不要説」が出てきているということなのです。
実際に一部の日本企業でも拡大した購買部門の存在意義を疑問視するような声も囁かれるようになっています。「何か忙しそうにしている、偉そう、我々に指示するだけで効率が悪そう。人員もどんどん増やしているが本当にあれだけの人数必要なのかね」と。
こういう環境下、調達購買部門は新しい役割を担わなければならなくなってきています。
キーワードは「インテリジェンス機能の強化」と「調達基盤の確立」です。
今年の後半から私のメルマガでも何度か取上げさせていただいたのですが「インテリジェンス機能」とは調達購買部門が情報収集・分析し経営や社内に対して価値のある情報提供をしていく機能をいいます。調達購買部門には様々な情報が集まりますし、集めることができる部署です。例えば支出の可視化を図り、全社の支出最適化につながるような情報収集、分析、提供を「購買白書」のような形で全社に対して実施している企業もあります。また、特に昨今の様々な原材料やサービスの市況や各国の景況、為替の動向など益々まだら模様になっており、実際の現場での情報収集や現場の視点からの分析の重要性が増してきていることは間違いありません。
このようにインテリジェンス機能を高めて経営や全社に対して貢献していくことが一つ目の新しい役割と言えるでしょう。
2点目は「調達基盤の確立」です。
そもそも調達購買部門の役割・目的とは何でしょうか。コスト削減?相見積?コスト分析?交渉?サプライヤ選定?サプライヤ評価?どれも手段でしかありません。調達購買部門の本来の役割・目的は「サプライヤとの強固な信頼関係づくり」であり、「サプライチェーン全体で競争力強化に貢献すること」、ではないでしょうか。もしサプライヤとの間で強固な信頼関係があり、そのサプライヤが他社に対して競争力があるのならコスト分析やコスト査定、コスト削減の交渉すらやる必要がなくなるのです。相見積を取る必要性もなくなります。これが目指すべき調達購買部門の姿であり、正に「調達基盤の確立」と言えるでしょう。
現実問題としてこんなことは難しい、やはり細かく査定するとコストを膨らました箇所は必ずある、とか、会社の要請として毎期コスト削減しなければならないので、そのコスト削減交渉は必ずやらざるを得ない、というような皆さんの声が聞こえてきます。しかし、実際にある調達先進企業は(調達部門の)コアミッションは「自社商品が最高の価格競争力をそなえるために、最高の調達基盤をつくること」であり、最高の調達基盤を「強固な相互信頼関係を長期継続できる仕入先群の基盤」と定義し、調達購買部門の役割であると明確に定義しているのです。
またある企業はサプライヤマネジメント活動を最重要視しており、その為の専門要員を多く抱えるだけでなく、四半期に一回の評価活動や評価結果の改善活動、マネジメントを巻き込んだ定期的なサプライヤとのミーティングの実施など、かなりの負荷や経営資源をかけて実施しています。この企業にとっての調達購買業務は「相見積」をとって「比較」したり「交渉」することではないのです。正に強固な信頼関係を築き「調達基盤の確立」を目的にすることが調達購買活動であると定義しています。
他にもいくつか調達購買部門が果たさなければならない新しい役割はあるでしょう。
様々な改革が上げられますが、特に昨今日本企業でも気がつき始め、一部企業ではその取組が始まっている調達購買部門の2つの「新しい役割」について取上げました。
2016年が多くの調達購買部門やバイヤー担当者のために良い年であることを祈念しております。
皆様良いお年をお迎えください。
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