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人並み病「アヴェリエンザ」からの脱却/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2016年1月4日 15時0分


        人並み病「アヴェリエンザ」からの脱却/純丘曜彰 教授博士

純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

「奨学金」の返済に行き詰まる話をよく聞く。しかし、そりゃ行き詰まるだろう、と思う学生も少なくない。およそ借金をしている者の生活ではない。人並みのすてきな部屋で暮らし、人並みのこぎれいな格好をして、人並みにおもしろおかしく遊び歩き、人並みに大学をさぼりやがる。そんな分限知らずの生温いやつが、たとえ人並みに卒業して就職できたとしても、人並みの毎日を続けるかぎり、返済に回すカネなど、死ぬまでできるわけもあるまい。


近年、米国では「アフルエンザ」(金満病、金持の倫理麻痺)が話題だが、日本では「アヴェリエンザ」(人並病、凡人の倫理麻痺)とも言うべき病状が蔓延している。「アヴェレイジ」という語は、もともとはアラビア語のハルワリヤ、訳あり欠陥品、に由来する。大航海時代に、輸入品の欠陥相当分を投資家たち全員が均等に負担したことから、平均の意味に転じた。


かつて「人並み」は、底辺から脱出する向上心の動機づけになった。ところが、生まれながらの中産階級は、社会的なセフティネットや救済策の整備充実のせいか、どこか感覚的におかしい。手抜きをして自分自身が「欠陥品」になっても、その損失は社会全体で均等に負担してくれる。だったら、怠けないと損、がんばったら負け。人並みにいい加減でも、人並みにさぼって遊んでいても、みんなそうなのだから、ヘラヘラ笑って許されるはず、誰かがなんとかしてくれるはず。とくに、ほめて伸ばす、自己推薦のAO入試、なんていう生温い教育しか受けてこなかったユトリ学生たちは、お勉強をすれば御褒美をもらえて当然、と思っている。そんな連中にカネを渡せば、借金だろうとなんだろうと、後先考えず、あるだけ使ってしまう。そんな愚かしい風潮が、学生から学生へと感染。


日本の「奨学金」は借金だ。だが、問題はそこじゃない。ふつうの借し付け金なら、いや、たとえ違法なヤミ金でも、債権の保全回収が第一だから、できるだけ「相談」に応じ、でたらめむちゃくちゃな「追い貸し」を含め、現実に「返済」可能なプランを再調整してもくれる。ところが、お役人が考えた「奨学金」は、回収なんか気にしない。杓子定規の容赦無し。ちょっとでも返済が滞れば、いきなり一括請求。鬼より怖い。


そんなの、自己破産すればチャラ、手続も簡単、と弁護士は言う。しかし、それには会社に「退職金計算書」を作ってもらわなければならず、いくら個人情報保護といっても、いずれどこからともなく社内外のウワサにもなってしまうだろう。また、ブラックリストに載って住宅ローンはもちろん、クレジットカードも、ずっとダメ。なにより、契約時に温情をかけてくれた連帯保証人へ一括請求が回り、親戚まで地獄に引きずり込む。こうなったら、仕事も結婚も、なにもかも、将来まで道を絶たれる。


つまり、「奨学金」は、およそ人並みではない、自分自身の一生そのものの浮沈を懸けた一世一代のハイリスクな大博打。しかし、この賭けは、地道に努力さえすれば、かなりの程度まで勝率を上げることができる。大学では、一心不乱に勉学に励んで知識と技能を習得し、自分自身の資産価値構築を第一に考えないといけない。また、リスクヘッジのために、大学外でも自動車免許や簿記その他の資格を取って、早くから実体実形(ストック)化する。すてきな部屋だの、こぎれいな格好だの、若者らしい娯楽だの、完済までは自分のような苦学生には縁が無い、と割り切って、毎日の生活で節約し、残したカネを卒業時に繰り上げ返済。就職してからも、返済をすべてに優先。


借金は、借金だ。「奨学金」だろうとなんだろうと、借金をする以上、君はもはや「人並み」ではない。学生ながらに「貧乏人」の「債務者」だ。同世代でほかに幸せにおもしろおかしく暮らしているやつがいるとしても、それは、親が金持ちか、自分で稼いだか。一方、君は無職無収入、おまけに借金漬け。将来の就職も確約されているわけではない。この厳しい現実を、もっときちんと直視しろ。そんな貧困失業債務者の分際で、「人並み」の青春を謳歌したい、などというのは、思い上がり、勘違いも甚だしい。もちろん、悔しいのはわかる。だが、無いものは無い。できないことはできない。無理に人並みの見栄を張るより、とっとと貧乏金欠をカミングアウトして楽になってしまえ。


君は君。人とは違う。カネは無い。夢はある。君は、部屋や格好や娯楽などのような卑近な物事より、もっと大きく、もっと大切な、自分自身の将来にこそ、自分自身を賭けたのではなかったのか。人に貧乏を恥じる暇があったら、怠惰怠慢で自分自身を裏切っていることこそを恥じるべきだ。



(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『夢見る幽霊:オバカオバケたちのドタバタ本格密室ミステリ』『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)

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