社会インフラを考える(11)スマートライティングで省エネを/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2016年1月13日 7時7分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
真夜中の2時とか3時過ぎといった時間帯に、郊外をクルマで走ったことはないだろうか。近所を歩いたことはないだろうか。そんなときにでも道路灯や信号、もしくは街灯はずっと点灯していることに違和感は覚えないだろうか。
都会にいるとつい忘れてしまいがちだが、本来真夜中というのは闇のはずなのだ。
昨今は結構な田舎でさえも信号と道路灯がかなり整備されており、真夜中というのにずっと先まで点いているのが見える。しかも感応式でない大半の信号は、律儀に色を切り替える動作をずっと続けている。全く通過するクルマや人がいなくとも、だ。ちょっと離れたところから見ていると、かなり間抜けな感じだ。
もちろん、この明るさに救われるという声があることも承知している。帰宅途中の街灯が明るくなければ大半の女性は怖くて仕方ないだろう(実は男だって同じだ)。車道を先まで照らしてくれる道路灯や信号が機能しているからこそ、安心して目的地に向かうハンドルを握れるというものだ。
しかしそれはあくまで歩行者やクルマが通る際に点灯していればいいだけだ。誰も通らない時にまでずっと点いていなければいけないというものでは、本来ない。ただ単に今までは自動的に切り替えるのが技術的に難しかったのだ。
しかし現在のセンサー・ネットワークと連動した情報通信技術というものは恐ろしいほどの進化を見せている。ある地点に人がいることを感知し、そこから進める先の場所の街灯を次々と照らすことは朝飯前なのだ。
歩行者に比べて速度の違いはあれど、道路におけるクルマについても同様だ。A地点からB地点に向かったクルマの速度を勘案して、どれほど先の信号や道路灯を点けておくと安全なのか、ちゃんと制御センターのコンピュータが自動計算して、余裕を持って点灯させておくことができる。
これが道路網と交通事情に合わせてセンサーと信号・道路灯がネットワーク化されて連動する「スマートライティング」と呼ばれる仕組みだ。
これによって(いくら夜間料金で割安とはいえ)公共部門が無駄に税金を費やしている電力料金が削減できる。ついでに云えば、真夜中に星が見やすくなるという効果も少しは出るに違いないし、道路沿いで飼われている動物が寝不足になるという話も少しは減るだろう。
え?そんな田舎に住んでいないので関係ない?いやいや、国道なら国交省経由で直接に、県道・町村道の信号・道路灯でも路地の街灯でも地方交付税という形で間接的に、それぞれ貴方も負担させられているのだ。だから全ての地方における無駄遣いに反対すべきなのだ。
尤も、理屈の上では全く問題がなくとも、人の心配のネタは尽きない。「自転車は感知されないのでは」「小動物がうろつくだけで、人と間違って点灯し続けるのではないか」「クルマが何かの拍子に故障して立ち止まった途端に道路灯が全部消えてしまい、周りが真っ暗になってしまうのでは」…等々。
そのために今、省エネ意識の高い欧州を中心に、公共の「スマートライティング」プロジェクトが幾つか走っており、想定外の問題が生じないのか、どういうタイミングで切り替えるのがベストなのか、様々な検証作業が進んでいる。
旧来の水銀灯や白熱灯からLED灯に切り替えることですぐに現れる省エネ効果が一番大きいのが実情だが、さらに省エネ効果を引き出そうと熱心に取り組まれているのが、ここまで話してきた「誰も通らない時には消灯する」という自動切り替え機能だ。
それに水銀灯や蛍光灯と違って、LEDだと消灯・点灯を繰り返してもすぐに照度も上がるし寿命も縮まらないので、こまめに切り替えることが実用的な節約に直結するのだ。
こうしたプロジェクトで蓄積された知見がやがてICTベンダーが提案する道路交通システムや都市管理システムに反映され、街ぐるみの省エネが期待されるのだ。欧米および豪州・NZではそうしたシナリオが着々と進んでいる。
世界市場をリードしている有力なベンダーとしては、米Streetlineや米Silver Spring Networksが代表といえよう。
それにしてもICT企業の少なくない日本で、しかも信号が無駄に多い日本で、あまり公共「スマートライティング」プロジェクトが行われていないのはどうしたことだろう。
日本で「スマートライティング」というと、商業施設および工場などでのLEDへの切り替えぐらいしか目立たない。残念ながら街灯や道路照明・信号の「スマートライティング」はなかなか日本では実現していないのだ。これは、国交省・自治省・総務省(警察庁を含む)間の連携がほぼないことが影響していそうだ。もしかすると必要性さえ感じていないのかも知れない。
海外での「スマートライティング」プロジェクトに日本企業が参加しているケースも今のところほとんどないようだ。したがって、その成果である知見を持ち帰って日本で実用化するというシナリオは、このままでは待てど暮らせど実現しないのではないか。少々気を揉む事態だ。外部リンク
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