職場のウェルビーイングを考える (4) - フェアな組織であること/おおばやし あや
INSIGHT NOW! / 2016年1月6日 22時19分
おおばやし あや / SAI social change and inclusion
関連記事:職場のウェルビーイングを考える (1) - 人を活かし、組織も活かす / (2) - 「今、できること」に焦点を当てる / (3) - 実践編:自己表現の機会を / (5) - スイミーで考える「犠牲にならない」フェアな社員とは
組織と人の距離感、フェアさ
これまで、健康や豊かさの指標ウェルビーイングの概念と、プロでなくても取り組めるメンタルケアも含む会社組織の体質改善、また実行のキーワードを紹介させて頂きました。
このテーマは色々な問題に関わっていますので、派生する主題について色々と書かせて頂ければと思っております。
前回、社員の心の問題という繊細なトピックで会社の立ち位置を考える場合、「労働者の権利を守る」というところで線引きをしてはと提案させて頂きました。
社会であれ企業であれ、しっかり作られた鉄骨を組織だとすれば、その空間の中で安心して自由に人が動き、もしくは外部とかかわりながら、増築や改修をできるだけの適切な距離感が必要です。
精神的距離が近すぎると、重労働や偏った哲学を強制したり、えこひいきが発生する、プライベートに踏み込みすぎて従業員の心身が病む、または遠すぎれば、何も貢献のしがいのない、無味乾燥な職場だという事態にもなりかねません。
これは、一言でいえば、企業と従業員の関係がフェア(公正)である、両者のバランスが共栄共存のゾーンにある、ということができるかと思います。
平等とフェア(公正)を理解すること
平等と公正、equalityとfairは社会福祉ではほぼ同じ意味になるのですが、一般社会では平等という言葉はやや偏って受け取られているように思いますので、少し説明をさせてください。
平等という言葉は「かたよりや差別がなく、みな等しいこと」という意味を持ちますが、社会福祉において、例えばある人Aさんと、身体に何らかのハンディを持つBさんを「全く同じように」扱うことは、平等ではありません。
図のように、「結果が等しくなるように調整されること」つまりBさんはより多くのサポートが受けられることが社会における平等です。
生まれや事件、病気、事故、その他の状況、自分の力ではどうにもならないことは世の中にたくさんあります。しかしそれでも「人類は皆平等である」といわれることの真意は、どこに生まれたどんな人でも、起業家貧乏の私とビル・ゲイツでも、一人が持っている基本的人権の内容は誰もが同じだ、ということです。変えようのないことはさておき、今の(他の比べ差のある)状況に社会福祉をプラスすることで、結果をより標準に近づけようとすることはできる。
日本で憲法で義務教育が義務として強く保証され、また必要であれば援助が得られるように、「ハンディのある状況をサポートしてもらえるだけの権利を、誰もが同じだけ持っている」という意味において平等なのです。生活保護や母子保護法なども同様です。(実際に援助システムがしっかり成り立っていないことは勿論ありますが…)
そういう意味で、例えば「男女平等」という言葉はごく一部の箇所にフレームを当てただけにすぎず、矛盾をはらみます。法律で定められるハンディを持つ人は、補助を得られる権利を持っているのですから、性別やその他の全ての要素に関係なく、人はみな平等である、が正しいといえます。
しかしこれが、社会正義を追及する場ではともかく、利益追求を目的とする会社で…となると、平等のライン決めはなかなか複雑になってきます。
組織がフェアであるべき理由
意図するところは平等とほぼ同じですので、誤解を生まないためにもフェアと言い換えると(私は)少しすっきりするのですが、社員との適切な距離感を保ち、彼らの権利を守り、且つ自分の意志でもって高いパフォーマンスを発揮して働いてもらうためには、このフェアさが欠かせない、といって良いでしょう。
フェアとは、より理にかなった平等さ、柔軟な平等さだと定義したいのですが、「公正で、より多くの人が納得できる状態」であると言い換えられるかと思います。
私もヘルシンキのとある学校で数年講師をさせて頂いているので、教育の例でいうとわかりやすいのですが、たとえば子どもをより伸ばすことのできる良い学校、先生の基準というのは、頭の良し悪しや、優しさや厳しさでもなく、ひたすらフェアであること尽きる、と考えています。
それは、普段の生活態度に関係なく、どんな生徒にも公正に接し、平等にチャンスを与え評価をし、そのために適切な距離を設定するということです。その枠組みのスペースの中で、子どもが自由に発想しお互いに影響し、伸びる仕組みを作る。できるところは彼らの自主性に任せ、何かあったときにはサポートをする。助けが必要な生徒には、平等の精神でもって手を差し伸べる。甘やかしすぎるでも、厳しすぎるでもなく、ある意味私的感情を横に置いたシステマチックなものです。
言葉で表すのは簡単ですが、人間の感情が錯綜するかぎり、フェアな環境を作ることは非常に難しいです。宿題を毎回忘れてくる生徒にも、きちんとこなす生徒にも、なついてくる生徒にもなつかない生徒にも感情でもってアンフェアに接しない…正当に評価された成績上で差はできるものの、できる・できない、好ましい・好ましくないからと言って、私的な扱いでは決して態度に差はつけない、さらに平等の観点でサポートを与えるということですから。
けれどもそうすることで、生徒にはある種の信頼や安心感が生まれ、失敗を恐れず自主的に行動や発言をするようになってきます。
学校だけでなく会社もそうだと思うのですが、自分は正当に評価されていない、頑張っても仕方がない、と思うとき、その組織、あるいは上に立つ人間は公正さを欠いている恐れがあります。そして疑念があるとき、自衛のブレーキが働き、パフォーマンスは決して高いものにはなりません。
大きな組織にとって、一個人というのはささやかな存在です。私たち自身、特に生活の大半を過ごす会社において、自分がフェアに扱われているかということには、実はとても敏感です。自分は組織にとって重要なのか、自分はこの組織を信じて尽くすべきなのか、頑張っても報われるのか、自由意志を尊重してくれるのか、行き過ぎた管理や搾取されないかどうか。そして、時に調子を崩す、バランスを欠いてしまうのが自然であるhumanに対し、ゆとりのある器で対応し、長期的な目で評価判断できるかどうか。
そのフェアを体現するために指標にすべきなのが、前回述べた労働基準法や労働安全衛生法や各種労働法、人権法です。法に照らし合わせながら労働者の権利を守り環境を改善していくということが、もっとも正当で実現しやすい方法でしょう。
最終的には会社の利益となるために社員の人権、労働者としての権利を尊重し、そのために距離感を持ち、フェアであることは決して甘やかしではありません。
しかし、労働者側がその意図に理解されない場合、要するにすべき努力を怠る場合、また企業の目標と労働者の目標がかけ離れてしまう場合には、企業側にとって大きな負担となっていきます。
特に日本で会社員生活を体験した私からみると、日本人は集団行動に長けていて、メリットはたくさんあります。しかしある意味、システマチックな社会の在り方や儀礼的な建前が、個人レベル、組織レベルでこのフェアさを阻害しているように思える点も多々あります。
「社員もフェアであること」、また日本ならではの「フェアであることの難しさ」について、次回にお伝えできればと思います。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
今年もどうぞよろしくお願い致します。
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