脱ジェネリック&原点回帰のアイリスオーヤマが目指す“次の家電戦略”/神原 サリー
INSIGHT NOW! / 2016年1月12日 19時40分
神原 サリー / 株式会社神原サリー事務所
大手家電メーカー退職者を積極採用する大阪R&Dセンター
プラスチック製品などの生活用品製造で知られるアイリスオーヤマが家電事業に参入したのは、2009年のこと。ヘッドの裏に毛をかき取るためのエチケットブラシを付けた「超吸引毛取りヘッド」を搭載した掃除機を発売し、回転ブラシに絡まる髪の毛やペットの毛などのお手入れに困っていた人たちに評判となり、安価な価格設定もあって人気を呼んだ。その後も値ごろ感のある価格の同社の家電は売上を伸ばし、2014年の家電部門の売り上げは421億円となっている。
立ち上げ当初はほんの数人の自社社員から始まった家電の開発だが、パナソニックやシャープなど大手家電メーカーの退職者を積極的に採用することで、家電の技術が蓄積され、開発のスピードも一気に短縮され、ヒット商品も生まれるようになった。
2013年には大阪に家電の開発拠点となる「大阪R&Dセンター」を開設。現在は商品開発や品質管理などを担当する30名が在籍するが、そのうち27名が家電メーカー出身者だという。シャープの希望退職者を見込んで、2016年末までに100人規模にする方針とも言われており、技術者の流出に注目が集まっている。
大手家電メーカーの二の舞になりかねない「多機能家電」も
そんなアイリスオーヤマのヒット商品となった家電の1つに2014年に発売された「ノンフライ熱風オーブン」がある。前年、オランダに本社を置くフィリップスの調理家電「ノンフライヤー」で一躍脚光を浴びた熱風循環によるノンフライ調理に目をつけ、オーブントースターを上に大きく引き伸ばしたような独特の形状と、シンプルで使いやすい操作感、低めの価格設定が当たったようだ。聞けば、このノンフライ熱風オーブンも、パナソニックで長年電子レンジを開発していたベテランの技術者によるものだという。
ただ、こうした大手家電メーカー出身者を大量採用することが、必ずしも功を奏するとは限らない。なぜなら、このノンフライ熱風オーブンの後継機種となる「リクック熱風オーブン」が発売されたのだが、これが失敗に終わっているのだ。「自動メニュー」や「リクックメニュー」という一見、便利そうでいて実はターゲットが絞られず、使いにくい『多機能かつ高価格』な家電になってしまっているのがその原因だ。
温度センサーを搭載し、ハンバーグやステーキまでを自動で調理。一方で揚げ物のお惣菜を食感よくカリッと温める「リクック」メニューも搭載、さらにはフライヤーやトースター、グリル機能など一台三役で使える多機能さをアピールしているが、お惣菜を頻繁に買ってくる人はハンバーグをひき肉からこねて作ることはしないだろうし、何より、ボタンが増えて使いにくくなってしまった。価格も発売当初の想定売価は従来モデルよりも2万円ほどアップしており、“技術ありきの多機能、高価格家電”になってしまったのだ。
これでは周回遅れで大手家電メーカーがたどってきた家電づくりの道を再び歩むことになりかねない。そう危惧の念を抱いたのが2015年春のことだった。
目指すは「なるほどポイント」のある家電
ところがアイリスオーヤマは、それからまもなく家電づくりの舵を違う方向に切り始めたのだ。商品開発のコンセプトは「なるほど家電」。同社のウェブサイトには、「機能はシンプル、価格リーズナブル、品質はグッド。そして、人々がより気持ちよく快適に過ごすための『なるほど』をプラス」とある。
2016年1月初旬の時点で、8製品が「なるほど家電」として紹介されているが、その中には「ノンフライ熱風オーブン」もある。後継(最新)機種の「リクック熱風オーブン」ではなく、初代モデルがなるほど家電として紹介されているところに、アイリスオーヤマの視点の確かさが見えるように思う。
同社は価格の安さに焦点が当てられた「ジェネリック家電」メーカーという見方をされることを回避するためにも、機能を上乗せした家電の商品開発に向かい、それが先の「リクック熱風オーブン」のような方向性の定まらない家電をも生んでしまったようだ。今回話を聞いた広報担当者によれば「超吸引毛取ヘッドのように、生活の中でアイデアを見直し、不満を解消する家電を作っていくという姿勢に戻るというのが社内の方向性です。つまり原点回帰ということですね」と。
同社では毎週月曜日に仙台市の本社で丸一日かけて「新商品開発会議」が行なわれており、1日で扱う議題は60~70にも及ぶ。3分程度で終了するものから最大で30分かけるものまであるが、社長が必ず言うのが「その商品になるほどポイントがあるかどうか?」ということ。使う人の心に刺さる“なるほどポイント”がある企画にはGOサインが出される。それから開発にかける期間はわずか半年とスピーディだ。
2016年1月11日には玄関で花粉を取り除き、室内への侵入を防ぐことに着目して開発された「花粉空気清浄機」を発売。玄関に置いて使うという新しい提案をしており、人感センサー付きで帰宅時に服から落ちる花粉、人が動いて床から舞い上がる花粉を吸引する。設置面積が小さく、背が高いスリムなデザイン。使い方もわかりやすく訴求力がありそうだ。
2015年からホームセンターで展開する「家電モール」
脱ジェネリックを図り、多機能&高価格からの修正を経ての「なるほど家電」。大手家電メーカーの家電を模したような家電ばかりでは応援する気持ちになりづらいが、家電参入からわずかな期間でこうして軌道修正を行い、生活者に寄り添った開発をしていこうとする様子は注目に値する。
もう1つ、同社の強みはアイリスグループに「ユニディ」などホームセンターを展開するユニリビングを持ち、売り場提案をしっかりとできることがある。2015年から全国のホームセンターを対象にした始めた「家電モール」というサービスでは、同社の家電製品に関する什器やPOPを含めた売り場のコーディネートを行ない、専任の販売員を1人付けるという取り組みも始めている。接客を通じて得た顧客からの意見をフィードバックすることにもつながるため、販売と商品開発の両面で武器になることだろう。
パナソニックやシャープに続いて、東芝の家電部門の存続が危ぶまれており、大量の退職者が出ることも考えられる。その受皿としてアイリスオーヤマが控えているのは歴然としている。ブレない視点で、独自の商品開発にさらに本気を出してきたとき、日本の家電業界の勢力図が全く異なるものになることもありうるのではないか。
だからこそ、家電メーカー各社には、デザイン面や突出した技術力などに磨きをかけて、踏ん張ってほしいと願うばかりだ。
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