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現場力を鍛える/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2016年2月10日 17時47分


        現場力を鍛える/野町 直弘

野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

先日、ある企業の調達購買部門の若手を集めた研修のコーディネータを務めました。
今回はこちらから教えるというスタイルではなく、グループ討議を中心とした進め方で、これはこれで意識改革にもつながる優れたやり方だな、と実感した次第です。
それと同時にいくつかの気づきがありましたので、今回はそれについて述べていきます。

ある刑事ドラマで「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ」という名言がありました。この言葉ではないですが物事の多くは現場を見ることで解決したり、理解が深まることが多いです。

調達・購買にとっての現場とは、購入しているモノやサービスを作っているサプライヤの工場やサプライヤそのものを指します。物品でない役務やサービスであっても現場とはその役務やサービスを受ける場面や場所のことと考えられるでしょう。

現場を見ることで様々なことが分かります。サプライヤの工場を見ることで自分が購入しているモノがどのように作られているか、理解できます。またどのように作られているか理解できればその技術や設備を使って作れるものと作れないものを判断することもできるようになります。また作り方が理解できればある程度のコスト試算もできるようになります。
多くの人手や高価な設備を使っていれば当然コストは高いでしょう。

また、それだけでなく、サプライヤの実力や会社としての信頼性などを判断することにもつながります。例えば現場の5Sが整っていれば、この様な定性的な見方だけでも、対象企業のマネジメントがしっかりしていることが分かるでしょう。工場がない企業であってもサプライヤの本社を訪問しどのようなオフィスなのか、またオフィスの入り口が清潔であり、整頓されているかどうか、受付の対応がどのようなものか、等でその企業のカラーやどういう企業かということを垣間見ることも可能です。

さて研修の話に戻りましょう。
この研修では各グループ毎にテーマを決めて6-7人のメンバーでそのテーマに関する課題について討議し解決方法を見つけていく、というものでした。テーマは各チーム毎に決めましたが、どのグループでも共通した課題の一つがコスト妥当性の評価、所謂コスト査定能力を如何に高めていくかということ。コストの妥当性を評価するためにはどうしたら良いでしょうか。まず分かりやすいのは複数社で比較することです。所謂相見積りやコンペです。またコストドライバー分析のように実績を元にして統計的な手法
でコストの妥当性を評価する方法もあります。また過去実績や過去案件を元にコストテーブルを作成し、それによって妥当性を評価する方法も。いずれにしてもエクセルを使った計算の世界です。

私にはその議論がとても空虚な議論に聞こえてなりませんでした。そこであるグループで質問しました。「私の手元にあるスマホだけど、このコストは幾ら位か分かりますか。
もしくはこのスマホのコストを知るためにはどうすればよいですか。」それに対して誰も答えることができません。
スマホのコストはティアダウン分析で原価情報が公開されています。こういう情報を知っていることも重要です。しかし、コスト推計するためにはモノがどのように作られているかを知ることが一番重要なことではないでしょうか。

私はテレビで「何を作っているのでしょうか?」的な番組を見るのが好きです。最近ではこのようにテレビやネットでモノを作る現場の画像などを見る機会が増えています。
このような現場を見る機会を増やせば増やすほど、今まで買ったことがないモノでも作り方が想像できれば材料や工程を想定し、そしてコストを推計する力が身についてくるのです。

そう現場を知ることで、コスト感覚というものは次第に身についていくもの。私はこういう力を『現場力』と言っています。現場力を身に付けるためには現場を見る機会を増やすことが必要です。今は現場を見なくても動画やネットなど様々な方法で現場を見る疑似体験ができます。こういう機会を増やせばよいのです。コスト感覚はエクセルシートを操作するだけでは身に付かないのです。

「現場に行きなさい。」「五感で感じなさい。」と言うと「忙しくて時間が取れません。」
「業務が溜まってしまうので無理です。」という言葉が必ず戻ってきます。

でも考えてください。サプライヤの工場など、現場を見ることはどんな人にもできることではありません。それができて尚且つ歓迎されるのは調達・購買部門の人達の特権です。そう考えてみてください。

そう考えれば、その特権や機会を活かさない手はないと思うのではないでしょうか。

PR VoPM(Voice of Purchasing Manager)レポート vol.1

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