シリーズ「中年が危機」その2 キャリアの危機1/増沢 隆太
INSIGHT NOW! / 2016年2月17日 6時1分
増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ
・40代以上はいらない
すっかりニュースでも報じられまくったシャープの買収ですが、今その買い主と目される台湾の企業・鴻海の郭会長は「40歳『未満』の従業員の雇用は守る」と宣言したそうです。これはいわば「40代以上の雇用は守らない」との宣言だということで、シャープの成り行きは他人事ではありません。
同じく経営が危機的状況にあるといわれる東芝でも、7000人とも1万人ともいわれる規模の人員削減が検討されているとの報道があります。かつて日本を代表する企業だった東芝もシャープも、これだけの人員を支えきれなくなっている事実は、「中年のキャリア」が、これまで以上に深刻な問題になっている実例といえます。
生き残る企業でも安閑とはしていられません。日立やパナソニックでは年功制賃金体系廃止を検討するとして注目されました。滅私奉公で若い内は低賃金でも、年を取ってからの昇給でモトが取れるはずだった、日本的経営の柱・年功序列は崩れてしまっています。
・リストラされてから生き残る道は・・・・・無い
再就職支援に携わってきましたが、リストラというものはある日突然やってくると思う人が多いことに驚きます。全く何の予兆もなく、突然呼び出されてリストラ勧告を受けるということが、全くないとは言いません。しかし本稿で例示している企業は、日本を代表する大企業ではあるものの、経営不振については相当以前から報道されています。
社外の一般人ですら報道で理解しているようなことを、当事者としてどううけとめていたのでしょうか。企業業績が悪化するプロセスで、ボーナスが減ったり昇給が減ったり、あるいは新規事業が中止されたりなど、その予兆は何らかの形で出ているはずです。また業務に真剣に取り組んでいれば、市況の悪化や取引先の状況変化、環境変化なども、むしろ経営陣より先に感じ取れることがあっても良いくらいです。
リストラは突然やってくるのではありません。そこに気付かずにリストラされたという状況下では、残念ながら限りなくキャリアの選択肢はなくなります。つまりリストラされた後生き残ることは限りなく難しいのです。
・リストラは予防できる?
21世紀の今でも、完全な治療法が見つからない病気はあります。リストラされても生き残ることは、現実にはきわめて厳しいという点で対応は無理です。しかし少しでもそうなる可能性を排除することなら実行可能です。つまりリストラ対策とは、リストラされないよう日頃から準備しておくこと以外に対策はないのです。
そのために必要な3条件があります。
その1「業績把握」
自社の業績を把握していますか?営業関連業務であれば、自分や自課自部門の売上や営業利益などは常時把握しているかと思います。自分の業績評価以外の目的で、そうした経営数値を見ているでしょうか。上場企業であればIR情報を通じ、より正確な実態が把握できます。
その2「人間関係」
どんな組織でも、中年になるまでいれば、ただ仲良しだけでやっていくことはできません。しかしだからといって自己主張、自分の都合やメリットしか顧みない姿勢では、このような雇用危機の際に致命傷を負う可能性があります。大嫌いな人間が社内に一人二人はいるとしても、圧倒的多数を占めるであろう、敵でも味方でもない中立者としっかりと関係性を築くべきです。自分のセクションの都合ばかりではなく、先方の都合であってもそこで権利主張するのではなく、可能な範囲でWinWinの関係性を社内において築くことはきわめて重要です。
その3「トランスファラブルスキル」
ポータブルスキルなどと呼ばれることもありますが、英語では「Transferable Skills」といいます。会社が傾く運命に、個人ができることは限られます。どれだけ頑張っても、会社が無くなってしまう事態まで行く可能性は誰にもあります。そんな時に役立つのが、その企業リソースに頼る属地的能力ではなく、個人が持っている能力です。いわゆるつぶしが利く能力は、サバイバルの根本です。
・視野拡大は会社員生命を救う
田中角栄は、政権取りの戦略として「中間地帯論」を提唱し、敵でもない、味方でもない中間地帯にいる人たちに、いかに好意を持ってもらえるかを重視しました。中間地帯獲得の重要性は毛沢東の革命戦略でも触れられています。会社のような一つの組織に長くいると、人間関係も固定化したり、組織内において固まってしまう傾向があります。
しかし会社という組織自体が無くなってしまう可能性のある環境下では、常に会社の中であっても、外であっても、普段の自分の周りとは違う部分に目を向ける必要があります。それは強く自らが意識しなければなかなか接点はありません。高いお金を払って外部の勉強会や資格セミナーなどに出ずとも、通常業務と関係ない用向きについて、それを邪魔とか仕事の妨害と取らずに、自らの世界を拡大する機会ととらえてはどうでしょう。
普段接しない人たちが直接ご自身を助けてくれたり、アドバイスをくれるという意味ではありません。そういう可能性だって当然あり得ますが、そのような短期的なリターンやメリットではなく、自分がいる普段の環境と違う場所に、積極的に自らを置くことで、確実に視野は広がります。自社内の行事や全社プロジェクト、そこまでいかないレクリエーションであっても良いのです。実は身近なところに、キャリア観を広げてくれる、視野拡大のチャンスがあります。
・「ぶらさがり」からの脱却
究極の環境変化は職場を変えることです。しかしリストラを行う企業の例のように、現実の40代以上の転職は、一部を除き限りなく難しく、安易に退職してしまうことは危機回避にならず、もっと大きい新たな危機につながる可能性が高いのです。しかし意識の拡大を狙うのであれば、実際に退職や転職するのではなく、その前まで進んでみる手があります。
インターネットで検索すれば、転職エージェントは山のように出てきます。そうした人材会社のほとんどは、登録を無料で受け付けます。中には年収診断などをしてくれるところもあります。転職希望のような機密性の高い個人情報が漏れだす恐れはまずありませんので、こういった人材会社への登録をしてみるのは、実際に会社を辞めずともできることです。
これをすると何が変わるかと言えば、限りなくリアルなご自身の人材としての相場がわかるのです。今の勤め先で部長だとか、年収が何百万・何千万だとしても、それが外部環境において適正かどうかがはっきりわかります。そもそもかなり多くの人材会社は登録すら受け付けない可能性があります。
職業安定法により規制されている人材会社は、登録を断ることはできません。しかし実際にマッチングの可能性のない人材と会っても時間とエネルギーがむだになると考え、「現在ご紹介できる案件がありません」という理由で、登録や面談を断る可能性は非常に高いと言えるでしょう。ショックかも知れませんが、本当に抜き差しならない事態になってからショックを受けても立ち直る時間がありません。心の準備をして、ご自身の市場価値を調べてみることで、今の職務や職場への思いは変わるかも知れません。当然、高い市場価値を示される可能性もあります。そうであれば人材会社からぜひ会いたいと言ってくることでしょう。
特に中年になるまで転職をしたことのない方にとっては、キャリアを見直す契機になると思います。
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