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オーナーが同居しない空き部屋シェアリングは規制強化せよ/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2016年2月24日 7時7分


        オーナーが同居しない空き部屋シェアリングは規制強化せよ/日沖 博道

日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

「シェアリング・エコノミー」が新しい潮流として世界的に注目されている。欲しい人のために新たにモノを仕入れる代わりに、既に所有している人と必要とする人をつなぐことで、もしくは共同で保有することでニーズを満たすというコンセプトの、有望でユニークなビジネスモデルが続々と生まれている。資源の無駄使いを避けてサービスが提供でき、社会的にも望ましいものだ。

ウィキペディアには、「Airbnbとは、宿泊施設/民宿を貸し出す人向けのウェブサイトである。世界192カ国の33,000の都市で80万以上の宿を提供している」とあり、既に世界中に普及している人気サービスであることが分かる。

Airbnbのビジネスモデルは、宿泊スペースを借りたいユーザー(ゲスト)と、宿泊スペース物件を持つユーザー(ホスト)をつなぐeマーケットプレイスである。取引する「商品」は宿泊スペースというわけだ。ゲストもホストもそれぞれあらかじめ登録(無料)しておく必要がある。価格はホストが自由に設定でき、予約料金に応じてAirbnbは手数料を受け取るというのが基本的な収益モデルだ。

Airbnb自体は宿泊スペースの在庫を持つ必要がないため、非常に低リスクだ(本人確認や保険など色々と担保する必要はあるが)。そして元々誰も使わない空き部屋を個人が貸し出すのだから、格安に提供され、若い旅行者を中心に世界中で大ブレークしたのである。

Airbnbは日本市場への進出においても様々な軋轢と批判を生んでいる。「防火・防犯の備えのない施設が貸し出されて危険だ」といったゲストへの心配の声や、「あまりに安いので、旅館や民宿・ペンションの経営が打撃を受ける」という既存業界側からの反発があるのは、他の国と変わらない。旅館業法に実質的に違反する人たちに小遣い稼ぎの手段を提供しているのだから、フェアに言ってもこのビジネスはグレーな性格を帯びている。

しかし日本で一番批判が強いのは、一般マンションの部屋がAirbnbで貸し出され、外国人旅行者がゲストとして利用する場合である。いわく「しょっちゅう違うガイジンたちが出入りして気味が悪い」とか、「隣の部屋でほとんど毎晩パーティをやって騒ぐのでうるさい」「曜日に関係なくゴミ出しがされて、しかも分別や置き場所がデタラメ」などといった苦情が絶えないそうだ。

1つ目の苦情には人種の違いに対する偏見が含まれているようなきらいがあるとはいえ、本来不特定多数が出入りすべきでない住居用マンションの住民からすれば不用心であることは間違いない。また、2つ目と3つ目に関しては迷惑以外の何物でもなく、とんでもない話である。今、都心近くのマンションの住民理事会では不逞のオーナーにAirbnbを利用させないよう防御策を検討するのに大わらわだと聞く。

そもそもなぜこんな事態になっているのか。このマンションでの苦情はどうやらアジア地域、特に日本でひどい問題になっているらしい(欧米にはそれぞれ別の特有な問題が発生している)。

Airbnb上で実際に貸し出されている日本の宿泊場所、特に東京圏の物件はアパートかマンションが大半である。一軒家の一部屋を貸すというのは稀だ。マンションの部屋を貸すのも「まるまる貸し切り」というタイプが圧倒的に多い。つまりオーナーが住んでいるわけではなく、貸し出し専用となっていると推測されるのだ。

不動産関係に詳しい知人の解説では、オーナーの多くは投資家だそうだ。都心の住居用マンションを買っている投資家には目先が利いている人たちがいて、普通だったらとっくに転売もしくは2年単位での賃貸へ転換するところを、さらに値上がりを待つ間にAirbnbにて貸出すことで日銭を稼いでいるのだそうだ(「オレもやろう」と考えたアナタ、都心のマンションは既に値段がつり上がっていてリスクは小さくないですよ!)。

台湾の友人によると(彼も中国人の友人から誘われたそうだ)、実はこの投資家たちの少なくない割合が中国人の富裕層や役人の家族であるらしい。彼らは昔からの知恵で、資産ポートフォリオとして海外不動産に投資をするのに積極的だ。それに加えて、いつ国外逃亡する必要があるかも知れず、また子息を留学させるかも知れない等、複数の理由が常にあるらしい。

日本の大都会の不動産を購入した彼らは、それをAirbnbにて貸出すことで地道に利回りを稼ぐ構造を作っているのだ。とりわけタワーマンションは眺めがよいため、特にアジアからの旅行者に人気が高いという。

普通だったらこういうビジネスは日本では、問題が大きくなった時点で規制当局から摘発されてポシャってしまう。しかしAirbnbには運も味方している。

日本経済が低空飛行を長年続けてきたため、ホテル業界は大市場の東京でさえ大規模投資を躊躇してきた。そんな中で景気が回復した上に海外からの旅行者数が予想以上に急速に伸びてきたため、東京都心では宿泊ニーズを満たすだけのホテルの供給量が絶対的に不足している。そのため国内のビジネス出張者が当日だと宿が取れずに、都心から大きく離れた立川辺りに宿泊せざるを得ないという事態が生じているのだ。

この状態で東京オリンピックを迎えたら、国内外からの旅行者からは大ブーイングを食うだろう。国内の出張も制約されてビジネス停滞の恐れさえ生じる。アベノミクスの第三の矢にとってボトルネックになりかねないのだ。

そこで政府が振った「打ち出の小槌」が、Airbnbを念頭に置いた「民泊条例」を東京や大阪などで成立させることだ。つまり従来の旅館業法はそのままに、特定地区(国家戦略特別区域)においてのみ例外扱いを認めるというものである。まずは大阪と東京都・大田区で始まっている。

この内容は色々と報道されているのでここでは細かく触れないが、大まかにいえば、25平方メートル以上の部屋であれば、旅館業としてではなく「簡易宿所営業」として許可を取り、7~10日以上の連泊をさせるならばOKということだ。ただし、そのためには保健所の許可も取らないといけないし、消防法令への適合、つまり消防用設備等を設置すべくかなりの改装も必要となる。さらに宿泊者管理のために宿帳を常備して、宿泊者に記入してもらわなければいけない。

明らかな問題点として、従来Airbnbで貸し出されている物件の多くがこれに該当しそうもなく、かといって大掛かりな改装をやるとも、そして宿帳を備えるとも思えず、中国人オーナーだけでなく日本人オーナーでさえほとんどが無許可で営業を続けるだろう。したがって、マンション住民の被る迷惑問題は解決されないまま続きそうだ。

実はこの「民泊条例」が固まる前の段階では、日本の当局がホテル・旅館業界からの圧力に屈してAirbnbを厳しく規制するのではないか、実質的に違法営業しているホストたちを摘発するのではないかという噂が飛び交っていた。しかしAirbnbのロビー活動に押された(?)米国政府からの圧力と、日本国内の「インバウンド促進派」の人たちの規制緩和の大合唱に、緩めの規制に留まる「民泊条例」が施行されることになったという経緯がある。しかしこれで本当によいのか、小生は素朴な疑問を持っている。

Airbnb利用でも、ホストが同じ屋根の下で生活しているハウスシェアリングもしくはルームシェアリングの方式だったら全く問題はない。万一火事などが起きたとしてもホストがゲストを叩き起こすので、消火器が備えつけられていなくても焼死体となることはまずなかろう。

後で近所の人たちから苦情を言われる鬱陶しさを考えたら、あらかじめゴミ分別やゴミ出しの仕方についてもオーナーであるホストがきちんと教えるだろう。真夜中までバカ騒ぎすることも控えさせるだろう。

しかし同じAirbnb利用でも、ホストが遠く離れた星の下で暮らしているような「まるまる貸し切り」タイプの場合、先に挙げた全ての問題(火事への備え、ゴミ出し問題、夜中の大騒ぎ)が生じる可能性は否定できない。

しかも仮に犯罪者を連れ込んでいても誰もチェックできないのだ。法務局の人は「空港などの水際でテロリストも犯罪者も入国拒否できる」と強弁するだろうが、日本国内で罪を犯した人間が、警察に知られずにしばらくは逃げおおせる場所が一杯あるということなのだ。

つまり日本での今のAirbnbの使い方はコミュニティとしては全く望ましくないのだ。たとえ「民泊条例」に沿っていても本質的には同じだ。問題とすべき点は、「民泊条例」が気にしているような広さや衛生面ではなく、防犯・迷惑防止といった観点なのだ。

ではどうすべきか。シンプルである。ホストが同居するタイプの部屋貸しは補助金を出してでも促進する。一方、ホストが同居しない「まるまる貸し切り」タイプの営業はかなり厳しく規制し、入口でのリモート監視・録画機能も必須とし、犯罪者や怪しげな連中を部屋に引き入れることができないようにするのだ。

防火・衛生関係の条件と相まって大幅な設備投資を余儀なくされることは仕方ない。この規制を無視して無許可営業を続けるオーナーは粛々と摘発して罰金を徴収するのだ。

日本に居住しておらず、裁判所の通知・通告を無視し続けることになる外人オーナーたちも容赦する必要はない。罰金すら払わない場合、最終的には当該の不動産を競売に掛けて物納させればよい。彼らの大多数は賢いから、素早く不動産を転売するか、別の商売に鞍替えするだろう。TPP発効前なら、ISDS(国家と投資家間の紛争解決)条項に引っかかって国際的な問題になる事態は避けられるので、条例の修正を急ぐべきだ。

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