コンセプチュアル思考〈第2回〉 「コンセプチュアル思考」とは何か/村山 昇
INSIGHT NOW! / 2016年2月25日 13時44分
村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング
「コンセプチュアル思考(conceptual thinking)」は、すでに何か一般的な定義が確立されているものではありませんが、ひと言で表現すると
「その物事が何であるかをとらえる思考」と言っていいでしょう。
「コンセプト|concept」というと、何か企画を起こすときの軸となる考え方を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、それは狭い意味で、この語は本来「つかむ・内に取り込む」という意味を持っています。
私たちは感覚器官を通して物事からさまざまな情報や信号を受け取ります。そして何かに意識を向けた瞬間、過去の経験や知識と照らし合わせて、それが何であるかをつかもうとします。さらには、物事の奥にひそむ本質や原理をみようとしたり、物事に意味を与えたりします。そうしたことを繰り返すうちに、私たちは自分の中に「観」(=ものの見方)をつくっていきます。これら人間の広く深く豊かな認識活動をカバーする言葉が「コンセプチュアル」です。
では、「成功」や「失敗」ということを例にとって説明していきましょう。
私たちはそれぞれに頭の中で「成功」がどんなことであるか、「失敗」がどんなことであるかを(概念として)つかんでいます。それは以下にあげるような“コンセプチュアルに考える”ことを通してつかんできたものではないでしょうか。
〈抽象〉
私たちは生きていくうえで、ことがうまくいったり、いかなかったりすることを経験します。また他人も同じようにうまくいったり、いかなかったりする様子をみます。
そこから、ことがうまくいくときの要素は何だろう、うまくいかないときの要素は何だろうと考えます。
こうした要素を引き抜いてそこにある本質や共通性を見出そうとすることを「抽象(ちゅうしょう)」といいます。抽象はコンセプチュアル思考のひとつです。
〈定義する〉
成功や失敗についての本質や共通性を見出すと、私たちはそれにもとづいて
「成功とはこういうことである」
「失敗とはこういう状態のことをいう」
といったように自分の中で簡潔に言い表そうとします。
つまり〈定義〉です。定義もまたコンセプチュアル思考のひとつです。
〈原理を見出す〉
また、私たちは引き抜いた本質・共通性にもとづいて法則や原理を見出そうとします。
これもコンセプチュアル思考のなせるわざです。
〈パターンに分ける〉
成功や失敗についての本質や共通性をとらえると、成功や失敗にはいろいろなパターンがあることがみえてきます。
「成功A型」「成功B型」・・・
「失敗パターン」X、Y、Z・・・などのように。
類型化もコンセプチュアル思考のひとつです。
〈構造的にとらえる・図にする〉
ある場合には、本質的なことを構造や図で表わすこともするでしょう。
こうしたモデル化もコンセプチュアルに考えることのひとつです。
〈具体的に展開する〉
私たちはこうしてとらえた成功や失敗を現実生活のうえで生かそうとします。
具体的な行動として展開するのもコンセプチュアル思考の一部です。
〈観をつくる〉
私たちは長く生きていく間で、成功や失敗ということを図のように「抽象化→概念化→具体化」のサイクルで包括的に認識していきます。そしてやがて自分なりの「成功観」ともいうべきものを醸成します。包括的に物事をながめ、観をつくることもまたコンセプチュアルな思考によってなされるものです。
〈意味を与える〉
私たち人間は物事に意味を与える動物です。
何か大失敗をしてしまったとき、そこに何らかの意味や解釈を与えようとします。
これもコンセプチュアル思考によるものです。
〈理念を立てる・ビジョンを描く〉
どういった理念・ビジョンのもとにチームは成功を目指すのか。
リーダーにとっては大事な仕事のひとつですが、これを行なうにもコンセプチュアル思考が必要です。
このように「コンセプチュアル思考」は広い範囲の、そして深さをもった思考です。だれしも「成功」や「失敗」の辞書的な意味は知っています。しかし、それらをどれだけ深く強く豊かにとらえているかは千差万別です。試しにいま、あなたを含めあなたの周りにいる人たちに次の作業をしてもらってください。
「成功(もしくは失敗)とは何であるかを
一行の文、あるいは一枚の絵で表現しなさい」
……おそらく出てくる表現は、深いものもあれば浅いものもあり、強いものもあれば弱いものもあるでしょう。豊かな答えもあればやせている答えもあるでしょう。それは人それぞれに経験の質・量が違い、そこから「何かをとらえて意や念、観にする」というコンセプチュアルな能力に差があるからです。
本質を洞察すること、概念を形成すること、本質を豊かに応用展開すること、分厚い観を醸成すること―――これらが「コンセプチュアル思考」です。私はこの思考力を鍛錬することが、自律した個として強い職業人を育む上でとても大事なことであると感じています。
なお、「コンセプチュアル」ときくと、日本では『カッツ・モデル』で知られるロバート・L・カッツが提唱した3つのスキル、すなわち「テクニカル・スキル|ヒューマン・スキル|コンセプチュアル・スキル」を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、カッツは「コンセプチュアル・スキル」について概要を述べるにとどまり、詳細を定義したり、体系化しているわけではありません(『カッツ・モデル』については、別の記事で触れることにします)。
いずれにせよ「コンセプチュアル思考」は生成途上にあります。「ロジカル/クリティカル・シンキング」や「デザイン・シンキング」はいまでこそ一般的なものとして広がりをみせていますが、最初に先駆的な提唱者がいて、それを受けていくつかの方向から概念が固まりはじめる。そうして一般的な方法論や教育コンテンツに発展していくという過程を経てきました。「コンセプチュアル思考」が世の中から真に要請されるものであれば、おそらく同じような流れで形ができていくものになるでしょう。このシリーズ記事もその流れの中のひとつの取り組みです。
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