購買部門はどこを目指すのか/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2016年3月9日 15時21分
野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ
最近ある企業の調達本部長から言われたことがあります。「最近のバイヤーは机の前に座ってコンピューターをカチカチやっているから、その姿だけ見ると何の仕事をやっているのか分からない。」と。
一方で、調達コストの7-8割が開発設計の上流段階で決まってしまう、これが定説と言われています。ならばいっそのこと調達購買部門は技術に詳しい人間だけ集めて開発設計部門の傘下にいればよいのではないか。
このようなことを「中国調達とものづくりの現場から」というメルマガを発行しているZhenさんが書かれています。
このようなことからふと思うことがあります。
調達購買部門はどこを目指せばよいのか、と。
この10数年間調達購買部門は欧米型手法のコンペ、入札、サプライヤ集約、集中購買などの活用に追いまくられてきました。こういう活動の中で実は大切な機能を置き忘れてしまっていたのではないでしょうか。それはどのような機能でしょうか。
一つは開発・技術のソース機能です。ある企業は完全に開発ソースを調達購買部門の機能としてフォーカスしています。その企業ではTQCDとテクノロジを優先順位1位にしています。ここではより一層サプライヤの窓口機能として技術開発や技術探索にフォーカスしていき、より開発購買機能を充実させていく、という方向を目指しています。
製造よりへの機能シフトも上げられます。
先日ある会社の調達購買部門向けの研修をやったのですが、その企業の調達部門は製造部門傘下にあります。所謂パーチェシング中心の業務に従事している方が多くいらっしゃるのですが、そこで業務プロセス改革の研修をやったところ、皆さんの改善意識の高さに驚かされました。
「日本のモノづくりの強みはそのマネジメント手法にある」と以前メルマガでも取上げましたが、正にそれを感じる場になりました。
従来当たり前の業務としてやっていた納期進捗、納期改善、サプライヤの現場視察、品質トラブル対応等々、もっと言えば今まで購入したことがないようなものまで、タイムリーに探し出し、必要な時期までに揃えておく、こういうモノをちゃんと作っていく機能はそれだけでもたいへん重要な役割です。また、こういう方向を目指すのも一つの生き残る道ではないかと考えます。
以前プラントメーカーの調達購買の方のプレゼンを聞く機会がありましたが、この業種での調達購買部門は完全にこの役割を果たすことを求められるようです。単に資機材だけでなく作業者や作業者の衣食住までも含めた1から10までを責任を持って必要な納期までに揃えなければならない。正に軍隊における兵站そのものです。
モノの調達に関しては1から10まで任せてくれ、と言えるバイヤーって現在どれ位いるでしょう。決して多くない筈ですし、それができるだけでも相当な価値ではないかと。
これらの考え方は組織論や部門のロケーションなどにも関連します。最近の動向としては多くの企業では開発購買の強化や開発・技術のソース機能の強化を目的に調達購買の拠点を開発拠点の近くに設置するケースが増えているようです。一方で生産製造機能を強化する目的であれば調達購買は一つの製造拠点であり、製造本部の傘下に位置づけるケースもあります。
今まではどちらかというと開発・技術ソース機能に重点がおかれてきたかもしれませんが、生産製造機能強化という役割もノウハウの塊と言えるでしょう。この場合、より事業やプロジェクトに近い立場になりますから、収益への貢献やプロジェクトを成功裡に終わらせることが目標になります。いわゆる事務仕事だけでなく、このような達成感を得る機会があるのとないのとでは、バイヤーのモチベーション自体が大分変わってくるでしょう。最近は生産活動がグローバル化しており、グローバルでのサプライヤの
ものづくりに関するコンサルタント的な機能が求められ始めているとも言えます。
いずれの方向にしても共通するのは単なる事務仕事からの脱却です。A社B社にRFQを展開し回答をもらい見積の比較を行い、安いところに発注する、これでは誰でもできる業務であり事務仕事にすぎません。今回は2つの方向を取り上げましたが、それ以外にも果たさなければならない機能、果たすべき機能はあるでしょう。
正に調達購買部門は転換点を迎えているのです。
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