経営戦略構文100選(仮)/構文2:コーペティション経営/伊藤 達夫
INSIGHT NOW! / 2016年3月24日 10時0分
伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社
3Cにおいて、自社と競合が顧客からの支持を争う枠組みが設定された。しかし、価値提案を中心に戦略を捉えた場合、全く別の視点が得られる。まず、自社の付加価値はサプライヤーが提供する価値と、顧客が感じる価値の差分から定まるため、サプライヤーとの関係も考えることが必要となる。また、顧客が自社商品に感じる価値を減少させる存在を競合と考えると、当社の価値を増加させる企業が存在すること、競合企業の活動が自社の価値を増加させる可能性にも気づく。こういった全体像を捉える枠組みとしてバリューネットがあり、戦略策定のフレームワークは3Cからバリューネットへと移行することが望ましい。
今日の太字の部分は長いですね。
読む気が失せますね。表現力の限界を感じました。おはようございます。伊藤です。今日も元気です。
3Cのメッセージとしては、戦略は自社と競合が顧客の支持を争ってますよということだったわけですが、戦略レベルではこの顧客の支持を争う競合関係だけでは不十分だという話を今日はしていきます。
そもそも、戦略の発生は市場計画と組織計画からは余る部分がどうも巨大組織には存在し、マネジメント層はそれを考えないといけないという認識から始まっています。
その際によく引かれるのがスローンですよね。誰にも気づかれずにフォードの強みと弱みを分析し、競争戦略を立案・実行、その結果、GMがフォードを圧倒したとかそういうストーリーです。
現代でもよくあります。海外の成長市場では競合が何をやっているかが特に見えにくい。資源の集中投資などをこっそりやられると、気づかないうちに大きな差をつけられています。工場も世界中にあって、マーケットも世界中にあるので、競合企業がどの工場で作ったものをどこで売っているのか?などはなかなかわかりません。
コンサルタントは通関情報をひたすら見て、どこで競合商品が作られてどこでどう売っているのかも調べたりするわけですね・・・。
しんどいのでできればやりたくないです。
こういった競合動向は把握しておかないと出し抜かれる。いつの間にかシェアを低下させてしまう。自社の提供価値を低下させてしまう。これはまさにその通りです。
しかし、これだけで突っ走ると限界があるわけです。
なぜかと言えば、全体を捉えていないからですね。3Cは戦略のためのフレームワークとしては不十分とも言えるわけです。自社が競合と顧客の支持を争うという世界観で、環境を分けること自体がプロフィットの獲得に対して不十分です。
そこで提案されたのがコーペティション経営におけるバリューネットですね。
これは、ミクロの教科書の初めのほうに必ず書いてある無差別曲線を理解していれば誰でもわかります。
しかし、誰もミクロの教科書なんて真面目に読まないし、無差別曲線、限界代替率すら経済学部卒の人もほぼ理解していません
。
そうです。3Cに限界があるのは、ミクロの教科書の初めのほうを読むだけでわかりますので、大丈夫です。今日の内容はわかります。簡単です。なんせ、大学1年生が学習する内容ですからね。
代替性とは、競合することです。補完性とは、お互いに補いあうということです。つまり、3Cは代替性でしか財同士の関係、つまり商品同士の関係について説明していません。補い合うことを説明していないので不十分な面があるわけです。そして、補い合うことを考えると、サプライヤーまで登場人物に入れざるをえなくなります。すると、顧客だけを見ればいいわけではないことがわかります。
では、どのように補いあうのか?それを見ていきましょう。
わかりやすいのは成長市場です。成長市場では、競合が参入してきたほうが、補い合う側面が大きくなります。
まず、自社が価値提供できない分の超過需要については、競合がその需要を満たしてくれた方がいいのです。その分、業界の総提供価値が増大しますからね。
その結果、サプライヤーがその価値提供に対して原材料などを提供するわけですが、競合が増えてその規模が大きくなると、サプライヤーのコスト削減が見込めることがあります。更に、広告宣伝においても、その商材の認知度は競合が多数いることによってより世間に広まりやすくなり、市場の成長を加速させます。
といった面で考えると、競合がいることは必ずしも自社の付加価値を減少させるだけではなく、増加させる場合もあるということです。
また、もっとわかりやすいケースもあります。
インドカレーのお店をイメージしてみましょう。私はターリー屋というカレー屋さんによく行きますが、朝は400円でナン定食かライス定食が食べられます。ナン定食は、当然ナンとカレーのセットですし、ライス定食はライスとカレーのセットです。サラダもついてきて400円は驚きの安さです。
それでね、ナンとカレーは競合するか?ということを考えてみましょう。同時に、ライスとカレーは競合するか、ライスとナンは競合するか?と。
これはすぐにわかりますよね。
ナンとカレー、ライスとカレーは競合せず、ナンとライスは競合することが多いでしょう。私はナンライス定食というナンとライスが両方ついてくる定食(500円)をたまに食べますが、そういう人はレアです。ナンとライスの両方を食べると満足度が下がるケースも多いわけです。そこまで食べたくないし、太りそうです。
そして、ナンをナンだけで食べる人は少ないですよね。カレースープと合わせることで、美味しさが増加するわけです。ライスはいろいろなものと合わせられますが、ナンと同じくカレースープと合わせて美味しさが増加です。つまり、セットにしたほうがお互いが補いあって価値が上がってくるでしょう。
これを代替性と補完性で言えば、ナンとカレー、ライスとカレーは補完性が高く、ナンとライスは代替性が高いと言えます。
ここまで来ればわかりますよね。競合と戦うことばかり考えるのではなく、競合と補い合うことも考えないといけないし、競合にならない補い合えるだけの企業も存在するので、そういった企業とは仲良くしないといけない。
こういったことを踏まえた枠組みが戦略を作っていくためには必要で、3Cでは不足しているということです。
この要請に答えたのがバリューネットです。
自社を中心に書き、右側に補完的生産者、左側に競合を書きます。そして、上に顧客を書いて下にサプライヤーを書いて、ちょうど、自社を中心としたひし形が出来上がります。自社の事業で扱う財でも真ん中に書きこめば、何が競合で何が補完的生産者かがわかってくるし、サプライヤー、顧客との関係の中で、何が自社の付加価値を増加させ、何が自社の付加価値を減少させるのかがわかります。
それって、バリューチェーンとファイブフォースの同時分析みたいなものですか?という突っ込みが来そうですね。
しかし、
バリューチェーンとファイブフォースの同時分析を使いこなすことは常人にはほぼ不可能です。完全競争市場をベースとした代替性分析による業界の収益の保守的なありようを捉える枠組みと補完性を中心として価値連鎖を捉える枠組みを巨大な情報量でやるとか、普通は無理ですね。多くの「コンサルタント」も理解していないでしょう・・・。
しかし、今回は3Cは卒業してバリューネットに移行しましょうというところにフォーカスして先に進みましょう。ステップバイステップです。徐々にわかるようになればいいのです。
当然、3Cも「3C+C」といって、チャネル要素を加えてみたり、「3C+P」と言って、補完的生産者を加えて考える拡張が試みられてきました。でも、そもそも「我々は競合と顧客の支持を争う競争をしているんだ!」ということを表現するための枠組みですからね・・・。そうじゃないんです。
「我々は自社の付加価値を最大化するんだ!」と考えた時、バリューネットの枠組みが見えてくるのです。
誰が自社の付加価値を増大させてくれるのでしょう?誰が自社の付加価値を減少させるのでしょう?付加価値をGDPと同様に売上と調達コストの差で見た場合に、サプライヤーが入ってくるのは当然のことですし、競合以外に自社の付加価値を増加させる企業、カレーで言えば、ナンを作る会社やライスを作る会社があり、それらの会社とは価値を互いに増加させあう関係にあることも明らかです。
そして、競合の活動の中にも、自社の付加価値を減少させるだけではなく、自社の付加価値を増加させる活動があるはずです。
環境を競争だけで捉えると限界がありますよ、ということですね。
これがコーペティション経営のメッセージだとも言えます。
ただね、人はすぐに極論に走るので、「環境を補完性だけで見て行こう!」という人も出てくるわけです。それがティースのダイナミックケイパビリティですが、今日はコーペティション経営の理解のために、ちょっとだけ見ていきます。
環境を補完性で見て行こうってどういうこと?と思うでしょう。わかりにくいですが、最近の大企業の活動にその典型を見ることができます。
最近ね、戦略ファーム出身者が、大企業に転職して、やたらとベンチャー投資したりしていたりしませんか?そして、ベンチャーの先進的な技術やスピード感を自社に取り入れたりしてますよね。
実質的には乗っ取りだったり、結果的に空っぽの会社を買ったりと死屍累々ですけど・・・。いわゆる大企業とベンチャーの協業です。
「オープンイノベーション」とかっこよく言ったりします。ググればたくさん
微妙な事例が出てくるので、ここでの事例説明は割愛します。
乱暴に言えば、大企業は外部資源をいろいろと利用可能だし、ベンチャーは大企業に利用されることでメリットあるよね、ということです。お互いに補完性を見出しているわけです。
微妙な事例ばかりでなく、本当に素晴らしい成功事例が出てくるといいなあと願っております。
ただ、ゲーム理論で、協力関係が均衡状態になることは、きわめて特殊なケースですし、生物学における共生関係も特殊な状態であり、たいていは競合の果てに滅ぼしあうんだということはわかっておくべきですね。
ただ、戦略策定におけるフレームワーク設定において、「自社は競合と顧客の支持を争う」というコンセプトで枠組みを考えるのか、「自社の付加価値を最大化する」というコンセプトで枠組みを考えるのかによって枠組みが全く変わってくるよ、ということです。
競争だけじゃなくて協業もあるよということで、コンペティションとコーポレーションを融合した造語、コーペティションを使って、「コーペティション経営」というんですね。
ただ、書籍「コーペティション経営」のほうは「ゲーム理論の知見をうまく使うんだ!」みたいなメッセージが前面に出過ぎているせいか、あんまり一般に普及していないような気がします。みんなゲーム理論嫌いですからね・・・。
安田先生は頭が痛いことでしょう。
それでは今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。
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