調達購買業務をめぐる2つの責任/野町 直弘
INSIGHT NOW! / 2016年4月6日 15時0分
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野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ
調達・購買部門で働く人達の重要な意思決定業務と言えば間違いなく「サプライヤ選定」と「価格決定」の業務でしょう。所謂「契約業務」であり「ソーシング業務」とも言えます、企業によっては「調達業務」と呼ぶ会社もあるようです。
それではこの意思決定をバイヤーはどのように行っているのでしょうか。
教科書的に言えば多面的かつ客観的な「サプライヤ評価」を行いその結果を基に「リスク」と「機会」を判断し、最適なサプライヤ選定を行う、、的なことになるでしょう。
しかし現実世界においては、このような教科書的な答えが全く当てはまらないことも少なくありません。
例えば要求元や開発部門が仕様書や図面を出した瞬間に「ここしかできない」サプライヤに限定されてしまう、なんてこともあるでしょう。また候補サプライヤ4社の評価の結果、どこも甲乙付け難い状況になってしまい、どこを選定するか判断に迷うことも多くあるシチュエーションです。場合によっては私はここを選びたいが上司は違うサプライヤを選定したい、なんて場面も考えられます。また何らかの戦略から必ずしも評価が高いサプライヤを選択しないことも起こり得るでしょう。
いずれにしても、重要な意思決定業務であっても単に評価の点数や○×だけではなく恣意的な意思決定が行われることは否定できません。
先日「中国調達とものづくりの現場から」で岩城さんが面白いことを書かれていました。
「第450号 優秀なバイヤーは、優れた小説家である(3/15日号)」からの抜粋です。「我々バイヤーは、ベストサプライヤーをチョイスしていると決裁者が確信を持てる素敵なストーリーを書かなくてはならない。たとえサプライヤー選定のプロセスが、どんなに理不尽なものであっても。」と。
全くその通り。バイヤーはどのサプライヤを選定するかということよりも(ことも大切だが)それ以上にそのサプライヤを選定することについての理由や論理性を決裁者や関連者に説明しなければならない、ということなのです。
これは開発部門が勝手に使いやすいサプライヤを事実上選定してしまい、調達購買部門が否が応でもこれに追随しなければならない時も同じでしょう。選定理由は「開発部門が決めてしまったから」では勿論通用しません。ですから、「バイヤーは優れたストーリーを書かなければならない」のです。
私が講師をしている研修でも似たようなことを話しています。研修では後半にケーススタディをやっているのですが、ケーススタディの主たるものはサプライヤ選定のケーススタディです。そうするとたまに出席者の方からこのような質問をされます。
「答えは何ですか。」「模範解答を教えてください。」
ご存知のようにケーススタディに正解はありません。しかし考えるべき事項は少なからずあります。ケーススタディでは考えるべき事項についてちゃんと検討しているか、またグループ討議を行うのであればそのような事項について討議をしているかどうか、というのが重要なポイントです。ですから「討議すべきポイント」などについての解説はできますが、正解を教えることはできません。もし、しいて言えば「私はどう思うか。」であれば説明可能です。
現実には少なくないバイヤーが「答え」を知りたがります。しかし考えてみてください。
例えば現実世界において上司に「どのサプライヤを選定すべきか、教えてください。」と聞くバイヤーがいるでしょうか。当然いないでしょうし、もし聞かれたとしても上司は「自分で決めなさい」としか答えられません。それでも「答え」を求めてしまう。これは自身の意思決定に自信が持てていないことの証拠なのでしょう。
いずれにしても自信があるかないかに関わらずバイヤーは何らかの意思決定をすることを求められます。ここで重要なのは「理由や論理性の説明責任」です。つまり意思決定に関して他者を説得しなければなりません。
これが調達購買業務に携わる人達に求められる一つ目の重要な責務と言えます。
説明責任とともに、私はもう一点重要な責務が残されていると考え、研修でもそのように説明しています。それは自分が行った意思決定について「責任を持つ」ことです。
多面的かつ客観的で公平なサプライヤ評価の上でスコアが計算されました。しかしそれで最適なサプライヤ選定ができるかというとそんなに単純なものではありません。申し上げたように最終的な意思決定にバイヤーの恣意が入ることは否定できないからです。
重要なのはどうしてこのサプライヤが最適なサプライヤなのかという「説明責任」それから「意思決定に対する責任」この2つがバイヤーに欠かせない2つの責任なのです。
「意思決定に対する責任」の中には選定しなかったサプライヤに対する業績影響などの責任も含まれます。つまり選定したサプライヤだけでなく選定されなかったサプライヤがこの意思決定によって大幅な業績悪化に追いやられる、というようなことも考慮し、責任を持つことが求められるのです。そうバイヤーの意思決定はそれだけ重要な意思決定なのです。
よく要求元や製造部門から調達購買部門は「そんなサプライヤを選定して何かあったらどうするんだ。責任取れるのか。」と言われます。バイヤーはその責任を取らなければならないのです。バイヤーが日々行っているサプライヤ選定などの意思決定はそれだけ重要な意思決定だと言えます。重要な意思決定を担っているからこそ、「説明責任」や「意思決定に対する責任」この2つの欠かせない責務を持たされているのです。
もしそんな責任をとりたくない、もしくは誰かに答えを教えてほしい、ということであれば一日も早くこの仕事から足を洗うことをお勧めします。
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