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LinkedInで実践される、人と企業の新たな信頼関係|人事の話題作『ALLIANCE』を読み説く/HRレビュー 編集部

INSIGHT NOW! / 2016年4月6日 17時47分


        LinkedInで実践される、人と企業の新たな信頼関係|人事の話題作『ALLIANCE』を読み説く/HRレビュー 編集部

HRレビュー 編集部 / 株式会社ビズリーチ

ALLIANCE(アライアンス)。主に国同士の同盟や企業間の提携を指す言葉です。2015年に発刊された『ALLIANCE 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』は、そうした提携関係を、働く人と企業の関係に持ち込むことを説いています。著者の一人、リード・ホフマン氏はLinkedIn(世界最大級のビジネス特化型SNS)の創業者。同社を含めシリコンバレーのハイテク新興企業コミュニティーで、どのように“働く人と企業のアライアンス”が成立しているのか、今回は日本の労働社会にも大いに参考になる本書のエッセンスを紹介します。

リード・ホフマン、ベン・カスノーカ、クリス・イェ(著)、篠田真貴子、倉田幸信(翻訳)

※クリックすると紀伊國屋書店のページに移動します

双方に「自己欺瞞」があり、相互に信頼を置けない

「企業のために忠実に働くなら、見返りに終身雇用を提供しよう」。一昔前には、米国でもそうした雇用モデルが成立していたと本書は指摘します。しかし、株主資本主義の台頭、コミュニケーション革命やビジネスのグローバル化の急速な進展により、1950年代、1960年代の「安定」は、急激で予測不能な「変化」に取って代わられました。

比較的安定していた時代に最適だった終身雇用モデルは、現在のネットワーク時代には硬直すぎ、昔ながらの出世の階段は米国企業には今やほとんどみられません。また、競争上の圧力に対応するため、多くの企業は組織の柔軟性を高めようとしました。雇用関係を家族的なつながりを含んだものから、契約書に明記された取引関係に矮小化したのです。

そうした変化の結果、企業側は社員に忠誠を求めながら雇用保障など何の約束もせず、社員側も企業への忠誠を語りながら、常により条件のいい雇用機会を探すようになりました。双方に「自己欺瞞」があり、お互いにそれを見抜いているから、相手を信頼できなくなっているのです。

自立したプレーヤー同士が結ぶ、提携関係

企業と社員が互いに信頼できないという状態を脱するため、本書は両者の関係を見直すべきだといい、雇用を「アライアンス」だと考えることを提唱しています。自立したプレーヤー同士(雇用主と社員)が互いにメリットを得るため、期間を明確に定めて結ぶ、提携関係のことです。

企業と社員は対等であるべき

アライアンスという関係には2つの特色があります。1つは、関係を結ぶ「両者が対等」だということです。かつての日本企業(一部の企業ではいまだにそうかもしれません)は、働く人のキャリアについて、すべてを企業に委ねることを求めました。「どこで、どんな仕事をするかは企業が決める。言うことを聞けば、雇用保障など悪いようにはしない」といった上下関係です。

一方アライアンスでは、両者は対等です。企業は社員に向かって「当社の価値向上に力を貸してほしい。当社も、あなたの価値を向上させよう」と示し、社員は上司(企業)に向かって「私が成長し活躍できるように手を貸してください。私も企業が成長し活躍するための力になりましょう」と示す必要があります。

期間を区切ると、整合性を取りやすくなる

アライアンスのもう1つの特色は、「期間を区切る」ということです。期間を区切ったうえで、企業と社員が「〇年の間に、こんな仕事を担当する。こんな成果を挙げる」ということについて約束を交わすことを、本書では「コミットメント期間」と呼んでいます。

なぜ期間を区切る必要があるのでしょうか。その理由として本書は、企業の目標と価値観と、社員のキャリア目標と価値観との、整合性を取ることの難しさを挙げています。例えば、最終的には起業家になることをキャリア目標に掲げている社員がいるとします。その社員と企業が、10年以上といった長期にわたって目標や価値観の整合性を保つことは難しいでしょう。ですが3年という期間を区切って、起業家になった際に役立つ仕事を任せるようなコミットメント期間の設定は可能です。

このようなコミットメント期間の実行で、いったん互いに信頼関係を築けたなら、他社に移った後再び戻ってきたり、雇用以外の関係で仕事を依頼したりという展開も考えられるようになります。コミットメント期間の設定は短期間、1回限りとは限りません。本書ではさまざまな期間や内容のコミットメント期間を積み重ねることで、社員と上司、企業間の信頼が増していった、LinkedInでの事例も紹介されています。

社員の人脈が持つ知識や情報を活用する

企業と働く人の間にアライアンスが成立することをベースに、本書は社員に「ネットワーク情報収集力」を求め、企業に「卒業生ネットワーク」を活用することを提唱します。「ネットワーク情報収集力」とは、その人の人脈全体が持つ知識や情報のことです。個々の社員が持つ人的ネットワークの活用は、一般に公開されない隠れた情報へのアクセスを可能にしたり、それなしでは見過ごしたであろうチャンスに気づいたりといったことを、組織にもたらしてくれます。

企業と社員の間にアライアンスが成立していれば、社員のキャリアは社内に限定されません。自らの能力を高めるためにも情報収集や人脈づくりに熱心になり、「ネットワーク情報収集力」はおのずと高まるでしょう。

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「卒業生ネットワーク」は企業を退職した人たちをSNSでつなげることや、定期的に同窓会を開くことなどで活性化できます。そうすることで、優れた人材の獲得や有力な情報の取得、卒業生を通じた顧客の紹介、さらには卒業生が自社のブランド・アンバサダーになってくれるといったメリットを、企業側は享受できます。

守れない長期的な約束より、対等な立場で期間を区切った約束を

本書が言及するビジネス環境や雇用モデルの変化は、米国を念頭に描かれたものです。日本は米国ほど雇用の流動化は進んではいないと思われますが、一方で、今や転職は日本の労働社会でも一般的です。また自らのキャリア開発に個人が主導権を持つ、「キャリア自律」という考え方も広まってきています。

「終身雇用」というような、実際には守れるかどうかわからない約束ではなく、対等な立場で、期間を区切った約束を積み重ねることで、かえって長期的な信頼を醸成していく……。こうしたアライアンスの考え方は、日本の企業と働く人の関係においても、大いに参考となるでしょう。

文:五嶋正風

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