経営戦略構文100選(仮)/構文4:経験曲線以前と以後/伊藤 達夫
INSIGHT NOW! / 2016年4月23日 9時15分
伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社
経験曲線以前は戦略は定性的に企業のやりたいことをどう実現するか?ということが主要な論点だったが、経験曲線以降、戦略は正しい分析によって収益を上げる方策を含むものとなった。
おはようございます。伊藤です。今日も元気です。
今日はシンプルなのでわかりやすいかと思います。なんせ経験曲線ですからね。基礎中の基礎です。大丈夫です。誰でもわかります。
経験曲線のような知見が出てからは、環境の分析、知見の発見、知見を利用した収益の向上という一連の流れがありえることがわかってきて、ちゃんと環境を分析しましょうということに力点が置かれるようになったわけです。このことに自覚的な人とそうでない人が作る戦略には違いが出るでしょうね。
要は、いまだにドラッカーやレビットと言っている人と、それ以降の人では根本的に考え方が違うんです。
アンドルーズもそれ以前に属しますので、SWOT分析もそれ以前の枠組みなんですけどね。経験曲線以降を統合してまで使うもんでもないと思うのですが、みんな使いたがります・・・。ひどいものになると、全社戦略で使おうとしますが、複数事業展開時にSWOT分析を使った施策立案とかやると、事業ドメイン、ドメインを構成する価値複製システムの持続可能性に対して齟齬が出るんですけどね。
そのあたりはエーベルがだいぶ前に指摘していたと思いますが、今日は置いておきましょう。
それでね、経験曲線って何?という人のために簡単な解説を致しましょう。
メーカーのお話ですが、累積経験量が増えると、効率的に生産できるようになり、生産量あたりのコストが低下していくというものです。だから、たくさん作っている会社の方がコスト競争力が強くなる。そうすると、強い者はますます強くなるということです。
アナログにイメージがしやすい知見ですし、グローバルにモノを売るメーカーが巨大化した1960年代から1970年代に経営分野においてよく引き合いに出されたことはよくわかります。
ただ、怪しい部分を言えば、1つの工場規模が大規模化する時にもたらされる効率の向上に依拠している面もあるんじゃないか?というところでしょう。それは従業員の習熟みたいなアナログイメージとは少し違うのでは?という疑問ですね。
それと、もう1つの疑義があります。
アルミニウムの精錬工場では経験曲線がそれほど働かないことが知られています。そりゃあ、アルミニウムは電気を食いまくるものなので、電気を効率的に作れないといけませんが、電気の生産を考えると、そういうのは無理そうな気がします。
電気代があまりにかかるので、揚水式ダムなどを使っているあたりでアルミニウムの精錬とか行われていると思いますが、電気をスケールメリットがあるレベルで作れるって巨大国家の公共事業レベルの話でしょうからね・・・。いかに従業員が習熟してもコストがクリティカルにかかるプロセスが下がらないこともあるということです。
確かに、従業員が習熟することによって、累積経験量が上がって効率化するのは、一定ありそうですが、目に見えて競争力の違いとして現れてくるには、相当な規模が必要でしょう。
ただ、この知見をもとにコスト競争力の向上を予測して、設備投資計画を立てるメーカーがたくさん出てきた時代があったことは確かですし、それがある程度の成果を上げたことも確かでしょう。
この前も書きましたが、市場計画と組織計画の手に余る部分を総合的に考えるのが戦略部分と捉えた時に、経験曲線の知見は市場計画と組織計画の上位で考えられるという意味で、経験曲線の知見に基づく事業計画の策定はまさに戦略的ではありました。将来の収益がある程度予見可能になったわけです。
そうすると、経験曲線が戦略の歴史上出現したことを抽象化して一般的に言えることを言うとすれば、「分析に基づいてある程度正しい知見を得たうえで、その知見が効くうちはそれを活用して競争優位を築いていくというのが戦略の要素としてあるべきだ」ということでしょう。
こういった知見の発見がいわゆるコンサルティングの価値でもあります。海外進出では、例えば飲食系のグローバルビジネスにおいては、名目GDP3000ドルを超えると中間層が立ち上がってくるので、進出しやすくなるとか、味の素さんなどで有名なグルタミン酸などのうま味を摂取している地域ならば進出できると考える経験則などもこれにはまるものでしょう。
戦略は道徳論やら、定性的なやりたいことに基づくビジネスポリシーのようなものではないということです。ある程度、正しい分析作業が必要なことだ、ということになってくるわけですね。
だから、ドラッカーとはさようならですし、レビットともさようならですし、アンドルーズのSWOT分析とも本当はさようならなのです。
ただ、SWOT分析は未だに信者が多くて、定量的な分析要素までSWOT分析に組み込んで意地でも使おうという人たちがたくさんいて困ります・・・。
事業戦略レベルでは、1つの価値複製システムをいかに回していくか?が問題になりますので、確かにSWOT分析でもやれなくはないと思いますけどね・・・。複数事業をもった瞬間に矛盾に満ち満ちた打ち手にまみれるというのが欠点でしょうね。
最近はみなさん理念・ビジョンが大好きですし、「ビジョナリーカンパニー」の流行もあって、相変わらず将来収益とは関係のないビジネスポリシー的な要素が経営では幅を利かせています。組織の安定のためにはビジョンといったものも必要ではありますし、それが組織の対外的信用につながる面があるとは思います。
しかし、現在の価値複製システムが、理念・ビジョンの経営によって維持できなくなるケースや、従業員は「ビジョンに共感して入ってきたのにやっていることは違う!」といったリテンション率を下げているケースはけっこうよく見るんですよね・・・。本末転倒ではあります。
経験曲線以前のいわゆるやりたいことをやるという話と、経験曲線以降の分析に基づいて将来の収益を予見するという要素をうまく統合できている会社を見るのは稀ですね。
未だに戦略黎明期のドラッカー、レビット、アンゾフ、アンドルーズから抜け出せない会社はたくさん見ます。そういう本が書店では平積みで、人々がファンタジーを求めてビジネス書コーナーに足を運ぶ面もあるんだろうと思っています。
特にドラッカーは道徳論に近いですからね。慣習形成に対して道徳がある程度有効な面もありますし、それと気づかぬ形で道徳を導入することは組織マネジメント上の1つの手段ではありますが、意識的に使わないとその副作用や限界を定義づけられないという意味でよくないと思っています。それは戦略的ではないのです。
今日は斜線を引くのを忘れました。熱が出て素で書いているからですね。抗生物質は飲んでいるので熱ももうすぐ下がるでしょう。インフルエンザの検査をしたら陰性だったので多分大丈夫です。今日はちんまり仕事をします。
それでは今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。
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