サービスの現場の経験知を組織の力に変える(1) 【連載サービスサイエンス:第16回】/松井 拓己
INSIGHT NOW! / 2016年4月22日 0時0分
松井 拓己 / 松井サービスコンサルティング
「サービスはお客様と一緒に作るもの」というとても重要な特徴があります。しかし、まだまだ日本のサービスは、「良いサービスは喜ばれるに決まっている」という思いで、勝手に作ったサービスを一方的にお客様に押しつけてしまっているのが現状です。勝手に作ったサービスには、「余計なお世話」や「無意味行為」「迷惑行為」のような要素がかなりの割合で入ってしまいます。これではお客様に満足していただくことはできません。そこでサービスサイエンスでは、お客様から高い評価を頂けるようなサービスを実現するためにサービスプロセスをモデル化して、具体的にどのプロセスでどんな努力をすべきかを明確にします。
また、プロセスをモデル化すると、現場の経験知を組織の力に変えることができます。実は、サービスの現場には経験やセンスで磨いた価値ある知恵や工夫がたくさんあります。しかしそういった知恵や工夫は普段、個人の頭の中やデスクの引き出しにしまい込まれていて、組織で活用できていないことがほとんどです。これはまさに宝の持ち腐れです。こういった価値ある知恵や工夫を見える形にして、現場の経験知を組織の力に変えることが、サービス改革や真のCS向上において、極めて重要なのです。
そこで今回は、現場の知恵や工夫を組織の力に変えて、ワンランク上のサービスを具現化するための方法論として、「サービスプロセスのモデル化」について触れてみたいと思います。
サービスプロセスをモデル化する
サービスプロセスのモデル化は、サービスプロセスに沿ってお客様の事前期待と、それに応えるためのサービス品質を対応させていくことで、高い顧客満足を得られるサービスを設計するというものです。ここでのポイントは3つあります。その1つ1つを順に触れていきたいと思います。
(ポイント1)始めに、サービスプロセスを分解して定義する
さてここで、既にサービスプロセスの定義ができている企業も安心してはいけません。多くの場合、既にされているプロセスの定義は「サービス提供プロセス」の定義のみであることがほとんどなのです。実はこれでは、サービスプロセスとしては不十分です。なぜならば、「サービスはお客様と一緒に作るもの」だからです。そこで、「サービス提供プロセス」と一緒に「顧客プロセス」も定義することが大切です。ポイントは、図にあるように、両プロセスを必ず対にして並べることです。サービス提供プロセスと顧客プロセスを対にして並べて定義すると、実に様々なことが見えてきます。
例えばトラブル対応のプロセスをイメージしてみましょう。サービス提供プロセスでは、サービススタッフが1秒でも早く原因を究明し、トラブルを解消しようと作業に没頭しています。このときの顧客プロセスを定義してみようとすると、書けないことが少なくありません。では、実際にはお客様はどうしているのでしょうか。実は、状況を何も知らされずに待たされてイライラしているのです。このようにお客様への配慮が足らないことが原因で、トラブルは解消したにも関わらずクレームになってしまうことはよくあります。こういったことが、顧客プロセスを定義することで浮かび上がってくるのです。顧客プロセスに「何も知らされずに待たされている」と書かれていれば、お客様にこまめな状況報告をするなどの工夫が必要だと誰でもすぐに気付けるのです。
このように、サービスプロセスは、「サービス提供プロセス」と「顧客プロセス」を並べて丁寧に定義することで、お客様にとって重要なプロセスが抜けていないか?プロセスはこの順番で本当に良いのだろうか?と、サービスプロセスのあり方を見つめ直すことができるのです。
また、プロセスの分解の細かさにも気を付けたいところです。多くの企業ではプロセスの定義は、「打ち合わせする」「提案する」「販売する」「トラブルに対応する」といった粗さで定義されています。実はこれではプロセスの定義が粗すぎて、例えば上記で触れたような「トラブル解消作業中に中間報告を小まめに入れることが抜けていた」という気付きは得られにくいのです。こういった気付きを生み、現場の経験知を見える形にするためには、普段よりも一段階も二段階も細かくプロセスを定義することが必要になるのです。
プロセスの分解は、慣れているようでうまくできていないことが多いものです。いまいちど、丁寧に定義してみる価値は大いにあると思います。
さてここまでで、サービスプロセスを分解して定義することについて見てきましたが、プロセスの定義だけでプロセスのモデル化は終わりではありません。実は、サービスプロセスを定義しただけでは、我々が具体的にどんな努力をしたらお客様に喜んでいただけるのかが明確にならないのです。なぜなら、サービスの定義が示すように、サービス提供者がいくら努力しても、「お客様の事前期待」に適合しなければサービスですらないからです。つまり、お客様の事前期待次第で、サービスで努力すべきポイントが変わってしまうのです。
*サービスの定義については(2) 【連載サービスサイエンス:第2回】の記事をご覧ください。
そこで次回は、各サービスプロセスにおけるお客様の事前期待と、その事前期待に応えるためのサービス品質について定義することで、サービスプロセスのモデル化を完成させたいと思います。
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