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経営戦略構文100選(仮)/構文5:共通価値の戦略:CSV/伊藤 達夫

INSIGHT NOW! / 2016年6月17日 6時0分


        経営戦略構文100選(仮)/構文5:共通価値の戦略:CSV/伊藤 達夫

伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社

経済的価値と社会的価値を同時に実現する共通価値の戦略の枠組みを導入することによって、ユニークな価値を発見し、バリューチェーンの生産性を上げ、地域社会から外部経済を得られるようになり、企業は持続的な競争優位を築き、経済的価値を得ることが可能となる。

さて、お久しぶりです。伊藤です。今日も元気です。仕事にかまけて、こちらで書くことをおろそかにしていました。きっと、私の存在など忘れ去られていると思います。でも、めげません。元気です。頑張ります。私は生きています。

それで、CSVについて今日は書いてみます。

「共通価値の戦略」というやつですね。ポーターの考えの中ではいたく評判が悪いと言うか、ヤキが回ったんじゃないかと言われたりとか、矛盾があると言われたりとか、いろいろいわくつきの考え方です。が、それは気にせずCSVにおけるポーターの主張を見ていきましょう。

文献はHBRのポーターの特集号、「戦略と競争優位」に拠っています。特に「共通価値の戦略」を参照しています。念のため、言っておきます。

それでね、このCSV、共通価値の戦略はそれまでのポーターの考え方と違うのか?と言うと、私はあまり違わないと思います。ただ、違うと読みたがる人が多いと思っています。 違うと読みたがる人はそれまでのポーターを全く理解していないんだとも思いますけどね。

ポーターの考え方は、収益性の高い業界において、ユニークな価値システム、特別に調整されたバリューチェーンを構築することで持続的競争優位を築くというものです。

意味がわからないかもしれませんが、「そんなもんなのかな」ぐらいで読み進めてください。

それでね、ユニークな価値システムを構築するためには、ユニークな価値を規定しないといけない。でも、それはけっこう難しい。当たり前の価値しか普通の企業は規定できていない。

しかし、CSVのアプローチでユニークな価値が規定しやすくなるとポーターは言っています。

それでまず、価値って何?というところからです。価値とは、コストと比較の中での便益のことです。

便益とは、ニーズをターゲットから見た意味合いのことです。

この時点で意味不明ですね。絶望的な気分になりますが、頑張りどころですので、しっかり見ていきましょう。

まずね、みなさんが大好きな例で行くと、「お客さんはドリルが欲しいんじゃない、穴が開けられれば手段はなんでもいいんだ!」というレビットの有名なやつがありますよね。

穴がニーズだったとしましょう。じゃあ、外科医をターゲットとして穴を開けられるというニーズを考えると、便益はきっと手術をする時に体に穴があけられるということなのでしょう。日曜大工をやりたい人がターゲットだったら、木材に穴をあけられて、家具が作れるということなのでしょう。

伝わりますでしょうか?

それでね、木材に穴をあけられて、家具が作れるドリルがあったとして、同じ便益でコストが5万円と10万円のものがあったら、コストが低いものの方が、価値が大きそうですよね。

価値は基本的に、便益とコストの二軸で考えることで、ポジショニングの違いを見ていく概念です。現実には同じ便益で値段が2倍違うケースは想定しにくいですが、イメージしやすくするための具体例です。

では、カメラを考えてみましょう。写真を取る、記録を写真で残すというニーズがあったとして、プロ写真家であれば、便益としてはハイクオリティな写真が撮れるということでしょうし、素人写真家であればただ記録として残せればいいということでしょう。

コストはプロ向けのカメラの方が高そうです。素人向けのカメラは安そうです。

しかし、素人も写真を撮り続けているとプロみたいな写真がとりたくなってくる。プロと同じような道具を使えば撮れるんじゃないかと淡い期待を抱きそうですよね。

そうすると、これまでのプロ向けカメラと素人向けカメラの便益とコストの中間をとったような商品が出てくるわけですよ。これが価値の分析というやつです。

ニーズ、便益、価値までわかりましたでしょうか?

上記の例で見ていくと、新商品はこれまでの商品と何が便益として違うか?というのを考えていくことになりそうですが、ぱっとしないものばかり出てくる状態になりがちです。アイポッドが出る以前のMP3プレーヤー市場とかね。

そこで、ポーター的にはCSVのフレームワークがいいよ!と言いたいわけです。

社会的価値、社会的便益、社会的ニーズを考えることで、すごく画期的な、ユニークな、バズワードっぽく言えばイノベーティブな商品が作りやすくなるというわけです。

商品開発の歴史みたいなものを考えると、似たような商品ばかりになってサチュレートしていくような感じの状態が成熟市場では往々にしてあるわけじゃないですか?それを打ち破るには発想の転換が必要なことは確かだと思います。そこで、社会的便益から考えるアプローチでこれまでの行き詰まりを吹き飛ばせるかもしれない、というのは確かに同意できます。

リバースイノベーションとか、そうですよね。

空気清浄機は日本ではある程度、機能的に行き詰った感がありましたが、インドネシアでは、蚊が媒介する伝染病が社会問題です。だから、空気清浄機に蚊取り機能をつけ、すごく売れた。

これが今度、日本でも発売されるそうです。日本の発想の中にあるままだったら、出てこない商品でしょう。インドネシアの社会的ニーズがあればこそ、出てきた商品だとも言えるでしょう。

価値についてはここまでにしましょう。なんせ、バリューチェーンの話と、地域社会の話もしないといけませんからね。

ただね、上記の価値の話を見るに、ポーターのこれまでの考え方とさして変わってないと私は思うわけです。ポーターは元々、「収益性の高い業界において、ユニークな価値システム、特別に調整されたバリューチェーンを構築することで持続的競争優位を築け」と言っています。

そのためのユニークな価値がなかなか出ない状況の中で、社会的ニーズをきっかけに、ユニークな価値システムを構築すればいいというのは、「社会的」ということを利用しようと言っているに過ぎません。

それで、「価値システム」の説明をしていると日が暮れるので、今回は「価値」だけで我慢してください。ごめんなさい。いつか価値システムやフィットといった概念を真面目に解説します。

さて、ここからバリューチェーンの話と地域社会の話です。これらはまとめて書いてみます。これも真面目に解説していると日が暮れます。しかし、CSVという見てくれにするために、バリューチェーンの話と地域社会の話がポーターの文章では分けて書かれていますが、別に分ける必要もないと思います。

ポーターは市場外の影響の話、つまり外部性の話と、取引を介した話、つまり補完性の話をしています。市場外で影響を及ぼしあう対象とは、お互いに外部経済が働く状態に、外部不経済が最小化するような状態になるのがいいと言い、市場を介した取引においては、取引対象と補完性を最大化するのがいいと「共通価値の戦略」では言っているわけです。

外部性と補完性については経済学をやっていれば、基本中の基本ですのでわかるわけですが、知らない人もたくさんいると思いますので、説明を試みます。

まず外部性ですが、市場を介さずに企業は影響をいろいろな主体に与える可能性があります。いい影響を外部経済、悪い影響を外部不経済と言います。

わかりやすいのは、外部不経済ですね。いわゆる環境問題は外部不経済です。タバコの煙は外部不経済です。私はタバコの煙が大嫌いですが、路上でタバコを吸う人がいると、周囲の人はタバコを吸っている人と取引関係は全くないですが被害を被ります。新宿区は全域で路上喫煙禁止のはずなんですけどね・・・。

わかりにくいのは外部経済ですが、これは道路がわかりやすいでしょうか。わかりやすくするために山奥の例にしましょう。山奥で誰かが一生懸命、道を作って通りやすくしたとして、「その道はカネを払わないと通れないぞ!」とカネを徴収できるかというと、なかなか難しそうです。みんなは勝手に使いそうですよね。

誰かがやったことの利益をみんなが享受できてしまう、カネを徴収できないのを外部経済と言います。

ポーターは外部不経済を最小化するような投資を積極的に行うことで生産性が上がると言っています。また、地域社会を活性化するような投資を積極的に行うことで、地域社会から外部経済の利益を受けることができると言っています。

水資源は稀少だとよく言いますが、水の使用を減らすような投資を行うと、社会への外部不経済を減らすことができますし、コストの削減にもつながります。

産業集積など、同一地域に同じような企業が密集しているケースがありますが、これはお互いにメリットがあります。コーヒー店がまとめて出店している地域があり、おの地域名が有名になり、それを目当てに人々がやってくるならば、お互いに広告宣伝費を削減できますからね。お互いに競合ではあるわけですが、同一地域への出店は外部経済がお互いにある。

いわゆる技術コモンズと言われるものも、外部経済があります。そこに技術を持った企業がまとめてあることによって、地域という物理的制約の中でのいろいろなコストが最小化されます。

これにタダ乗りすることもできる。しかし、全員がタダ乗りしていてはコストがかえって上がってしまう。花火大会をやると、見に行く分にはタダ乗りできます。花火大会を主催する側は、花火によって人が集まってくることで、それを商売の機会にすることで回収するわけですが、全員が何も買わなければ成立しません。全員が花火の観賞をタダでやっていては、成立しないわけです。

ポーターは地域社会から得られる外部経済に対して自覚的になり、地域社会を支えるような投資を行うことで、企業はメリットが得られると言っているわけです。

これがバリューチェーンの生産性を向上させるお話と、地域社会のお話の中で外部性の部分です。

補完性は難しく説明することもできますが、今回は単にWin-Winの関係だと思っておいてください。競争じゃないんだ!共創なんだ!と意識高い系のおじさんが言うやつです。限界代替率から説明していたら日が暮れます。

それでね、元々ポーターはバリューチェーン上は補完性について着目はしています。ただ、ファイブフォースモデルにおいて、完全競争市場からいかに離れているかが大事だ!とは言っているのですが、外部性についてはあまり言っていませんでしたし、特に外部経済を得られるロケーション要素があるよというのは、言っていなかった。

だから、ポーターは自身のモデルにおいて、代替性と補完性だけでなく、外部経済と外部不経済も組み込んだと言えます。自然な拡張だと言えば拡張です。

そしてファイブフォースモデルにおいてはロケーション要素を加えたと言えます。完全競争市場から対象の市場がいかに離れているかを分析するのがファイブフォースモデルですから、物理的制約がないとする経済学に対して、物理的な距離は制約になるというのはごく自然な指摘になるわけです。

つまり、CSV:共通価値の戦略はポーター自身の枠組みの発展的拡張であって、方向転換ではないのです。

これを真面目に語ると、こんな記事では無理で、一冊本が書けてしまうネタですので、今回はこれぐらいにしておきましょう。

ポーターは「資本主義万歳!」ですし、ファイブフォースモデルにおいて、現実と完全競争市場との乖離に着目したことも正しいと思っていますし、バリューチェーンに外部性を加えることも自然な流れとも言えます。

更に言えば、ポーターの言うユニークなポジションは口で言うのは簡単だけど、ユニークな価値を中心に価値システムを構築する時に、そのユニークネスをどう発想するか?は常人には非常に難しかったわけですね。それを社会的ニーズ、社会的便益とからませることで、発想を容易にしているのです。

だから、ポーターは自分のモデルの発展的拡張を言っているのです。しかし、ほとんどの人は読んでいないのか、字面を追えても意味が理解できないのか、そうは言わないんですよね。せつないことです。

それでは今日はこのあたりで。私の言うことは伝わりませんが頑張ってテンション高く生きていきます。私は元気です。

なんとか時間を作ってこちらでも書いていきますので、次回をお楽しみに。

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