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「がん」は、いつまで不治の病であり続けるか/竹林 篤実

INSIGHT NOW! / 2016年5月4日 17時0分


        「がん」は、いつまで不治の病であり続けるか/竹林 篤実

竹林 篤実 / コミュニケーション研究所

男性は肺がん、女性は大腸がん

がんが死因第一位であるとはいえ、男性と女性ではその発症部位は異なる。厚生労働省が発表した「人口動態統計(2014年)」によれば、男性は肺がんでの死亡者が52,505人である。以下、胃がん・31,483人、大腸がん・26,177人と続く。一方、女性については、第一位が大腸がんで22,308人、以下肺がん・20,891人、胃がん16,420人となっている。

少しデータが古くなるが、2011年の部位別がん罹患数は、男性では胃が90,803と最多で、前立腺78,728、肺75,433と続く。同様に女性では、乳房77,472、大腸52,820、胃41,950となっている。

胃がんは感染症、防ぐことができる

男女合わせて、年間で約4万8000人近くが亡くなっている胃がんの発症メカニズムは、既に明らかになっている。胃がんの99%が実はピロリ菌によって引き起こされているのだ。これは、他の部位に発症するがんとの大きな違いである。

しかも、ピロリ菌の感染は、たいていの場合5歳までに起こる。なぜなら、感染源は親だからだ。かねて胃がんが遺伝性と思われてきたのも無理はない。ピロリ菌は親から子どもへと感染する、つまり遺伝と勘違いされても仕方ないことだ。

だからといって、ピロリ菌が空気感染するわけではない。もし、そんなことが起これば、世の中に数えきれないほどの胃がん患者が出ることになる。感染経路は胃液である。ピロリ菌は、人の胃だけに感染する。従って、胃を経由するもの、例えば親の唾液などに含まれることがある。これが子どもに感染しやすいことは、容易に想像できるだろう。

ただ、胃がんの原因となるピロリ菌が細菌であることが、まさに胃がんを防ぐ手立てとなる。ことは簡単で、まずピロリ菌の保菌者であるかどうかをテストすればいいのだ。万が一、保菌者だった場合には、除菌する。それだけのことだ。

ピロリ菌の検査には、内視鏡を使う方法と使わない方法がある。簡単かつ精度が高いのは、内視鏡を使わない尿素呼気試験法だ。試験の結果、菌が見つかった場合の除菌は、薬を1日2回7日間服用する。これで75%以上の確率で除菌は成功する。つまり、胃がんを防ぐ確率は飛躍的に高くなるのだ。気になる方は、まずピロリ菌の検査をされると良いだろう。

末期がんでも治る

末期がんとなると、手の施しようがない。モルヒネを投与して、できる限り痛みを抑えて、静かに最期の時を待つ。こうした従来の常識が、一部のがんに限っては当てはまらなくなっている。

皮膚がんの一種メラノーマと肺がん(正確には非小細胞肺がん)の特効薬が開発されたのだ。「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」と呼ばれる免疫薬である。メラノーマではオプジーボにより、末期がんの患者の22%でがんが消滅したとの報告もある。

免疫薬オプジーボと従来の抗がん剤では、がん細胞に対する働き方がまったく異なっている。抗がん剤は、その名の通りがん細胞を直接攻撃するものだ。抗がん剤の問題点は、薬剤ががん細胞だけにピンポイントで効くわけではないこと。そのために抗がん剤を投与されると、体のあちこちで副作用が起こる。しかも、がん細胞はいずれ抗がん剤に対する耐性を持つようになる。

これに対してオプジーボは、がん細胞に対して直接働きかけるわけではない。オプジーボは、本来人の体が備えている免疫機能を復活させる薬剤である。がん細胞は、人の免疫機能を阻害するメカニズムを備えている。これにより免疫細胞による攻撃を免れている。

そこでオプジーボは、このがん細胞が免疫機能を阻害するメカニズムに働きかけることで、免疫細胞本来の力を発揮させる。免疫細胞は本来強力であり、その力を発揮すればがん細胞を消失させることが可能だ。そのために末期がんの患者でもオプジーボを投与することで助かる可能性が高まる。しかも、オプジーボは、副作用はあるものの抗がん剤のように激しいものではない。

魔法の薬オプジーボは、現時点ではメラノーマと非小細胞肺がんの治療薬として承認されており、今後、ほかのがんにも適用される見通しだ。既に腎臓がん、血液がんの一種についての承認が申請済みで、今後も頭部頸がん、胃がん、食道がんなどへの適用が期待されている。

あらゆるがんを治療できる可能性

以前の記事「iPS細胞はどうなっているのか」で紹介したように、iPS細胞を活用したがんの治療法も研究が進められている。これも免疫細胞によって、がん細胞を攻撃するメカニズムは、オプジーボと同じだ。

オプジーボは薬効成分によって、体内の免疫細胞を活性化し、がん細胞を攻撃する力を復活させる。これに対してiPS細胞を活用する場合は、自分の免疫細胞をiPS細胞によって作り、体内に注入することで、がん細胞を攻撃する。iPS細胞は無限に増やすことができるので、がん細胞を攻撃し尽くすまで免疫細胞を作ればよい。

これも自分の体が本来備える免疫機能を活用したがん治療であり、副作用も少ないものと予想される。iPS細胞を活用したがん治療の実現には、まだ少し時間がかかり、男性の死因第一位の肺がんに効くオプジーボも現時点では薬価が高額なことなど問題はあるが、がんとの戦いに人類が打ち克つ日は、それほど遠くないようだ。

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