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分業のメリットと弊害/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2016年5月6日 15時0分

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野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

この度の熊本県を中心とした地震で多くの方が被災されました。
心よりお見舞い申し上げるとともに一日も早い地震の収束と復興を祈念しております。

今回の地震の影響でやはりサプライチェーンの断絶がニュースとなりました。トヨタ自動車では4月18日から23日の一週間国内完成車ラインでの生産を停止し、25日以降段階的に稼働を再開しています。
今回の地震においてはトヨタ自動車は「人命第一」「地域の復旧」を最優先にする、というリリースを発表しており、震災直後よりトヨタ独自のリアルタイム交通情報を元に「通れた道マップ」を公開するなど行っており、無理やり生産を継続しないのがトヨタ流という論調まででているようです。
いずれにしてもこういう時期には如何にサプライチェーンの断絶を防ぎ、販売機会を逃さないかという点が調達購買部門へ求められる役割と言われます。

このように調達購買部門に求められる役割は益々範囲が広がっていくことが分かりますが、一方で調達購買部門は10数年前と比較するとものすごく分業化し特化されつつあるな、と感じる場面がたびたびあります。社内的、社会的にも10数年前から比べると重要視されるようになってきていますし、人員数も増えている企業の方が多いのではないでしょうか。

人員増は先ほども申し上げましたが分業化とともに進展しています。具体的には、カテゴリ購買、プロジェクト購買、地域購買、製品別購買、開発購買、購買企画、購買管理などの部署ができ分業化が進んでいます。またルーティン業務については調達購買部門の業務からは切り離され、工場や生産の業務として分業化を進めてきた企業も少なくありません。

先日ある外資系製造業でこういう話を聞きました。グローバルでの調達購買の組織体制が大幅に見直され、日本における体制はカテゴリ購買、プロジェクト購買、量産購買(いずれも仮称です)の3グループに分業、特化された、と。
グローバルで見ると日本にカテゴリ戦略やサプライヤ戦略の作成、ソーシング意思決定等の戦略的意思決定の機能を持たせる必要はなく、基本は分業、専門化、標準化の方向であり、できるだけ低コストでオペレーションを回す方向になることは止められません。
しかし、このような分業、専門化、標準化の方向が本当に目指すべき方向なのか私は疑問を感じざるを得ません。

そもそも分業とは古典的な経営学の一つの代表的な手法であり、大きく3つのメリットがあると言われます。一つ目は分業することで専門化が進み、それにより生産効率が高まることです。二点目は一つの仕事に集中する事による習熟効果です。つまり同じことを連続してやることで仕事のスキルが上がり生産効率が高まるということ。最後の三点目は規模のメリットを出しやすいという点です。専門化するということは副次的にその業務を集中して行う人が限定されるので、多くの仕事量をこなすことができる、つまり規模のメリットを出しやすくなるということが上げられます。

一方で分業についてはデメリットも上げられ、例えば仕事の「やりがい」を感じられないという点は大きな問題です。また、あまりに細分化された仕事ばかりやっていると仕事の全体像がみえにくくなるという問題もあります。同時にいわゆる二遊間のポテンヒットのように誰も拾わずにそれが問題として残ってしまう、これも多くの企業で見られる問題の一つでしょう。

このようなメリットデメリットが上げられますが、調達購買分野ではどのような分業が理想的な姿でしょうか。これは各企業毎にそのビジネスモデルや調達購買に求められる優先順位などにより異なるでしょう。

ある企業ではサプライチェーンの強化や競争優位をもたらすためのサプライチェーン作りが求められるのであれば、単純化するとQCDのうちDを最重要視し、次はCということになります。このような企業ではサプライチェーン全体での視点が必要になりますので、比較的広範囲の業務範囲を分業せずに受け持つ必要があるでしょう。
ある企業では技術ソースに力を入れます。ここではQCD以外のTを中心とした仕事になります。そうすると仕様選定やサプライヤの技術知識などのより上流に範囲を広げた業務範囲に対して責任を持ちます。
また、ある企業ではサプライヤの育成やマネジメントに力を入れており、サプライヤマネジメントにフォーカスした役割となり、P(ポジションとかパートナーシップ)に重点をおいた仕事になり、サプライヤの育成・支援などまで範囲を広げた業務に対して責任を持つことになるでしょう。

このように単純に分業化、細分化が進むだけでなく、いくつかのパターンに層別されたメリハリのある分業と機能強化が望まれているのではないでしょうか。

いずれの方向に向うにしても共通して上げられる検討すべき重要な項目が2つあります。

一点目は企業の調達購買部門としてミッション、ビジョンを明確にし、その方向性を明確にすることです。以前メルマガでも取り上げましたが、調達先進企業は優れたミッション、ビジョンを持っています。またそれにより価値観を共有し部門の運営を行っているのです。
このようなミッション、ビジョンの明確化とそれを調達購買部門のトップが自らの言葉で共有するような活動が重要なポイントの1つです。

もう一点は日本型分業の確立。具体的には多能工の活用です。「多能工」とはご存知のようにトヨタ手法であり「仕事のムラ」を少なくするため、特定の業務を特定の人だけが担当するのではなく、特定の業務を様々な担当者が行える状況を作っておくというやり方として知られます。多能工を育成することで誰が担当しても仕事が進みますし、多様な視点が入りやすくなるでしょう。
「多能工」を活用すれば、ある業務で改善が進んだら、それを横に展開することもスムーズになります。そうすることで成功体験やノウハウが全社に広がるでしょう。これをトヨタでは「横展」(ヨコテン)と呼んでいます。
また「多能工」の活用のためには、育成の仕組みも必要です。具体的にはジョブローテーションやスキル育成、人事評価制度の仕組みなどの整備です。

これらの日本型分業の仕組みは従来の日本企業で根付いていたやり方であり、極度に専門職化と労働市場が流動化している欧米企業ではその必要もありませんし、実現することもできません。
ここ数年でまた新しい調達購買の分業体制整備が国内企業でも進んでいくことは間違いないでしょうが、新しい日本型分業の仕組みを構築していくことが欧米企業との競争に勝つことにもつながるでしょう。

PR VoPM(Voice of Purchasing Manager)レポート vol.1

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