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経営戦略(左袒布略)編【第二回】マーケティングが普及しない理由/前編/小笠原 昭治

INSIGHT NOW! / 2016年6月1日 7時0分


        経営戦略(左袒布略)編【第二回】マーケティングが普及しない理由/前編/小笠原 昭治

小笠原 昭治 / インターアクティブ・マーケティング

【第一回】先ず信より始めよ。信なくんば立たずより続く

≪前編1/4≫ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない第一の理由

マーケティングを突き詰めると

  1. 顧客
  2. 商品
  3. 売り方

の三つに集約されます。10も20も要りません(覚えられません)、削りに削ると、わずか3つ。

  1. 売れる人へ(買わない人には売れません)
  2. 売れる商品を(売れない商品を売ろうとしても売れません)
  3. 売れるように売る(良い商品が売れるとは限りません)

というマーケティングは、三位一体で、どれ一つ欠けても成り立ちません。

とりわけ、顧客(買う人)が第一で、ドラッガー教授いわく、

There is only one valid definition of a business purpose: to create a customer.

「商売は、顧客を増やすのみ」

(直訳)ビジネスの目的で有効な定義は一つ:顧客を作ることである

と遺しています。コトラー教授も、

We see marketing management as the art and science of choosing target markets and getting, keeping, and growing customers through creating, delivering, and communicating superior customer value.

「マーケティングとは、顧客の価値を創り、新たな顧客を得、顧客を維持することである」

(直訳)標的市場を選び、顧客を得て、維持し、育成を通して、優れた顧客価値を創り、伝えるのが、技術や科学としてのマーケティング・マネジメントであると我々は理解している。

と論じています。また、

「企業の資産は、顧客の存在を抜きにすれば、ほぼ価値が無い」

とも断じています。つまり、

顧客こそ、最も重要な企業資産

という所論ですね。

彼ら世界的な大家の弁を借りるまでもなく、マーケティングの第一義は、顧客。

これは(マーケティングに携わる者にとって)、間違いありませんね?

もう一度、確認しておきましょう。

マーケティングにとって、最も重要なのは、顧客

で宜しゅうござんすか?

  • YES
  • NO

ところが!

日本の99.7%を占める中小企業の経営者(の一部)にとっては、顧客よりも大切なものがあり、その経営価値よりも、

顧客は、重要ではない

という衝撃的な事実が、十余年に及ぶ筆者のコンサルティング経験から導き出された経緯を、第一回で述べました。

マーケティングの第一義が顧客であっても、一部の経営者にとっての第一義は「顧客に非ず」ということです。

「経営の第一義は、顧客にあらず。顧客よりも、大切な価値がある」

これぞ、顧客のみ焦点をあてたドラッガー教授の経営論や、コトラー教授のマーケティング論が普及しにくい(経営者に理解されにくい)第一の理由で、

それ(顧客の創造)が、日本の99.7%を占める中小企業の経営者(の一部)の考え方とは、乖離しているのが現実です。

経営の第一義が顧客ではない企業におけるマーケティングの第一義は顧客になるワケありませんよね?

わかりやすく言えば、マーケティングを独学している社員が、

「社長!お客様の得(ベネフィット)ば最優先に考えもそ!」

と提案したところで、

「こん馬鹿すったれが!我が社の得が、最優先じゃ!会社は、ボランティアじゃなかど?議ば言わんと、早よ、売って来んか!」

ということです(苦笑)


≪前編2/4≫ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない第二の理由

今ひとつピンとこない方々のタメに噛み砕きますと、マーケティングは、

「お品代を払ってくれるのは、お客さんだよね?

その代金が、売上金になるよね?

売上金の中から、利益が出るよね?

利益の中から、給料が出るよね?

その給料で、コメを買うよね?

コメを買うからメシ食えるよね?

もとをたどれば、お客さんが一番重要だ~よ~ね~」

という考え方。個人的に少々異論はあるにしても、至極あたりまえな話です。

ところが、経営は、顧客よりも、

「資金が第一。たとえ、売上がなくても、資金があれば、経営できる」

だから、銀行や公庫が一番。株主や投資家が一番という考え方もあります。

これはこれで正しく、その反対に、一千万円の手形(売上金)を持っていても、資金(現金)がなければ、電話代はおろか、給料さえ支払えません。

これ即ち、倒産。それだけは、経営者として、絶対に避けなければなりません。

給料を払って、その他の経費も払って、

会社を維持するのが経営者の責任

ですからね。

その責任を果たせなくなった時、会社は倒産し、仕入れ先や従業員等あちこちに迷惑をかけることになります。

だから、倒産 = 資金の枯渇だけは、何が何でも、避けなければなりません。

最悪、死んでお詫びする経営者が後を絶たないくらいです。

冗談ではなく、働き盛りの40代~50代男性の自殺の原因の第一位は、経済・生活(仕事)問題です(その他の年代は、健康問題)

余談ですが、中小企業を専門にしているコンサルタントの皆様には、こうした現状を踏まえ、

それだけの覚悟をもって指導にあたってほしいものですし、

「大丈夫。これならば効果がある」

という(米国の学者からの受け売りではなく)独自の自信作を教授してもらいたいのですし、

それゆえ

「なぜ、中小企業を専門にしているんですか?」

という問いに応えてもらいたいものです。

(中小企業診断士ならば分かりますが)

まさか、中小企業を専門にしている理由が、

「大企業は、ムリだから」

なんて、ナメた回答は通じませんよね?

閑話休題。資金ではなく、

「仕入れ先が第一。売れるものを仕入れれば、お客さんはついてくる」

だから、メーカーや卸が一番。市場(いちば)や生産者が一番という考え方もあります。

これも正しく、キャベツにしろ、ブランド品にしろ、部品にしろ、お客さんが買う商品を作るか、仕入れなければ、商売は成り立ちません。

はたまた、

「技術が一番。技術なくして製品なし。製品なくして顧客なし」

だから、生産財が一番。研究開発が一番。人材が一番という考え方もあります。

まだまだ、あります。

  • 店舗なら、物件が一番
  • メーカーなら、ものづくりが一番
  • GtoBなら、役所が一番
  • 地場産業なら、地域とのつながりが一番
  • エコビジネスなら、環境が一番
  • 金融なら、顧客情報が一番

社員の幸せが最も重要という経営者もいます。顧客が第一ではない理由 = マーケティングが第一ではない理由として、

経営者によりけりで、どれも正しい

んですよね。周りがドー言おうと、その価値観で、会社を経営し、利益を出しているのですから、

経営価値が顧客でなくても、それらは(経営者によって)正しい

わけです。誰が何といおうとも。経営学者や、マーケティングの専門家が、代わりに、利益を出してくれるわけじゃありませんので。

その経営価値は、すべての経営者に一致するものではなく、

「経営者によって、重要な価値は、異なる」

これが、ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない第二の理由です。

やおよろずの神がいる日本と、一神教が建国の礎になっている米国とでは、何事につけ、考え方が違います。


≪前編3/4≫ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない第三の理由

こうした現実解へ辿り着くまで、マーケティングを広める者として、人生の数分の一にあたる、十余年の現場経験を要しました。

この事実、おそらく、

経営学で教える教科書には載っていない

でしょう。

当然、マーケティングが、浸透するハズもなく、

浸透しないのですから(自ら率先して学んでいる優秀な社員を除き)、ほとんどの社員に、マーケティングが、理解されるハズありません。

「マーケティングってナニ?」

ってナもんです。(これが現場の声です、本当に)

「そんな学問があるらしい。自分の仕事には関係ないケド」

と理解されませんので、一生懸命、マーケティングに取り組む社員がいれば、

  • 「なにやっとんじゃ」
  • 「余計なコトすんな」
  • 「ウチにはウチのやり方がある」

と潰される社風になります。

あからさまな邪魔が入らなくても、マーケティングの効果が出ている様子を見、

「アンタらばっかり、ずるい」

と嫉妬されることもありますし、

「ウチは特別だ。他のやり方ではダメだ」

と、頑なな拒否に遭い、そこでマーケティングは、お終い。

滑稽なのは、長期接触営業戦略を取り入れている営業2課へ、経理部のウラ若き女性社員から、

「営業2課の郵便代が、異常に高いですね。ハガキを使い過ぎです。抑えて下さい」

と止められる哀しさ(苦笑)

驚くことに、マーケティングに馴染みのない企業文化ですと、マーケティングに取り組むのが、役員であっても、取締役会で、

「無用の長物」

と横やりが入る始末(上場企業の実話)

社長が旗を振っても、従業員がついてこない例なんて、枚挙に暇がありません。

マーケティングに精通している大企業や、全社を挙げてマーケティングに取り組んでいる中小企業ならばともかく、マーケティングに馴染みのない企業は、

社員がマーケティングをつぶす

これが、コトラー教授やレビット教授のマーケティングが普及しない第三の理由です。


≪前編4/4≫ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない第四の理由

振り返れば、筆者がマーケティングの実務を請け負っていた頃のクライアントは、

マーケティング部門があるクライアント(大企業やメーカー)か、もしくは、

広告代理店関係だからこそ、マーケティングの仕事を請け負ってこれたわけで、

それは、顧客を増やすマーケティングの価値観を、語らずとも共有できていたからであって、

マーケティングの価値観を共有できなければ、マーケティングの理解など、到底おぼつきません。

そうした土壌が無ければ、ドラッガー教授やコトラー教授の、

「顧客の創造」は通じない

のが現実です。

顧客の創造が通じない企業はダメなのか?というと、そうではありません。

その企業の、経営者なりの、経営価値で売り上げ、利益を出しているのですから、コトラー教授のマーケティング論が通じようと、通じまいと、痛くも痒くもありません。

では、何が問題か?というと、「顧客の創造」を標榜するドラッガー教授やコトラー教授の定義が

古い(時代に即さなくなってきた)

のです。振り返ると、ドラッガー教授が精力的に本を著したのは60年代以降。

日本は高度経済成長の真っ只中。

新幹線が開通し、オリンピックが開かれ、GDPは世界2位、経済成長率は10%を記録。

ここ数年の、バブル真っ最中の、中国のようなものです。

コトラー教授は現在もご活躍中ですが、代表作のマーケティングマネジメントが出版されたのは1967年で、やはり、日本は高度経済成長期。

その後も、マーケティング1.0~3.0へ進化させて来たとはいえ、顧客が中心の根幹は相も変わらず。

これこの通り、

  • 人口も企業も増え続け、
  • テクノロジーが進化し、
  • 交通手段から冷凍技術まで、あらゆる可能性が発達し、
  • 次々と新製品が市場導入できていた頃

ならば、ドラッガー教授やコトラー教授の「顧客創造」は通じたでしょう。

顧客が湧いて出る

のですから。

それから50年の時が移り変わり、無いものはなくなり、1300年間、増え続けた人口は、2008年をピークに、減少へ転じ、

顧客を創造するのが難しい時代

になりました。企業数も減少の一途を続けています(86年の535万社がピーク)

少子高齢化の社会では(顧客の母数が減るのですから)、顧客の維持が精一杯。

そんな中、顧客の創造といっても、ピンと来ないのが現状ではありますまいか。

決定的なのは、インターネットの登場です。

アマゾンに代表されるように流通を変え、

マスメディアの一角を占め(広告ではテレビに次いで第二位)

自宅に居ながらにして価格を比較し、商圏以外からも購入できるようになり、

フェイスブックやスマートフォンのような新商品が誕生しました。

ご存知の通り、インターネット上で交わされる情報は、ほとんど無料です。

少なくとも、インターネットに限っては、お金を払うお客さん(顧客)のみ対象とするビジネスが、通じなくなりました。

顧客のみ対象にしていては商売にならない

のです。もはや、インターネットは、マーケティングを変えたといっていいでしょう。

マーケティングどころか、アラブの春のように、インターネットは、世界情勢まで変えました。

このように、ドラッガー教授やコトラー教授のマーケティング理論が普及しない第四の理由は、

時代が変わった

からです。

(後編へ続く)

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