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経営戦略(左袒布略)編【第三回】マーケティングが普及しない理由/後編/小笠原 昭治

INSIGHT NOW! / 2016年7月6日 7時0分


        経営戦略(左袒布略)編【第三回】マーケティングが普及しない理由/後編/小笠原 昭治

小笠原 昭治 / インターアクティブ・マーケティング

前編より続く

≪後編1/5≫ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない理由

「ドラッガーの経営理論や、コトラーのマーケティング理論が、普及していないって?本当かよ?」

と疑問に思ったら、上司や部下に聞いてみて下さい。

コトラー教授を知っていますか?

と。彼らは、何が、企業にとって、最も重要だと言っていますか?って。

その時の相手の反応が、現実解です(笑)

答えることができた相手は、こうしたサイトや本を読んで独学しているか、

過去に、経済学部やビジネススクールでマーケティングを学んだか、

または、マーケティングの関連部署に所属している(していた)か、

或いは、マーケティングが共通言語になっている業界の人でしょう。

それ以外は、答えられなくて当然です。なぜなら、ドラッガー教授の経営理論や、コトラー教授のマーケティング理論が

普及していない

からです。

本当かどうか、さあ!訊いてみよう(笑)

さて、前編を、要点のみ、おさらしますと、ドラッガー教授の経営理論や、コトラー教授のマーケティング理論が普及しない第一の理由は、

「顧客以上に、重要な価値がある経営者は結構いる」

第二の理由は、

「その経営価値は、経営者によりけりで、幾通りもあるため、顧客に限定できない」

第三の理由は、マーケティングに馴染みのない企業の場合、

「社員がマーケティングをつぶす」

第四の理由は、

「時代が変わった」

でしたね?ここまでを、前編で、筆者の体験をもとに、分析してきました。

これらの所感は、学問から得たものではありません、現場の実感です。


≪後編2/5≫ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない理由-5

この記事を読むほど、マーケティングに馴染みのある方は、軽い驚きを覚えるかもしれませんが、

マーケティングを取り入れている(取り入れようと試みている)企業を除けば、

マーケティングの浸透を、経営者が阻み、社員が阻み、時代が阻むのですから、どうにもなりません(苦笑)

「マーケティングという学問があるらしい。自分の仕事には関係ないケドね」

ってナもんです。

それが、ほぼ100%(99.7%)を占める日本の中小企業の実態です(その一部か大部分か分かりませんが)

その現実を知ってか知らずか、それでも、マーケティングの専門家は(筆者を含め)サイトやメルマガで知見を発信し、

経営学や、経済学の先生は、ドラッガー教授やコトラー教授が提唱した理論を、授業で教えているにしても、

残念ながら、50年前に生まれた4P'sやイノベータ理論、STP等を伝承するのみ。

新しいところでも、30年前に発表されたポーター教授の5-Forcesや、

大前研一氏の3C分析、ローターボーン教授の4C's、バーニー教授のリソース・ベースト・ビュー、ハメルとプラハラードのコア・コンピタンス、アンチ分析派のピータースやミンツバーグ等々でしょう。

アンゾフに代表される教科書的な経営戦略は(議題の幅が広がり過ぎるので)置いといて、

50年前のマーケティングは、とりもなおさず、大企業のみ通じる大量生産・大量消費を促すマーケティングの繰り返しで、

100年前のアメリカで誕生したマーケティングの延長線上(50年後)にあり、

その頃、日本は高度経済成長期を迎え、人口も、企業数も、右肩上がりに増え、

三種の神器と呼ばれた白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫や、

3Cと呼ばれたカラーテレビ、クーラー、自動車が、まだまだ行き渡っておらず、

それらを買いたがっている大衆が溢れていた頃ならば、大量生産・大量消費の米国型マーケティングは通用したでしょう。

いやさ、確かに、4P'sやSTPは、非の打ちどころがない理論で、筆者も使わせてもらっていますが、

アメリカ型の大量生産・大量販売・大量消費を時代背景にしていることは確か。ヨーロッパ型のブランディングとは異なります。

日本は、時代が移り変わり、バブル前の経済安定期あたりから、少量多品種生産の時代といわれ、

1300年間続いた人口の増加が、ついに、2008年をピークに減少へ転じ、いずれ、少量生産・少量消費の時代になります。

お客さんの母数となる人口が減っているのに加えて、高齢者は大量消費しませんからね。

そうなると、顧客の創造どころか、顧客の維持で精一杯の時代になります(中小企業は、もう、なっています)

維持で精一杯だから、

維持できずに倒産・廃業

する法人が年間1万社強、個人事業者が20万者もあります。

http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/h26/html/b3_3_3_1.html

ぶっちゃけ(少なく見積もっても)、毎年、21万人以上が、路頭に迷っています。

県都の人口に匹敵する、すさまじい数です。

これでは(顧客の創造という)ドラッガー教授やコトラー教授のマーケティングが普及しないのも当然。もしかしたら、

大量生産・大量消費とは無関係な企業

の経営者は、米国型のマーケティングが「これからの時代に即さない」と、肌で感じているのかも知れません。

なぜなら、2008年より過疎化が始まった日本国の、ずっーと以前から、地方は、過疎化が始まっていて、その

過疎化の中で(人口が減っている中で)、地方の経営者は、商売してきた

からです。わかりやすく極論するならば、マーケティングに理解のある企業を除き、0.3%の大企業や、メーカーのみ通じるのが米国型のマーケティングであり、

非メーカーや中小企業にマーケティングは馴染まないというバイアス

(たとえば、工務店や、葬祭業に、マーケティングは通じないという思い込み)があり、

これが、ドラッガー教授やコトラー教授のマーケティングが普及しない第五の理由です。

平たくいえば、

「マーケティング?そんなの、ウチにゃ関係ねえ」

ということです。さあ、次に、美容院へ行ったら、

「マーケティング、やってますか?」

と訊いてみよう!(笑)


≪後編3/5≫ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない理由-6

それでも「企業にとって最も重要なのは顧客」であることに違いはありません。

代金を払ってくれるのは、お客さんですからね。

試しに、顧客とは何か?ザッと検索してみると、

  1. お得意様(大辞林、goo辞書、Yahoo辞書)
  2. ひいきにしてくれる人
  3. 金儲けするために、物事を提供してくれる人
  4. お店に来て頂いた人
  5. 商品を買ったことがある人
  6. 商品やサービスを受け取る人
  7. 買う気があって、買うことができる人
  8. 神様

だそうです。異口同音に、顧客 = お金を払う人という解釈が一般的。

いわずもがな、顧客とは、リピーターのことで、商品を買う人。お金を払う人です。

この解釈が、ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない第六の理由

お客さまを、お金さまへ曲解する危険性

です。

顧客=カネ

という解釈を、ドラッガー教授やコトラー教授の定義へ当てはめると、

「企業にとって最も重要なのはお金を払ってくれる人である」

になりますね?さらに、

「企業にとって最も重要なのは お金 である」

と、見事に辻褄が合います(企業は営利追求団体ですし、経営は資金との闘い、営業は売上との闘いです)ので、

「売上を増やせ!利益を増やせ!」

という命令が下ります。ドラッガー教授やコトラー教授が最も重要であると説く「顧客を増やせ!」よりも先に。

すると、お客さんが求める価値よりも、クロージングやプレゼンテーションといった営業テクニックが貴ばれるようになります。

マンション営業の実例

はて、お客さんが、クロージングなんて、言いますか?言うとしたら、

「買うかどうか、自分で決める。勝手にクロージングすんな」

ってナもんじゃありませんか?

道~理で、売れる時まで待つ戦術よりも、売りつけるテクニックに重きを置くわけです。

余談ですが、売りつけるにしても、弁当や飲料等の関与度が低い商品であれば、すぐに売れますが、

クルマやマンション等の関与度が高い商品は、

  • 買うかどうか検討する時間が長く、
  • 購入へ至るまでの時間も長い

という傾向がありますね?それを無視して、弁当よろしく、すぐに売りつけようとすると、

  • しつこく売るか、
  • お願い営業になるか、
  • だまして売るか、
  • 押し売り

になります。どれも通じなければ去っていきます。

売れるまで時間のかかる関与度が高い商品を、喜ばれながら売るには、売れる時まで待つ戦術が必要で、

それが、戦略的な営業活動(セールスフロー)になります。

端的に言えば、待つのも営業活動ですよ~(黙って待っているとライバルに奪われますよ~)ということです。

話を元へ戻して、経営者が、

五年後も、企業を存続させたい

と思っていても、今月、来月、売れる相手でなければ(五年後に売れるとしても)、お客さんではないという矛盾した考え方が一般的。

ですから、迷惑なセールスマンを追い払うのはカンタン♪

お金がないといえば、あっけなく去っていきますから(笑)

是この通り、お金を払ってくれる人のみ重視すると、

お客さまよりも、お金さまを重視

するようになり、その風潮は、経営者から従業員へ、上司から新人へと受け継がれていきます。

こうして、カネの切れ目が縁の切れ目になる企業体質に染まります。

現に、営業マンの名刺を持った販売員が多いのは、ご存知の通り。商品と代金を引き換える仕事が、営業の仕事だと思っているからです(それは、セールスフローの六段階目にあたる、販売の仕事です)


≪後編4/5≫ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない理由-7

マーケティングの初心者には、難しい話になってきたかも知れませんね(苦笑)

できるだけ噛み砕いていますが、大丈夫ですか?理解できていますか?

わからないところがありましたら、問い合せフォームか、

https://www.insightnow.jp/pro/profiles/ogasawara_shoji/inquiry/new

ページ下のコメント欄を使って尋ねて下さいね。

続きまして最後、ドラッガー教授やコトラー教授のマーケティングが普及しない第七の理由は、

ステークホルダー(利害関係者)と顧客の違い

です。

営業マンの名刺を持った販売員にとっては、お金を払ってくれる人だけが仕事の対象ですが、

企業経営の現実は、お金を払ってくれる人(顧客)だけが重要ではありません。

お金を払ってくれない人も、企業にとって、重要

です。この第七の理由を細分化すると、三つに分かれ、

1)お金を払わない利害関係者(ステークホルダー)もいる

2)利害関係者 = 経営価値とは限らない

3)顧客と、顧客以外を、厳密に分離するのは不可能

では、一つずつ分解していきましょう。


1)お金を払わない利害関係者もいる

グラム1,000円で、松坂牛A5ランクのロースを出す焼肉店があるとしましょう。

最高品質の焼肉を、嘘のような破格値で食べられますから、千客万来間違いなし。

その焼肉店の強みは、松坂牛ロース1人前1,000円ですので、

牛肉の仕入れ先にソッポを向かれてしまっては、強みがなくなり、お客さんが来なくなります。

よって、この焼肉店で、最も重要なのは、顧客よりも、仕入れ先(精肉店)です。

その精肉店は、お金を払ってくれません。

反対に、仕入れ代金を、支払わなければなりません。

このように、仕入れ先も、製造元も、技術者も、研究員も、社員も、記者も、アルバイトも、

お金を払ってくれません

(顧客ではありません)が、重要な利害関係者です。

例示の焼肉店にとって、精肉店は、顧客よりも大事な利害関係者です。

顧客は、利害関係者の一部であって、顧客以上に重要な、お金を払わない利害関係者もいます。


2)利害関係者 = 経営価値とは限らない

顧客は、利害関係者の一部ですが、経営価値は、スピード、情熱、資金、信用のように、人間(利害関係者)とは限りません。

利害関係者ではない何かが価値の経営者には、

(たとえば、経営にしろ、営業にしろ、最も重要なのは、「スピードだ!」と思っている経営者には)

「企業にとって、最も重要なのは、顧客である」

という定義が通じなくて当然ですよね?人間(利害関係者)が経営価値ではありませんので。


3)顧客と、顧客以外を、厳密に分離するのは不可能

人には複数の側面がありますから、業者さんがお客さんになることもあります。

業者さんが、新しいお客さんを紹介してくれる紹介者になることも、

ブログやクチコミで推薦してくれる媒介者になることもあります。

主に、紹介で仕事を受けている、弁護士等の士業には理解しやすいと思いますが、紹介者や、媒介者は、お金を払ってくれる直接客よりも、重要な間接客になる場合があります。

その逆の立場になる危険性もあります。諸刃の剣です。

業者を不当に虐げる「下請けいじめ」が過去最高数を記録していますが、その業者さんが、

  • 何らかの理由で、お客さんになったら?
  • お客さんよりも(一部のIT企業のように)大切な、株主になったら?
  • その業者さんの悩みを聞いた友人の知人(ほぼ無関係の誰か)が、ネット上に、いびりっ振りや、実名を公開したら?

どう対処するんでしょう(怖)

一億総活躍というよりも、一億総ジャーナリストの時代ですからね。

これまで、赤ちょうちんの酒の肴で終わっていた世間話が、突如として、インターネットで拡散する可能性は充分あります。

その時になって慌てても、時すでに遅し。

顧客のみ崇め奉る経営が、どれほど危険な時代になったか

お分かりになるでしょう。


≪後編5/5≫ドラッガーやコトラーのマーケティングが普及しない理由-まとめ

さて、ここまで、ドラッガー教授やコトラー教授のマーケティングが今ひとつ普及しない理由を七つ挙げてきました。

まとめますと「企業にとって最も重要なのは、顧客である」という定義は古く、今となっては、誤解されやすいのが現実。危険とさえ言えます。それでも、

  • 大量生産・大量消費に即したマーケティングを、まだ伝承し続けるのか?(コトラー教授らが作った理論を、受け売りして、解説するだけなのか?)
  • それとも、アメリカ型(の競争と成長の)経営戦略の看板を降ろすのか?(ドラッガー教授らが作った理論に代わる、日本に適した理論を創造するのか?)
  • あるいは、99.7%の中小企業や、非メーカーにも通じる現場型のマーケティングを創造するのか?(No.1やNo.2になれない企業は、ONLY1になる差別化戦略で戦う他ありません)

経営コンサルタントや、マーケティングのプロを自認する専門家は(筆者も含め)、選択を迫られるかも知れません。

(ただし、マーケティングの教科書に出てきそうな大企業や、メーカーのみ対象とするのであれば - それがクライアントでしたら - 従来通りで差し支えありませんが)

では、企業にとって、最も重要なのは、何か?

顧客に代わるキーワードは?

経営者にも、社員にも、誤解を招くことなく、マーケティングが受け入れられる定義は何か?

次回、や~っと(笑)核心に迫ります。


第四回へ続く

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