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三菱自動車の不正燃費問題の背景にある構造変化/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2016年5月20日 16時0分


        三菱自動車の不正燃費問題の背景にある構造変化/野町 直弘

野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

三菱自動車の不正燃費問題は日産自動車による三菱自動車への出資という形にまでつながってしまいました。今回の問題については三菱自動車の企業風土について問題指摘がなされたり、CSRを重視しない企業は事業存続が危うくなるなどの社会的な環境変化を印象づけるものと言えます。
一方で背景には自動車市場の構造変化と自動車そのものの構造変化という2つの構造変化が影響をもたらしていると私は考えます。

自動車市場の構造変化はニーズの変化という形でモータリゼーションの進化と共に変化してきました。従来国内自動車メーカーは国内中心の事業(生産、販売)であり、製品ライナップは小型車から大型車までの一連のライナップを持っていることが望まれていたのです。一時期のコマーシャルで「いつかはクラウン」というコピーがありましたが、このコピーが象徴するように車格というヒエラルヒーの中で買い替えを促していく、という
のがモータリゼーション初期のころの自動車メーカーの戦略であり、市場のニーズでした。

そのニーズを変化させたきっかけがRVの出現です。RVとはレクリエーショナルビークルの略称であり、4WDや車室の広い様々な用途に適した車です。自動車に対するニーズはRVの出現で変わりました。今までの小型車から大型車へのヒエラルヒーを壊し、アウトドアブームやポストバブル期のファミリー重視の価値観に合致し、90年代初めに普及したのです。

三菱自動車はこのRVのブームを引っ張る存在でした。デリカやパジェロなどを始めとしたRVで一世を風靡しました。一時期にはパジェロをシリーズ化し、軽のパジェロから大型パジェロまでライナップしていたのです。しかし、RVブームも4WDなどの高価格車のブームは去り、ワゴン車などにそのニーズは移行していきました。また、特に90年代後半から2000年代前半にかけての失われた10年の時期には自動車メーカー11社体制は数が多すぎると言われながらもアジアや中国などの新興市場需要により各社とも存続し、乗用車メーカーについては目立った再編は起きなかったのです。

一方で2000年代前半から自動車に対するニーズはまた大きく変化しました。ハイブリッド、クリーンディーゼルなどの燃費、環境へ市場ニーズは変わったのです。プリウス、アクアがヒットするなど、従来のRVが担っていたヒエラルヒーの打破をこれらの車が担うようになりました。現在は欧米メーカーに先行されているものの、今後は自動ブレーキシステムなどに代表されるADAS(先進運転支援システム)が市場ニーズを変化させていくと私は考えます。つまり燃費、環境は当たり前で、その上で安全、安心、快適などにニーズがシフトしていくでしょう。ADASの技術革新の先には自動運転化があり、従来「運転を楽しむ」という市場はニッチ化し「楽に運転できる」ニーズが高まり、最終的にはモータリゼーションはトランスポーテーションの手段となっていくと考えられます。

今回の事案はこういう自動車市場の構造変化の中で起きたことです。もしRV全盛の時代であればそもそも燃費に厳しい目標を立てることも燃費を偽装することもなかったでしょう。
(90年代とかの過去にもこういう不正問題がなかったかどうかは不明ですが)そういう意味では自動車市場の構造変化に追いついていけなかった企業による無理を不正で隠そうとしたというのが今回の事案の背景にある問題なのではないかと考えられます。

もう一つの視点は自動車そのものの構造変化です。言うまでもなく現在の自動車はどんどん技術が複合化しています。特にハイテク技術に関しては、マイコンから始まり、エアバッグ、ハイブリッド車用バッテリー、ADAS、今後の自動運転化に伴い、益々技術は複合化する方向です。一方でこの複合化する技術を完成車メーカーが全て開発している訳ではありません。ADASなどはむしろシステムサプライヤがその開発の主体を担っています。(あくまでも推測ですが。。)
完成車メーカーはシステムサプライヤが開発したシステムを買ってくることになりますし、実際に現状のADASはどこの完成車メーカーの車でも同じような機能が同程度の価格で装備されています。これらの技術や機能は部品メーカーのノウハウであり付加価値と言えます。

自動車部品メーカーは完成車メーカー以上に系列の崩壊や統合によるメガサプライヤ化が既に進んでいます。このような自動車の構造変化でメガサプライヤの力はますます強くなっています。完成車メーカーは改めてサプライヤーとの関係性を定義し直す必要も出てくるでしょう。このような自動車そのものの構造改革は製品の競争優位が完成車メーカーから部品メーカーが持つことのきっかけになります。自動車メーカーは今まで車の基本性能やデザインを競争優位の源泉にしてきました。三菱自動車では
その象徴がRVやラリーカーだったのです。しかし、車が売れる競争優位の源泉が基本機能やデザインではなく、燃費、環境、安全、安心、快適などにシフトすることによって完成車メーカーに対して部品メーカーの力が相対的に強くなってきたと言えます。

今後完成車メーカーは競争優位の源泉を確保するために非常に厳しい立場に置かれるでしょう。市場ニーズを満たす競争優位の源泉を直接的に持つ立場にいられなくなれば一層の合従連衡が起こることも予想されます。

以前「異業種競争戦略」をここでも取り上げました。http://www.insightnow.jp/article/7977
深いピラミッド構造と言われ上意下達が徹底されていると言われるこの自動車業界においてもこのような環境変化の元、完成車メーカーと部品メーカーの競争が起きつつあるのです。今回の三菱自動車の問題の背景にはこのような2つの自動車を巡る構造変化があると言えるでしょう。

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