リーダーシップ リーダーの「存在の質」/斉藤 秀樹
INSIGHT NOW! / 2016年5月23日 11時38分
斉藤 秀樹 / 株式会社アクションラーニングソリューションズ 一般社団法人日本チームビルディング協会
存在の質
「あなたの存在は、チームにどのような影響を与えているだろうか」
ここでのチームとはあなたがマネジメントするチームであり、所属するチームである。
勿論、大きく捉えれば家庭やサークルなどあらゆる集団もこれに含まれる。
先日、ある取り組みの中でこんな質問をする機会があった。
「あなたのチームは大きな成果を上げました。」
「あなたはチームにとってどのような存在でしたか?」
回答は
「私の存在はほとんど意味を持ちませんでした。」
またある時は、こんな質問をする機会がありました。
「あなたが居ることで、この成果は生まれたのですか?」
回答は
「いいえ。私が居なくても、この成果は生まれていました。」
これらはいったいなんの問答なのか、皆さんは怪訝に思われたのではないかと思います。
私達はチームの状況と成果に最も大きな影響を与える要因が何かを探してきました。
結論は明快です。チームに大きな影響を与えるもの、それはリーダーのあり方と関わり方です。
しかし、リーダーであるあなたは、チームにどのような影響を与えているか気づけていない。
そこで、簡単なアクティビティで自身がマネジメントしているチーム状況を再現し、ある制約を設けて課題に取り組んでもらいます。
ある制約とは「指示命令使わずに成果をだしてください」というものです。
なぜ、そのような取組が必要になったのか。
既に私達の講座や書籍、メルマガに触れた方ならご承知の通り、指示命令は上司と部下の関係性を悪化させ、部下の自立性、自発的思考力、モチベーションを低下させ、やらされ感を増やすからです。
確かに優秀な上司であるなら部下を手足のごとくコントロールし、それなりの成果を出すでしょう。
しかし、ここには大きな問題が2つ隠れています。
1つは、リーダーが不在になった途端に組織が機能停止に陥ること。
もう1つは、次を担うリーダーが育たないことです。
どうしても忘れがちになっていることがあります。
「リーダーは高い成果を出すこと」以上に「人材を育てること」が本質的な役割だということ。
それは、組織が永続するために最も重要な営みです。
そして、今、すべての組織に蔓延する悩みは「次のリーダーがいない!」という現実です。
リーダー研修を受けさせればリーダーは育つか。否!
リーダーはスキルが高ければ務まるか。否!
リーダーという肩書だけで部下はついてくるか。否!
リーダーにはチームの要となる求心力と影響力が求められます。
それは一過性の研修で創られるものではなく、理想的にはより良い手本を見ながら、実務の中でリアルな人間関係と相互支援的な関わりから育まれるものです。
これは知識やスキルではなく、風土や文化の領域です。
であるならば、組織運営を担うリーダーが育つ風土や文化を創るとは、風土や文化が息づく組織そのものを創るということを意味しています。
「組織を創る技術」はそのために必須要件です。組織で起こる様々な問題解決の根源もまたこの取り組みの不足に起因しているものが少なくありません。
組織が生み出す風土や文化がリーダーの「存在の質」を決めていくのです。
その「存在の質」が人財と組織の成長と成果を創っていく。私利私欲ではない成果を。
そして、人事的なあらゆる取り組みは、「存在の質」を高めるためにあるべきなのです。
■リーダーと言う存在の質
リーダーという肩書を持った人材の「存在の質」の違いによって、同じチーム、同じメンバーであるにも関わらず、成果がまったく異なる。この現象は、一般には組織変更等でリーダーが異動になり新たなリーダーが着任することで、それまで低迷していたチームが、高い成果を出し始めることにも共通している。勿論、逆もある。
では、リーダーが変わったことで何が変わったのか。
その本質が分からなければ、組織変更はただのギャンブルとなる。
逆に、本質が分かれば、どのような組織においても成果が出せるリーダーを養成することができる。
ここで1つ忠告があります。今更言うまでもないことかもしれませんが、経験がある、スキルがある、知識がある。これはリーダーとしては必要条件ですが、十分ではありません。知識や経験があってもチームとして成果が出せないリーダーはたくさん居ます。
また、経験がない、スキルがない、知識がない。それなのにチームに大きな成果をもたらすリーダーがいることも事実です。
この2つから言えることは、リーダーになる為には知識や経験以上に重要なことがあるということです。
これからその謎を解き明かしていきましょう。
その為の重要なキーワードが「存在の質」であり、存在の質は「一員」「場づくり」「関係性」「役割」「問題解決」「責任」「行動」「あり方」の8つの質を形成する要素を持っていることを先にお伝えして話を始めます。
1)第1話「一員としての質」
あなたが居る(存在)ことでチームの雰囲気やエネルギーはどう変化しますか。
同じメンバーであるにも関わらず、チームを担当するファシリテーター(以降はリーダーと呼びます)が変わっただけで雰囲気はまったく異なります。
実際のファシリテーション研修の実例から特徴と本質を鮮明にしていきます。研修と言っても扱うのは実チームを想定したものであり、リーダーの常日頃の関わり方がありありと露呈します。その結果、チームとチーム成果にどのような影響を与えるか。自分一人では気づけない自身の存在の質をリーダー視点、メンバー視点、オブザーバー視点で観察する。
チームとの関わり方は10人十色ではあるが、代表的なパターンを見てみると次の3つのケースであることが多い。
ケース1)あまり乗り気でないメンバーが多いチームであっても、笑顔と明るい声で一瞬にしてポジティブな雰囲気に変えてしまうリーダー。
ケース2)元気がなく、声も小さくはっきり聞こえない。関われば関わるほどチームのエネルギーを下げ重苦しい雰囲気を作ってしまうリーダー。
ケース3)ハキハキと大きな声で話すものの、語気や言い方が高圧的で、チームに過度な緊張感を作ってしまうリーダー。このタイプには人当たりはソフトで笑顔ではあるが、行動は強制的、誘導的なリーダーも含まれる。
ケース1:リーダーの関わりの基本は、チームの意志を尊重し、メンバーが平等にチーム活動に参加できるように配慮しています。チームメンバーは無用な力関係や上下関係にエネルギーを割くことなく、課題に集中し積極的に取り組み、意見も全員から出されます。声の大きいメンバーだけではなく、全員の多様なアイデアが取り入れられることで、回を重ねるごとに前回よりも常に高い成果を出し続けます。成果は小さくとも、成功体験としてチーム全員が喜び、次のチャレンジへのモチベーションとなり、しっかりと次の成果創りに繋がって行く。
リーダーは着かず離れず、一人ひとりを観察し、個人ではなくチームに対して互いの関わりや本気度を高めるための取り組みを促す質問を繰り返し行う。
チームメンバーは強制力ではなく、質問による個々の気づきから生まれた発言や行動によって自立的に前進していきます。そして、最後には当事者であるメンバー自身の予想をはるかに越えるチーム成果を叩き出す。
ケース2:リーダー自身からまったくやる気が伝わってこない。声は小さく、視線もうつむきがち。チームのテンションはどんどん下がり、メンバーの集中力も下がり続ける。始めからリーダーの話を真剣に聴こうという意志がなくなる。結果、チームメンバーにやるべき課題認識にばらつきがでてしまう。数人の積極的なメンバーに引きずられ、大半のメンバーは適当に合わせながら取り組む。顔は無表情か愛想笑い。その場しのぎのやっつけ作業。やらないと終れないから取り組むと言った姿勢がありあり見て取れる。
そのような状況にリーダーは危機感を持つものの、リーダーの声をほとんど誰も聞いていない。無視しているのではなく、リーダーの言葉がチームの活動にとって有益だと感じていない。興味が持てない。
結果、何となく声の大きなメンバーの意見に従い行動する。他者の意見に従っているだけなので責任感も達成意欲もない。当然、低い成果しか生まれない。
チームは成果に関心を示さない。それはなぜか。
チームメンバーが望んでいることは成果ではなく、一刻も早く終わること。どのような成果であっても終わることで目標は達成され、それなりの満足感を持つ。
リーダーはもっと高い成果にチャレンジすることを促すが、これ以上は無理と決めつけ誰もチャレンジしようとしない。
ケース3:リーダーは怒っている。いや、怒っているように見える。チームには課題に取り組む前から緊張状態が生まれている。緊張と言うよりは威圧感と言ったものに近い。リーダーは初めから高い目標を掲げ、激を飛ばす。それに呼応するようにメンバーから「やるぞ!!」と言う威勢の良い掛け声が上がる。取組が始まる。しかし、声の大きさとは対照的にチームのエネルギーは低く、表情もさえない。明らかに固くなっている。
メンバーは成果よりも失敗を過度に意識している。失敗しないことを気にするあまり回りが見えていない。他のメンバーとの連携が上手くいかない。皆、同じような状況で思うように成果がでない。リーダーは黙って見ているが、表情からは失望と怒りが見て取れる。
時々、リーダーは介入するものの明らかに視点は何が問題かではなく、誰が問題かに目が向けられている。
成果が出ない状況が変わらぬまま、取り組みは繰り返される。繰り返すたびにチームは暗く沈んでいく。
リーダーは小さく「こいつらダメだ・・・」とつぶやく。
これらは典型的な3つのケースです。
では次に、リーダーという存在を設けず、課題の説明をしてメンバーだけで行動してもらいます。ケース1ほどではありませんが、皆、和気あいあいと楽しく取り組み、ケース2、3よりもはるかに高い成果を出しました。つまり、チームはリーダーがいなくても成果を出せるのです。
さて、ケース2、ケース3においてリーダーの存在はどのような意味を持っていたでしょうか。
リーダーがチームの一員で居ることでチームの状態はネガティブになり、成果も低くなる。チームメンバーはリーダーの存在を「邪魔」あるいは「ストレス」感じる。
実際にケース2、ケース3の取組後の振り返り(リフレクション)で、メンバーからのこのような意見が出されました。
「今回の成果にリーダーの存在はまったく影響していない」
「リーダーは不要だと感じた」「むしろ煩わしく邪魔だった」
「途中からリーダーの存在を忘れていた」
特にケース3の場合、リーダーからのプレッシャーの影響で、ルールを無視(ズル)しても結果を出そうとするメンバーが出てきました。これはコンプライアンス問題の元凶ともいえる心理状態です。
これらの意見はメンバーからとは言え、ここでのメンバーとは、皆、管理職方々です。
私たちの視点は常に外に向けられています。リーダーも同様です。問題の原因を自分以外の要因から得ようとする。特に部下に問題があると。
しかし、もう一度考えてみてください。
私達の目の前に出現する多くのトラブルや問題は、私達、自分自身を起点としている。それに目を向けることなく、起こった問題の対処に追われる。
さて、自身の「存在の質」を変えずして組織で起こるトラブルや課題の本質的な解決はできるだろうか。
その学びと成長に取り組まない限り、問題の再発を防ぐことはできない。
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