コンセプチュアル思考〈第9回〉 概念をモデル化する/村山 昇
INSIGHT NOW! / 2016年6月2日 11時30分
村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング
コンセプチュアル思考の基本的技術は次の5つです。
〈1〉定義化 物事の本質をつかみ言葉で表わす
〈2〉モデル化 物事の仕組みを単純化して図に表わす
〈3〉類推 物事の核心をとらえ他に適用する
〈4〉精錬 物事のとらえ方をしなやかに鋭く
〈5〉意味化 物事から意味を見出す/意味を共有できる形として描く
今回は2番目の「モデル化」をトレーニングするワークを紹介します。コンセプチュアル思考の訓練では、「仕事」とは何か、「事業」とは何か、「自信」とは、「幸福」とは、といったような人それぞれで解釈が異なる大きな言葉を選び、それを題材にして抽象化・概念化を行ないます。そういう思考作業をやる過程で、自分自身の「観」をあぶり出し、醸成していきます。それで今回の題材は「成長」です。
私たちは日ごろの仕事現場、生活の中で「成長」ということをよく意識しますし、「成長が大事だ」「成長したい」と口にもします。ですが、そのわりに、どれだけの人が「成長」がどういうことであるかについてじっくり考えたことがあるでしょう。「成長」が辞書的にどんな意味であるかは知っているものの、それを成長「観」という深いレベルで肚に落とし把握している人は少ないものです。
考えるといっても、頭の中でちょこちょこっと泳がせているだけでは、ほんとうに考えたことにはなりません。考えたことは自分の外に表現してはじめて、考えたと言えます。そして表現することで「ああ、自分はこう考えていたのだ」ということを知るのです。ピカソが「描きたいものを知るために、画家は描き始めなくてはならない」と言ったとおりです。
◆具体と抽象を往復するコンセプチュアルワーク
では、コンセプチュアルワークに入っていきましょう。私が研修・ワークショップで使用するワークシートは次のようなものです。この記入欄の設計は、コンセプチュアル思考の基本フローである「π(パイ)の字」(抽象化→概念化→具体化)の流れにそっています。
思考作業としては、まず具体の世界に思いを巡らせることから始まります。ワークシートの作業1の欄には、次のような指示が書き込まれています。
【作業1】「成長」にまつわる体験・出来事・見聞・観察・記憶
これまでの仕事生活・人生を振り返って、または世の中を見渡してみて、
・自身のこれまでの成長体験、成長エピソード
・他者を通して見てきた人が成長・変化する姿
を具体的に思い浮かべてみましょう。
次にそこから抽象に入ります。作業2の欄は次のような記載になっています。
【作業2】「成長」の定義
「成長とは何か」「成長についての解釈」を自分なりの言葉で表すとどうなりますか……
このステップでは、「成長」というものがはらむ本質的な要素を自分なりに引き抜いてくることが求められます。豊かに経験をたくわえ、深い洞察ができる人ほどコンセプチュアルに考える力は強くなります。そして次のステップがメインの作業になります。
【作業3】 「成長」の絵図化
作業2の定義をふまえて、「成長とはどういうものであるか」を図や絵で表わしてみてください。
物事の構造や仕組みを単純化して図的に表現する。これをコンセプチュアル思考では「モデル化」と言っています。さて、実際の研修ではどんなモデル図が出てくるでしょうか。
◆人それぞれの「成長」のモデル化
以下に受講者の方々が研修・ワークショップで描いた「成長とは何か」のモデル図をいくつか紹介します。なお、概念を図的に表現する手法は別途講義で学んでいます。
◆抽象観念を具体的行動へ移すことが大事
こうして描いた「成長」のモデル図は、いわば抽象観念です。それを頭の中で終わらせるのではなく、現実生活の行動に移していくことが重要です。そこで次にくるワークが―――
【作業4】「成長」を促すための行動習慣3箇条
成長を持続的に起こすための行動習慣としてどのようなものが考えられるでしょう。 3箇条にしてあげてみましょう。
行動が「コンセプチュアル思考」においてなぜ大事か。それは具体的行動を起こすことによって、いろいろなフィードバック(他者の反応や経験知の蓄積など)が起こるからです。そしてまた、新たな抽象化が始まり、概念化が始まる。そうやって「πの字思考」の回路をぐるぐると回ることにより、「観」(ここでは成長観)というものが堅固に醸成されていくわけです。
コンセプチュアル思考は、概念を起こす思考であり、意や観をつくる思考です。ある物事に対し、辞書/事典の定義を覚えることは簡単です。
そうした客観を超えて、どうその人なりに主観的・意志的な物事の定義を持つか、概念モデル化するかが、強く生きていくためには重要です。「世の中に事実はない。ただ解釈があるのみ」(ニーチェ)という言葉があるように、結局、私たちは自身が養うものの見方(=観)で生きる世界を決めていくからです。
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