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異業種格闘技がもたらす将来/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2016年6月3日 14時9分


        異業種格闘技がもたらす将来/野町 直弘

野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

今回も調達購買からやや離れ、以前ふれた異業種格闘技について書きます。

早稲田大学ビジネススクール教授である内田和成先生が2009年に執筆された本である「異業種競争戦略」(日本経済新聞出版社)は非常に興味深い本です。この本は、従来であれば業界内での企業間競争であったものが、様々な技術革新やビジネスモデルの進化により事業連鎖(製品や事業をまたがる、より広範な事業間のかかわり)の中で異業種企業間での覇権争いになりつつあること。また、そこに目を向けていかないと企業や業界の競争優位を保てなくなる、という内容です。

この本は2009年に発刊されたもので本の中ではカメラ業界や音楽業界などにおける構造変化を事例として取り上げています。7年経った現在ではこのような異業種格闘技は我々の身の回りで当たり前のように起きていることを実感できるのです。

先日エンタメ業界のバイヤーと話をしていて出てきた言葉は「競合相手はスマホゲーム」ということでした。またある食品メーカーのバイヤーとの話題ではコンビニのPB(プライベートブランド)品のことであり、PB品本音ではやりたくないが、やらないと製品が売れない、という話をされていました。いずれにしても今は製品の良し悪しよりも如何にコンビニに自社製品を置いてもらうか、これが売れるか売れないかの重要な決定要因である、という話に象徴されるように消費者向け日用品や食品市場の覇権は既に
コンビニエンスストアが持っていることを誰も否定できません。

典型的なピラミッド構造と考えられていた自動車市場においても完成車メーカーに対してメガサプライヤを代表とした自動車部品メーカーの地位が相対的に上がっていることは前回のメルマガでも書きました。このように上意下達の典型例と言われていた自動車業界においてもこのような異業種格闘技がおきつつあるのです。

このような時代になってきているのですが、先日トヨタが米ウーバー(Uber)テクノロジー社と提携するという発表がありました。ウーバー社は自動車配車の仕組みを運営する企業でタクシー配車に加え、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを構築している米企業です。ウーバー社のビジネスモデルのユニークさは、個人の自家用車をシェアするというところですが、トヨタはウーバーのドライバー向けに自動車リースを提供しそこでシェアを獲得したいというのが提携の表向きの狙いとのこと。しかし、今回の提携は車を保有するのではなく、必要な時に使いたいというシェアリングニーズが進む中で自動車市場の将来に向けてトヨタが布石を打ったという捉え方をしている人もいるようです。

具体的にはADAS(先進運転支援システム)や自動運転が進展すると、自動車はモータリゼーションではなく、単なるトランスポーテーションの一手段と捉えられ始め、将来的には自動車のシェアリングは一気に進展すると予測されます。そうなるとウーバーのようなシェアリングモデルはタクシーやハイヤーの代替としてではなく自家用車の代替になっていくでしょう。結果的には社会全体で車の稼働率が上がることになり、車の総需要台数は激減する(必要なくなる)方向です。今回の提携はこのような自動車市場の構造変化を考えた上でのものではないか、という見方なのでしょう。

私は日本のマーケットではこのようなシェアリングのニーズは乗用よりも貨物用途の方が高いと考えます。実際に米国ではinstacartという買い物代行事業者やアマゾンのFlexというサービスなど貨物版ウーバーのサービスモデルが生まれ始めているようです。

4月14日の夜に熊本地震が始まりましたが、同日にトヨタとホンダが通れる道の地図情報(トヨタ「通れた道マップ」ホンダ「道路通行実績情報」)を公開しました。これは両社が通信機能を持つカーナビからの情報を元に作成公開したものです。このような情報サービスが非常に短時間に取得・加工・公開できるということは驚くべきことです。

このような乗用車の通行情報だけでなく、貨物運搬可否情報や運行予定情報などが取得できれば物流は爆発的に効率化されるでしょう。物流は実働率と実車率を掛け合わせるとモノを実際に運搬している比率になりますが、営業用車でもこの数値は50%程度です。
つまり半分は車庫に眠っていたり、荷物を積まないで走ったりしています。この数値からも運行情報とシェアリングモデルにより物流が大幅に効率化される余地は残っているのです。

現在、物流の大きな問題とされるラストマイルの問題ですが、このような情報活用とシェアリングモデルで解決される可能性は高いと考えられます。ADASや自動運転化は事故のリスクを低減し、従来なら、プロでないと運べない、もしくはプロ以外の人に運転してもらいたくない、といった制約が限りなく低くなるでしょう。これは一層シェアリングモデルの活用を進展させる要因になります。

将来をイメージするとこういう感じでしょう。自動運転カーをレンタルしカーナビに行き先をインプットすると貨物情報や乗り合い情報(ニーズ)が提示される。そこでついでに荷物を運ぶとレンタル費用が割引になる。これを個人がやったり自動運転カーを保有する事業者がやったりする時代になるのです。

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ラストマイル問題が解消されれば物流費用は安くなります。ネットスーパーは益々盛んになり消費者向け食料品や日用品などの市場では異業種格闘技の結果コンビニに代わる覇権を持つ新しいプレイヤーが出てくる可能性もあるでしょう。アマゾンなどはその候補なのではないでしょうか。

いずれにしてもこのような時代になると多くの異業種格闘技が日々行われる世界になります。内田先生の著書からの引用です。「異業種格闘技は何でもありの世界であり、『これが正しい』といった唯一の解はありません。どこから弾が飛んでくるかわからない、攻めるにやさしく守るに難しい世界です。・・」
正にどこから弾が飛んでくるかわからない世界になりつつあるのです。

もちろん、現実的には様々な規制やクリアしなければならない制約はとても多いでしょう。
それにしても日々異業種格闘技を見ることができる面白い世の中になったと感じます。

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