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ドラマに見る心理学の言葉/内藤  由貴子

INSIGHT NOW! / 2016年6月3日 21時16分


        ドラマに見る心理学の言葉/内藤  由貴子

内藤  由貴子 /

■ 福山雅治さんの「陽性転移」への反応は?

個人的に「テレビはドラマのためにある」と思っているくらいテレビで見る番組はドラマです。

ストーリーが「ちゃんと心理学の背景を抑えているな」と思うドラマは、結構深みがあって見応えがあるものが多いです。

そして、最近は、精神科医や臨床心理士が登場するドラマも、たびたび見かけるようになりました。

心理学の言葉と書きましたが、その中でも時々取り上げられている「陽性転移」と言う言葉をご存じでしょうか。

現在進行形は、「ラヴソング」(フジTV系 月9ドラマ)。
福山雅治さんが、臨床心理士、神代の役で、藤原さくらさん(役名もさくら)が、企業のメンタルケアで吃音の治療の相談者として登場します。

詳しくは省きますが、かつてミュージシャンとして活躍したことのある神代は、さくらの歌の才能を見抜き、ライブやデビューをサポートするのですが…

そして、さくらは神代にラヴしてしまう…。

さくらが神代に惹かれていくプロセスで、さくらが神代に言うこんな言葉がありました。(正確ではありません。ご了承ください )

「そんなに優しくすると陽性転移しちゃうぞ!」と言うさくらに、神代は「良く知っているじゃない。勉強したの?」

たぶん、さくらはシンプルに神代に「好きよ」と言いたかったのでしょう。でも、ちょっと屈折してそんな表現をしたのかもしれません。

このケースのように、クライアントがセラピストに恋愛感情をもってしまうような状況を「陽性転移」と言います。
好きになっちゃうということが「陽性」、
時にセラピストに逆切れして怒りをぶつけたり、敵意を見せたりするのが「陰性」転移です。

現れ方は真逆ですが、根っこは同じです。

感情の転移とは、過去にあった感情をセラピストに移している、そんな言葉です。
多く言われるのは、幼少期に満たされていない親からの感情をセラピストに満たしてもらうことを期待している、というのです。もちろん、無意識に。期待を裏切られると陰性に転じやすいです。

セラピーに携わる者は、クライアントが会った時、実像よりハレーションして見えているもの、だから多かれ少なかれ愛されやすい存在と言えます。その意味で、転移はおそらく陽性で表れやすいものです。
だから、恋愛感情のように思えても、本当は錯覚です。

神代は、さくらが「陽性転移」と言ったので「好きになっちゃうかも。でもそれってクライアントによくあることだよね」と屈折した表現で神代に告白しかけたことを気づいたのかもしれません。彼もその気持ちをあえて、陽性転移と受け取っておくことで、それまでの関係性を維持したわけです。

そうは言っても、相手は福山さんなので、陽性転移も多くなりそうですね。罪作りです(笑)

■ ドラマに「陽性転移」が使われているケースでは

ところで、「Around40 〜注文の多いオンナたち〜」と言うドラマ(TBS系金曜ドラマ)が、2008年にありましたよね。
あのアラフォーという言葉を定着させたドラマです。

あの時も、松下由樹さんが扮する家族にろくに話をきいてもらえない主婦が、行政の心理相談に行ったら、これもまた、藤木直人さんが臨床心理士で、じっくり話を聴いてくれるので、目がハートマークになってしまっていました。
「これは運命の出会いよ…」なんて言う彼女に、天海祐希さん演じる親友の精神科医が、「あなたみたいなのは、陽性転移って言ってね、そんなに舞い上がっていると担当者かえられちゃうわよ」と言っているのを聞き、ドラマにも使われる言葉なんだ!と驚いたのが初めです。

いずれにしても、ドラマの臨床心理士さん、イケメンばかりで、いやでも陽性転移が進みそう。

加えて、昨年の今の時期やっていたドラマに「Dr.倫太郎」(日テレ系水曜10時)がありました。
このドラマは、転移がテーマと言っていいもので、ドラマに出てくる精神科のドクターたちが、転移の説明をしてくれるので、なかなか興味深い内容でした。

そして、ドラマで転移の状態、陽性だけでなく、陰性転移までドラマで再現してくれました。パソコンのモニターばかり見て話すある精神科医に、患者がいきなり「この先生、私にセクハラするんです!」と大声で廊下に出て叫び、大騒ぎに…、と言う内容でした。もちろん陰性転移の説明付きでした。

そして、もう一つの転移があるのをご存じですか。
それが「逆転移」です。むしろ、それが全体を通してこのドラマのテーマでした。

これはセラピスト、このドラマでは、医師の倫太郎(堺雅人さん)が患者の芸者さん(蒼井優さん)を愛してしまうという内容でした。

正直に言うと、セラピストとクライアントの間には、かっちり境界を引かないと転移や依存を誘うことになり、治療の妨げになります。だから、患者に精神科医が恋するのは、本来ご法度、と言うのが常識なんですが…

実際、全体を通してあり得ない精神科医だったので、この逆転移もあり得ないけれど、そこがこのドラマなんですね。

■ 一般に転移はよくある現象です

ところで、この転移ということをセラピストと患者、医師と患者の関係性でみました。

しかし、これらは、こころのケアの場だけで起こり得ることでしょうか。
意外とそうでもありません。

たとえば、精神科だけでなく、一般に医師を対象に患者から転移は起きます。
さらに学校の生徒が、先生にあこがれるのも転移の場合があります。

そして、企業の中でも、部下が上司に、あるいはできる先輩に対してもあるかもしれません。
通常、恋愛対象にしていない同性でもあり得ます。

自分を助けてくれそうな存在なら、転移は起こりうると言えそうです。

あ、それはもちろん、陽性だけでなく、陰性も大いにあります。

そして、これらの感情は、錯覚です。

いつだったか、ネットの相談掲示板に、「女性の心理カウンセラーが好きになってしまった、カウンセラーに陽性転移することがあると知っていたら、こんなに苦しまなくてよかったのに…」と言った相談が書かれていました。この方、陽性転移って本当の恋だと勘違いしているようでした。

ゆめゆめ、運命の出会いとか、恋のはじまりとか勘違いなさいませんように。




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