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トヨタの復旧支援活動に見る能力の源泉/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2016年6月17日 11時40分


        トヨタの復旧支援活動に見る能力の源泉/野町 直弘

野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

手元に非常に興味深い資料が2つあります。一つは2007年の中越沖地震時のRi社に対するトヨタ自動車の復旧支援に関する資料であり、もう一つは2011年の東日本大震災時のRe社に対するトヨタ自動車の復旧支援に関する資料です。

今回はこの資料の中からトヨタの復興支援のやり方や危機管理のあるべき姿についてトピックスを紹介していきます。

まずは復旧時の基本方針です。
トヨタの復旧時の基本方針は「一に人命、二に地域、三に生産」。まずは人道支援、地域の早期復旧を行った上で、生産復旧を行う、というのが基本方針となっています。

それから、これは平時でも同様のトヨタの文化とも言えますが、やはり「現地現物主義」を徹底しているとのこと。具体的には、判断は被害状況が一番わかっている現場に任せ本社は口出しをしないという方針です。

次は生産復旧の基本的な考え方ですが、「被災工場の生産再開が最優先」という考え方を持っています。それがどうしても難しい場合は「同一仕入先の他工場へ生産移管」。それも難しい場合のみ「新規開発による代替または発注先の変更を行う」という方針が明確になっていてあくまでも生産復旧をさせて平常時に戻すことに注力するのです。

このような基本方針、基本的な考え方によって、2011年の東日本大震災時のRe社の復旧支援が行われました。
ここからはこの東日本大震災におけるRe社の復旧活動の進め方についてポイントを上げます。まずは先遣隊メンバーが入ります。今回の事案では他自動車メーカーとの合同チームと言う形で約20名のメンバーが現場に入り、復旧チームや復旧計画づくりに取りかかっていきました。その上で復旧戦略・計画に基づき復旧活動を進めていくのです。

復旧活動における一つ目のポイントは「安全」を最優先にすることが上げられます。
具体的には工場内の「見える化」を行い構内ハザードのマップ化をして、どこにどのようなハザードがあるか、小学生でもわかるレベルにして掲示する。また復旧時には24時間体制で診てもらえる診療所を設け、何かあった時に対応できる体制を整える等復旧チームの人命や安全を第一に優先したとのことです。

2つ目のポイントはチームの一体感作りのための仕組みと仕掛けづくり。今回の事案での総支援者数はインフラ復旧フェーズで約5000人/日にも上ったということで、これらのチームを運営していくために様々な仕組みを用意したとのことです。まずはチームで共有できるスローガンを作っています。
対策本部スローガンとして「早め、大目の手配、大いに結構!」「会社の枠を超えろ!」などを掲げ、全活動部屋にスローガンを貼り、判断・行動の拠り所にしていたとのこと。
また日程の一元管理と見える化を推進しネック工程を見える化する他、チーム組織の人員情報などは壁一面に名刺を貼り、携帯番号を書いておくことで、すぐに連絡が取り合えるような仕掛けを用意したそうです。またチーム内の情報共有のため、様々なミーティング連日行っており、この密なコミュニケーションの仕掛けが様々な企業の人材で構成されるチームの信頼関係をつくることにつながったとのこと。合わせて情報管理についてはトヨタの「大部屋」方式や「見える化」方式を採用し、全員参加の「情報共有」、「即断即決」、「異常だけを報告し、皆で集中し知恵出し」をポリシーとして共有を図っていたそうです。

Re社の復旧活動は戦略立案からスタートし、インフラ復旧、そこから装置復旧、製品生産再開というステップで推進されました。最終的な製品生産再開の段階では復旧のポリシーとして「顧客に関係なく、品質・技術に難度の高いものから取りかかる」ことを実行し、支援者が自社で使う製品にこだわることがないように全て暗号化して進めたとのことです。

このような復旧支援の活動により当初は12月末と見込まれていた生産再開が6月末の復旧を可能にし、全面生産再開も当初計画比で約6ヵ月の短縮につなげることができました。

このような早期復旧を可能にしたのはリーダーシップを持つ特定の人がいたからでも、優秀なコンサルタントがいたからでもありません。過去の災害時の対応や日頃から発生する問題に対し即改善していくことができる能力を日々鍛えられているからできたことなのです。

それを裏付けるように2007年の中越沖地震の際のRi社への復旧支援についてもトヨタは同様の手法をとっています。この事案でもトヨタから一番最初にRi社にかけつけたのは、約20名の先遣隊でした。そのチームには自衛隊やレスキュー隊の経験者だけでなく、宿舎や食事、車などの手配を自前で行うための総務部門もいたそうです。

またこの時も当時の渡辺社長は「無理して操業を維持する必要はない。生産ラインが止まることは覚悟の上である。」とコメントしていたとのこと。正に復旧時の基本方針や考え方が受け継がれていると言えます。

その底流にあるのは緊急時においても定常時においても共通するこの考え方です。
「トヨタは目先のラインを止めないことを第一義的な目的にするのではなく、自分たちがやってきたトヨタ生産方式を守りぬくことが目的なのです。そのためには早く復旧させて定常の状態で工場を動かすこと、これを最大の目的とする。」

また「定常の状態で工場を動かすこと」という意味には、自社の製品生産のためだけに復旧支援活動をしているということではなく、自社の生産に直接関係しないような設備の復旧に関しても支援をしています。これは中越沖地震の際にも言われており、他社の中には「自社製品に使う生産再開が大丈夫であれば問題ない」という対応が一部見られたのに対して対照的であったと言われていました。
これは東日本大震災時にも受け継がれました。東日本大震災の際に復旧チームでは「自社の製品の話をした者は帰れ」ということが合言葉になっていたそうです。「定常の状態で工場を動かす」という対象は正に被災した工場全体を意味しているのです。

このように「トヨタ生産方式を守りぬく」という大きな目的や価値観の共有が全社員にできていること、また日常的な問題解決能力や現場力の強化、取引先との信頼関係が構築されているからこそ、このような危機管理能力や素晴らしい復旧活動が実現できているのでしょう。

今年の4月から起きている熊本大地震や部品工場での災害など、サプライチェーンが断絶する事案が昨今目立っていますが、それでもトヨタを初めとした日本製造業は日々その危機管理能力や復旧能力を高めており、自社の強みにつなげていることが理解できるでしょう。

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