『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』中島聡(文響社) ブックレビューvol.10/竹林 篤実
INSIGHT NOW! / 2016年6月21日 7時0分
竹林 篤実 / コミュニケーション研究所
確かに仕事は簡単には「終わらない」
筆者(本のではなく、この記事の)は自営業を営んでいる。主な生業は、取材をして原稿にまとめること。だから、一般的なビジネスマンの方とは違い、基本的に仕事は自分でコントロールできる(実際には少し異なるけど)。収入が減ることや、次から仕事を発注してもらえないリスクを取るなら、オファーを断る自由もある。このあたりは、上司から仕事を投げられたら、嫌とはいえない一般のビジネスパーソンとはかなり違う。
だから、むやみやたらと仕事を受けさえしなければ、ゆとりあるワークライフを送れる。例えば、現時点で抱えている仕事は、企業トップの取材原稿(6枚ぐらい・締め切りは1週間後)、情報誌の特集(6ページ分・締め切りは7月末)、対談本の原稿(200枚・締め切りは7月末)、企業の周年誌(100枚・締め切りは7月末)、学会取材本の原稿(400枚・締め切りは9月末)、会社案内(30枚ぐらい?・締め切りは?)。
いずれも、まだまだ余裕たっぷり。これぐらい時間があれば、よもや締め切りに間に合わない、なんてアクシデントは起こるはずがない。
とらぬ狸のなんとやら
ところがである。本書と出会っていなければ、おそらく一ヶ月先、7月の20日頃には、「エライコッチャ、あと10日しかない。どないしょう」となっていただろう。
危機に至るプロセスは、かなりくっきりと目に浮かぶ。大きな締め切りが3本重なるとはいえ、7月末といえばまだ40日もある。6月中にぼちぼち構成を考え始めて、7月に入ったら気合を入れて取材もして、七夕明けぐらいから本気で書き始めれば、大丈夫、きっと間に合う………。
これぞまさに『とらぬ狸の皮算用』である。そんなに思い通りにことが運べば、誰も何も苦労することはないし、たいていの人が締め切りを守れるはずだ。けれども、現実はそう甘くない。こんなぬるい考え方で取り組んでいると、十中八九、間に合わなくなる。
理由は実に簡単だ。7月に入ったら、あるいは明日にでも、新しい案件が横から入ってくるからだ。スケジュール表を見ると、来週に一本、再来週に三本新しい仕事が予定されている(ウッ!やばい)。あるいは、昨日提出した原稿について、大幅なやり直しを指示されることもあるだろう。もしかすると本業とはまったく関係のない雑事が紛れ込んでくるかもしれない。その結果、どうなるか。7月25日ぐらいから睡眠時間を削り、仕事場に籠もり、げっそりとやつれ、挙句の果てには、締め切り前日に「泣き」のメールを入れることになるのだ。「すみません、あと一週間ほど、締め切りを伸ばしていただけませんか」と。
100人に1人もできない「締め切りを守ること」
ことほど左様に、締め切りをきちんと守るのは難しい。締め切り破りこそは、ほとんど人間の性といっても良いのかもしれない。だから「私が仕事をするうえで最も大切だと考えている『あること』をきちんとこなせる人は100人に1人もいませんでした(同書、P147)」と、著者は語る。『あること』すなわち締め切りを守ることだ。
守れない理由を著者は、ラストスパート思考にあると指摘する。期限までまだ時間がある間はゆったりと構えて、ぎりぎりになって必死に頑張れば何とかなる………これぞラストスパート思考、諸悪の根源なのだ。単純な事務仕事ならともかく、思考を要する業務、例えば企画をまとめる、資料を整理して用意する、原稿をまとめるなどの作業において、十分に考えたり、推敲する時間のないのは致命的である。
焦ると必ずどこかに粗さが残るもの。完成品の精度を高めるためには、時間をかけて見直すしかない。我が身を振り返ってみても、推敲に3日ぐらいかけることができれば、訂正が戻ってくる率は劇的に減る。
大切なのは、やっつけ仕事で締め切りに間に合わせることではないはず。求められたクォリティ(できる限り、それ以上のものを)を、時間通りに提供すること。これがプロの仕事である。
ロケットスタートがすべてを変える
どうすれば締め切りを守り、かつ質の高い仕事をこなせるようになるだろうか。答えは、ラストスパート思考から、ロケットスタートへの転換を図ることだ。
ロケットスタートとは、仕事を受けた瞬間から、全力で取り掛かることである。仮に締め切りまで10日ある場合、最初の2日間に集中して「ほぼ完成」まで持っていく。コツは「考えてから手を動かすのではなく、手を動かしながら考え(同書、P155)」ること。下手な考え休むに似たりとは至言である。
企画書ならタイトルを書き(仮でいい)、各ページの見出しを書いてみる。次に各ページの内容を箇条書きにしてみる。必要な図があるなら、ラフスケッチを手書きする。原稿も同様である。仮のタイトルを置いて、見出しを作り、各見出しの本文の内容を箇条書きにする。
こうして仮の仕上げを目指す。といって完成原稿でなくて全然構わない。とにかく最初の2日で、いったんひと通りやり終える。そこで思っていた以上に時間がかかりそうなら、3日目にリスケジュールをお願いする。これは締め切り直前での「泣き」とは異なり、理路整然としたリスケである。相手の納得度が天と地ほども違う。
一日も最初の2時間に集中する
ロケットスタートは、一日の仕事の割り振りにも当てはまる。1日10時間働くとすれば、最初の2割に集中する。可能なら朝4時ぐらいに起きて7時ぐらいまで、みっちり仕事する。この間にはメールは見ない、SNSなどもってのほか。資料を探す必要がなければ、ネットは断っておこう。こうして1日の仕事の8割を午前中に終えてしまう。すると、その後は「流し」の時間になる。空いた時間を好きなように使える。
著者は、日本からマイクロソフト本社に招聘され、Windows95の開発をリードしたスーパープログラマーである。本書には、その飛び抜けた仕事ぶりだけでなく、ロケットスタート式仕事術のTipsがたくさん散りばめられている。読みやすく、読んでためになる仕事術の本である。
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