経営戦略構文100選(仮)/構文6:プロフィットプール/伊藤 達夫
INSIGHT NOW! / 2016年7月25日 9時0分
伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社
プロフィットプールとは、利益が出る場所のことであり、バリューチェーン上を常に移動していくので、その動きを常にモニタリングしつつ、自社のバリューチェーン上の立ち位置を考えなくてはならない。
おはようございます。伊藤です。日曜日の朝、紅茶をたしなみながらこの文章を書いています。やっぱり紅茶はミルクですね。うーん、セレブリティ!
いきなり寒く始まりましたが、これぐらいの寒さも必要な気がしています。今年は毎日暑いですからね。もはや7月は終わり、8月になろうとしています。きっと8月はもっと暑いでしょう。アイスクリームが売れ、ビールが売れ、エアコンが売れる。とてもいいことです。
ただ、売れることと儲かることは違います。
儲かるとは利益が出ることです。キャッシュが残ることです。コスト以上に売り上げることです。使用している資本に対してしっかり稼ぐことです。業界平均の利益以上に稼ぐことです。さらに言えば他業界の平均利益以上に稼ぐことです。
そうでなければ、投資家としては資本コストを回収できませんし、資本の管理者としては、資本を使わせるわけにはいかないですからね。
ということで、プロフィットプールです。プロフィットプールとは、バリューチェーン上で利益が出る場所です。
業界のバリューチェーンを上から下まで展開した時に、儲かる場所と儲からない場所があって、それが移動するというのがプロフィットプールという概念の特徴です。
すなわち、今儲かっているからと言って、ずっと儲かるかはわからないということです。
プロフィットプールを測定するのは、若干面倒です。だから、コンサルタントの飯の種にはなりえます。売上ベースの市場規模、業界シェアは整備されていますが、プロフィットプールは多少データを加工しないと出てきません。
私は面倒なので、営業利益で代替します。5年分ぐらいの営業利益を平均して、川上から川下までバリューチェーン上にならべてみれば、どこが営業利益が大きいかが一発でわかります。面倒ですが時系列をとれば、営業利益が大きいところが移動していることも一目瞭然にわかります。
市場規模、業界シェアの代わりに、営業利益規模を出し、営業利益シェアを出すと思ってください。
本当に真面目にやるなら、超過収益に対してやるのが正しいのでしょうが、資本コスト計算してると疲れるので、私は営業利益派です。ええ、無駄な計算は嫌いですから。エクセルに設定すればいいですって?そりゃあそうなのですが、業界によって考え方が違うので、結局シートはその都度作り直すことになるし、営業利益でやる結果とさして変わらないんですよね・・・。だから、私は営業利益派です。
それで、プロフィットプールが大きくて安定的なところが参入先としては魅力的ですし、もしも、プロフィットプールの動向を予測できるぐらいに知見があるならば、その動きに合わせて垂直統合の範囲を柔軟に変えていくことが上手な経営といえるとは思います。
ただ、なかなか予測は難しいです。
一応、たいていはメイン行程からサブ工程にプロフィットプールは移動しますし、川上から川下に移動することが多いかな、とは思います。何回かやれば、どのあたりからどのあたりに動きそうだというのはわかるのですが、たまに外れることがあるので、確定的には言いにくいですね。
私の嫌いなSWOT分析っぽく言えば、自社の今の事業領域にプロフィットプールがある場合に、プロフィットプールが移動してしまうのは「脅威」でしょう。
自社の今の事業領域にプロフィットプールがない場合、プロフィットプールが移動してきてくれるなら、それは「機会」といえるでしょうね。
SWOT分析的に考える場合に、強みの規定がないのに、機会と脅威が定まるケースはレアですが、プロフィットプールは強みとは少しねじれた概念なので、独立して扱えることが多いと思います。
ただね、これは結果としてねじれているのであって、もしも、プロフィットプールの移動をファイブフォースモデルにおけるパワーのやり取りの結果としてとらえるならば、中間変数としてのファイブフォースは「強み」と直接的に関係を持ちますよね・・・。
私はあんまり細かい打ち手でなんとかするのは好きではないので、ファイブフォースはとりあえず無視して、プロフィットプールの移動だけを純粋に考えるほうが好きです。そうすると、多くの論点が論点ではなくなるので、楽なんですよね。効率的です。
こういうことを言うと、「怠慢だ」とか、「お前は詐欺師」だとか、「この非モテ野郎」とか、罵声の言葉を浴びるのですが、心は常に強く強くありたいと思っているので、聞き流して生きています。ええ、クライアントサイドのスタッフのいうことをいちいち真に受けていたら生きていけないぐらい繊細ですからね。
業界の魅力度を考えるならファイブフォースではないか?と思われるかもしれませんし、実際そうなんですけど、ファイブフォースはバリューチェーンにバリューチェーンの外側からの脅威を書き足したものですよね。そういう認識でないと使えないので、もし知らなかった人は今、そういう認識にして欲しいです。ええ、そうでないとバリューネットとのつながりも理解できません。
そもそも、利益はファイブフォースのプロフィットの取り合いの結果としてバリューチェーン上を移動するものであり、その移動を捉えるのがプロフィットプール概念ですね。バリューチェーンとプロフィットプール、ファイブフォースを一体としてとらえていないと、使えません。大体の本ではバラバラに書いてあって、そうは思わないかもしれないですが、一体的にとらえるべきです。
そうすると、マーケットという外部取引は至るところに存在し、内部の資源コントロール間の調整をしているという見方もわかってきて、より「業界」というものが理解できてくるし、産業間の関係性も見えてくると思います。ここまで見えてきて、はじめてマクロの分析とミクロが結節できますが、たいていの企業には必要ない話ではあります。小さい会社はミクロフォーカスです。それでいいとは思います。検討範囲の適切な設定って難しいですよね・・・。
さて、ちらっと触れた垂直統合のお話をもう少しだけ掘りましょうか。
垂直統合は自社のバリューチェーン上の位置づけをどう変更していくか?という論点の解の1つなわけですが、事情としてはプロフィットプールの移動が最も大きいわけです。
バリューチェーン上のある位置に「特化」することがいい時期と、そうでない時期があるわけです。ただ、プロセスなんて、分ければどうとでも分けられるので、何が「特化」かなんて一概に言いにくいと思うのでカギかっこつけましたけどね。ただ、「特化」こそ戦略とかいう人がいるので、ちょっと保留してみました。ええ、嫌がらせです。
簡単に言うと、特化とパッケージ化みたいなものが、2つの極として語られて、その二者択一な意思決定を企業は成長過程で何度か体験するわけですが、プロフィットプールの移動にどう対応するか?の論点です。
過ぎてみると、たいした意思決定ではないかったように感じることも多いですけどね。もともと、外注なのか内製なのか、「メイクオアバイ」として語られて、小さいプロセスの会社では、自分でやろうがやるまいがさして変わらないようにも感じられるからです。でもね、マーケティング上も、ケイパビリティ連続性を考えるうえでも大きいとは思いますよ。
この辺まで解説していると日が暮れるので、やめますが・・・。
最後に宣伝ですが、「経営戦略勉強会‗2016」というのをやります。戦略についてじっくり勉強していくものですので、ご興味ある方は下記リンクを参照していただけると幸いです。
http://taii.jp/2016strategy_landing.html
それでは、今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。
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