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英国のEU離脱からわかった3つの気づき/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2016年6月30日 16時30分

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野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

先週末のことです。
英国の国民投票でEU離脱が過半数をとったのです。またそれと同時にキャンベル首相は辞意を表明しました。
英国のEU離脱が今後のEUや世界経済、日本経済、日本企業やサプライチェーンにどのような影響を与えるかについては色々な方が語っていますので、ここでは今回の件から私が気がついた点についてポロポロと述べていきます。

今回、EU離脱派が過半数をとった理由としてまず上げられているのは移民の問題です。
実際に英国の移民人口はEUの中でもドイツに次ぐ841万人と言われています。これは総人口比ですと13.0%でドイツの12.6%を超える数字です。また、移民人口の全人口に占める比率は2000年には7.9%だったものが、特に2007年以降増加し2015年には13.0%にまで上昇していることを見るとこれは相当のスピードで移民が増えているんだな、ということがわかります。特に英国はEU域内からの移民人口でEU諸国の中でもずば抜けて多い28万人が移民してきている(2014年)ことからも、やはり英国では移民は相当増えており、日々の生活の中でもそれを実感する機会が多くある、というのが理解できるでしょう。

ちなみに日本には移民人口という統計自体がありませんが外国人人口比率は2010年で1.3%となっており、比較にならないことがわかります。
英国同様にドイツ、フランス、スペイン、イタリアなどのEU主要国でも移民人口は500万人を超えています。また人口比率で見てもドイツ、フランス、スウェーデン、スペインなどのEU諸国では全人口の10%を超える人が移民です。またこれは2000年代中盤以降特に増加しているようす。

移民が多いことには理由があります。

これはEU域内での労働力の流動化を促進している政策によるものが一つの理由です。
EU(厳密に言うとEEA+スイス)では、労働移動の円滑化と権利保護のための法整備がされています。具体的には各国の労働市場は他の加盟国の労働者に原則として開放されていることをEU法で規定しているのです。これはある経済理論を元にしています。

皆さんは「最適通貨圏の理論」というものを聞いたことがあるでしょうか。
「最適通貨圏の理論」とは、「最適通貨圏を決定する考え方の基本には、共通通貨圏においては、各国間の経済的格差を為替相場の変動によって調整することができないため他の手段によって調整しなければならない。こうした他の手段を持った地域であるかどうかが、最適通貨圏の要件となる。」というものになります。

他の手段とは生産要素価格(財や労働力など)の伸縮性があるかどうか、でありまた財政による所得分配も、その手段となりえます。あとは生産要素の移動性の高さです。
例えば日本の場合、東京も沖縄も同じ円を共通通貨として使っている訳ですが、地域によって所得額や生産性も異なるので、それを調整しているのが地域間の賃金等の格差であったり、財政の地方への交付金であったり。また今の日本が全くその世界になっています
が、所得が高い地域へ労働者が集まるとか、コストが安いところに資本を投下する(工場を地方に作る)などで同じ通貨を同じ価値で使うことを成り立たせています。
これが「最適通貨圏の理論」です。

EUの場合は財政機能がないので財政による所得再分配はできません。また価格の伸縮性についても賃金は下方硬直性がありますので、例えばギリシャはEU内でも生産性が低いから今以上に賃金を下げましょう、ということは難しくなります。そうすると生産要素の移動によって地域間の調整を行わないとなりません。

当初EU統合する際には特に製造業は労働コストが低い東欧に移転するだろうと言われていました。しかし蓋をあけてみると業種や国によって異なるものの業種の棲み分けは進んだものの、ドイツ、フランスなどの先進国側に工場は依然残っているようです。また2004年のEU拡大までは労働力移動、つまり移民ですが、これもそれほど進まなかったと言われています。当初の評価はそのようなものだったのです。

そこで英国(EU)は様々な積極的な移民受け入れ政策を行い、2004年のEU15カ国から25カ国への拡大が重なって流入する移民は意図を超えて急増していったのです。またこれは英国で当時政権を握っていた労働党政権の政策にもよるものでした。

移民は自国の労働力人口の増加につながります。その面では経済にプラスの効果をもたらします。しかし自国の所得につながる反面、元々の国民の仕事を奪うことにもつながります。
ですから移民に対する国民のイメージは必ずしもよくありません。
手元にISSPという期間が2013年におこなった調査がありますが、それによると英国では「移民に仕事が奪われているか」というアンケートに対して51.3%の方がそう思う、どちらといえばそう思う、と答えていることからも移民に対する印象が悪いことがわかるでしょう。

今回の英国のEU離脱の理由として移民問題があげられていることにはこういう背景があるのです。ここまで述べてEU統合の条件として労働力の移動性が上げられていた訳ですが、それが過ぎたために英国のEU離脱(決議)につながってしまったという皮肉な結果となっていることに気がつかれたことでしょう。

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ちなみに移民と難民は違うものです。難民というのは自国の政治上の問題から身の危険があり逃げざるを得ない人達のことを指します。シリアから多くの人がヨーロッパに逃げてきているのが難民であり、どうしてもそのシーンを想像してしまいますがそれは移民の問題とは直接結びつきません。

それでは今回の件からの気づきは何でしょう。

労働力人口の増減はその国の経済環境に極めて大きな影響をもたらすということは言うまでもありませんし、ドイツなどは1972年より人口が自然減の状態であるのに対し移民の純流入によりその減少をカバーしています。また、人の移動にともなう労働力流動の自由はEU法の4つの自由にも上げられており、「最適通貨圏の理論」から考えても経済学的には正しいでしょう。しかし「経済学だけで世界が動いている訳ではない。」というのが一つ目の気づきです。

先ほどの移民に仕事が奪われているかというアンケート調査結果もそうですし、ドイツの意識調査でも移民は問題か、それとも機会拡大をもたらしているか、という設問に対して問題だと答えた方の比率が英国では64%にも上っています。このように様々な誤解や認識不足はあるものの移民や労働力の移転に対してネガティブな印象があることは紛れもない事実です。

2点目は労働力移動は極めて容易に起こり得る、ということです。これは実際に圧倒的な勢いでEU域内で後進国から先進国への人口移動が行われていることからも言えます。
EU域内では資本の移動の自由も基本原則になっていますが、資本の移動なんかより圧倒的なスピードで人は移動するものです。これはインターネットによる情報伝達スピードや物的流通のスピードアップにより世界が小さくなったことも要因となっています。人の移動は従来に比較するとそれほど高いリスクを感じることもなく、実際に移り住むことも、もはや大きなハードルではなくなった、ということです。

3点目は労働力人口の政策的なコントロールは極めて難しいということ。現状日本では全人口の自然減が始まっており、労働力人口を増加させるために女性や高齢者の活用や出生率を上げることを政府は目指しています。しかし現状の日本の社会の中でこれらの全員が活躍できるような機会を作っても限界があるでしょう。
一方移民を受け入れるとなった場合には、どのような目的でどこからどのような人を受け入れていくか、というしっかりした政策があっても(実際にEUにもブルーカード制などがありますが)中々流出入をコントロールすることは難しいということです。

これらの3つの気づきは日本の今後の経済政策を考える上でも役に立ちます。
私は日本は今後の経済成長や活力を向上させるためにもっと移民を受け入れるべきだと考えています。その上で現状の英国をはじめとしたEUの状況を参考になる機会として捉えるべきでしょう。


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