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​暴力団との正しい“付き合わない方法”/山岸 純

INSIGHT NOW! / 2016年7月17日 22時25分


        ​暴力団との正しい“付き合わない方法”/山岸 純

山岸 純 / 弁護士法人ALG&Associates

1 はじめに

かつては、建設業界や不動産業界、風俗業界を中心に跋扈していた暴力団の方々ですが、近年では芸能事務所や金融関係、最近ではゲーム・アプリ開発や介護業界にも関与しているという噂を聞きます。

他方で、近年、暴力団に対する締め付けはとても厳しくなっており、テレビ司会者として人気を誇っていた島田紳助氏が指定暴力団の幹部と不適切な交際を行っていたことが原因となって芸能界を引退することになるなど、暴力団そのものではなくても、これらに関係したり、暴力団との関係をウワサされただけで社会的に封殺されることも、ままあるようです。

とはいえ、芸能人や企業の経営者などが、その社会的地位からはなれ、個人的に、一人の知人として暴力団関係者と食事をしたり、ゴルフをしたりすることが、果たして、他人に対し具体的に何かの迷惑や害悪を与えるのか、と問われれば、疑問を感じないでもありません。

そこで、日々のビジネスシーンにおいて、万が一、暴力団関係者と出会ってしまった場合の正しい“付き合わない方法”を解説していきたいと思います。

2 法令の理解

まず、暴力団を巡る法令環境について正しく理解する必要があります。

(1)暴力団対策法

正式名称「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」は、暴力団員による暴力的な要求行為を規制し、市民生活の安全を図ることなどを目的として制定された法律です。

この法律は、特に、暴力団員が人の弱みにつけ込み「口止め料」を要求したり、「寄附金・賛助金・用心棒代」といったよく分からない金銭を要求したり、理由がないのに「下請業者」として参入することを要求したりする行為を「暴力的要求行為」として類型化して、これらの行為が行われた場合、警察署長に対して当該行為を禁止する命令(中止命令)を発することができるようにしています。

また、平成20年5月には、いわゆる“舎弟”や“子分”が「暴力的要求行為」を行った場合、その“兄貴分”や“親分”も中止命令の対象としたり、また、“子分”らによる「暴力的要求行為」について、“親分”らにも損害賠償責任を課したりするなどの法改正が行われております。

要するに、法律をもって、“子分”の不始末を“親分”が負担するようにしたわけです。ちょっと笑えますね。

暴力団の世界では、「上の者」に迷惑をかけることを極めて嫌う体質がありますので、こういった独特の関係を利用して暴力団による「暴力的要求行為」などの封じ込めを狙っているわけです。

(2)暴力団排除条例

暴力団や暴力団関係者への対抗策は、国レベルだけではありません。

近年、いわゆる「暴力団排除条例」が全国的に広がっています。

例えば、平成16年頃に、広島県と広島市が「本人とその同居親族が暴力団対策法に規定する暴力団員でないこと」を公営住宅の入居資格とする条例を制定したり、東京都内でも、平成21年1月に、豊島区が、不動産取引において暴力団関係者を排除することを規定した生活安全条例を制定したりしています。

ところで、平成23年10月1日に施行された東京都暴力団排除条例では、他の地方公共団体の同条例などにならい、「暴力団員」のほか、暴力団や暴力団員と「密接な関係を有する者」も「暴力団関係者」として、条例の規制対象とすることとしました。

これにより、「暴力団員」そのものではなくても、

  • ①暴力団や暴力団員が実質的に経営を支配する法人などに所属する者、
  • ②暴力団や暴力団員を不当に利用していると認められる者、
  • ③暴力団の維持、運営に協力し、又は関与していると認められる者、
  • ④暴力団や暴力団員との間で「社会的に非難されるべき関係を有している」と認められる者、

例えば、

  • 暴力団員であることを分かっていながら、その主催するゴルフ・コンペに参加している場合、
  • 暴力団員であることを分かっていながら、頻繁に飲食を共にしている場合、
  • 暴力団員の誕生会、結婚式、還暦祝いなど、多数の暴力団員が集まる行事に出席している場合、

なども「暴力団関係者」と判断されてしまい、不動産売買が制限されたり、東京都との随意契約から排除されたり、各種の規制対象となってしまいます。

要するに、「暴力団・暴力団員と知りながら、これらの者から繰り返し頼まれ事をされてそれにしたがったり、親しい交際をしたり、仲間うちであるかのような態度をとり続けている場合」には、「暴力団関係者」と判断されてしまう可能性があるということです。

なお、単に、親族などに暴力団員がいる、暴力団員と一緒に写真に写っている、また、暴力団員との結婚を前提に交際している場合などは、その事実だけをもって「暴力団関係者」と判断されることはない、とされています。

3 ビジネスにおける正しい“付き合わない方法”

このように、相手が「暴力団員」と知っている場合、ゴルフや飲食など、親しくお付き合わないにこしたことはありません。

ところで、ビジネスシーンでは、知らないところで「ビジネス」としてのお付き合いをしてしまう場合も少なくありません。

実は、東京都暴力団排除条例24条3項は、暴力団の「助長行為」や暴力団に対する「利益供与」を禁止しています。

このうち、「利益供与」とは、具体的には、

  • 飲食店経営者などが、暴力団員が経営する事業者であることを知りながら、当該事業者から、おしぼりや観葉植物などのレンタルサービスを受け、代金を支払う行為、
  • 風俗店経営者などが、暴力団員に対し、「みかじめ料」を支払う行為、
  • ゴルフ場経営者が、暴力団が主催していることを知って、ゴルフ・コンペ等を開催させる行為、
  • ホテルなどの宴会場やイベントスペースの経営者が、暴力団組長の襲名披露パーティーに使われることを知って、ホテルの宴会場やイベントスペースを貸し出す行為、
  • 不動産業者が、暴力団事務所として使われることを知った上で、不動産を売却、賃貸する行為、
  • スポーツや演劇などの興行を行う事業者が、相手方が暴力団組織を誇示することを目的としていることを知った上で、その暴力団員らに対して特別に観覧席を用意する行為、
  • 警備会社が、暴力団事務所であることを知った上で、その事務所の警備サービスを提供する行為、
  • ウェブ制作会社が、暴力団のフロント企業であることを知った上で、そのウェブサイトを制作する行為、

などをいいます。

これらの行為は、たとえビジネス的に「対等な取引」であったとしても、「ビジネスの相手方が暴力団であると知っていながら、これらの活動によって、暴力団の利益となる取引・行動を行った場合」、「利益供与」と判断されてしまう可能性があります。

そして、東京都公安委員会は、このような「利益供与」を行った事業者に対し、そのような行為を止めるよう「勧告」を行ったり、「勧告」を行ったにも関わらず短期間に繰り返し同様の行為を行った事業者などに対しては、「事業者が当該行為を行ったという事実」や「勧告を受けた事実」を「公表」することができます。

要するに、暴力団とは「取引をしない」のが一番です。

しかし、彼らは巧みに素性を隠して、あらゆるビジネスシーンに割り込んできますので、知らないうちに暴力団と取引をしてしまっているケースも少なくありません。

そこで新しい取引に際しては、契約書に予め「暴力団排除条項」を盛り込んでおくことが大切になります。

既に不動産関連や建設関連の標準約款に盛り込まれている「暴力団排除条項」ですが、これがあることで、「事前に暴力団関係者かどうかを確認した」ことの説明にもなりますし、事後に取引の相手方が暴力団と判明しても、警察や公安委員会に相談するきっかけとすることができます。

また、現在では、弁護士に相談したり、業界団体に相談することで、事前に「暴力団員」かどうかを判別することができる仕組みも構築されています。

このように、新しい取引に際しては、どんなに優しい顔をしている相手方であっても、まずは暴力団、暴力団関係者かどうかを確認する、これが暴力団と“付き合わない方法”の第一歩です。

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