コンセプチュアル思考〈第12回〉 物事のとらえ方を研ぎ澄ませる/村山 昇
INSIGHT NOW! / 2016年8月10日 15時0分
村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング
◆商品や技術は磨かれたコンセプトを欲している
世の中にはコンセプチュアルな能力を研ぎ澄ませて仕事にしている人がたくさんいます。例えば、商品企画者です。ヒット商品の成功要因というのは、その具体的なアイディアが語られがちですが、実のところ、アイディアから入る企画者は単発的にヒットを当てても、継続的にヒットを生み出すことはできません。優れた企画者は、必ずと言ってよいほど、コンセプチュアル感覚を磨いて、まさにコンセプトづくりからしっかり始めます。担当する商品や技術、それを取り巻く環境を意図的に視点をずらしてながめたり、既存の概念や常識を否定したり、新しい枠組みを考えたりするなかで、アイディアをどうしようかと発想を巡らせます。
また広告制作の世界で活躍するディレクターやクリエイターたちも柔軟的で先鋭化したコンセプチュアル能力を発揮している一群です。昨今では、機能面や価格面での商品の差別化が難しく、その分、広告で引き寄せたいという要求が強まっています。そのために広告のつくり手は、商品の訴求ポイントをどんどん鋭くして、消費者の欲しい気持ちを刺激します。また、時代のフワフワとした空気を先読みして、ずばり一行のコピーに表現したり、流行をつくり出したりします。
このようなしなやかさをもったコンセプチュアル能力は、一部の人にかぎらず、だれしもみずからの仕事において必要なものです。担当する商品・サービスをつねに向上させていくためには、つねに自分のなかのコンセプトを柔軟的に見なおし、精錬していく思考力が不可避だからです。
私たちはよく、特段に優れた商品・事業に遭遇すると、「これは〇〇の概念を超えている」とか「こんな使い方があるなんて知らなかった」「常識をくつがえされた」「この商品コンセプトにやられた」「このビジネスモデルは画期的だ」などと表現します。そのように優れた商品・事業というものは、コンセプトの次元からすでに優れていたといえるでしょう。もちろん商品技術は重要です。しかし、技術はある商品コンセプトのもとに置かれることで輝きを放ちます。ある意味、技術は世の中にあふれていますが、そのすべてが日の目を見るわけではありません。
時代とともに人びとが抱くコンセプトは変わり、変わりゆく技術もそれが有効に用いられるコンセプトを欲しています。また、コンセプト自体を消費する社会にもなりました。そんななかで、ごく一般的な物事のとらえ方、論理秩序、枠組みに依っているだけの思考では、担当商品に力を与えることはできません。既成のコンセプトに対し、つねに鋭い思考の投げかけを行うというコンセプチュアル能力は、商品がますますコモディティ化する流れにあって、いやまして重要になっています。
◆物事のとらえ方を精錬する6つの方法
物事のとらえ方を研ぎ澄まし、とらえた内容(すなわちコンセプト)を精錬していく方法はさまざまあります。「コンセプチュアル思考」では、下図のように大きく6つの種類で分けて考えています。
この中で、最もシンプルでありながら、最も強力な発想法なのが、「1-a:掛け合わせる」です。独創的な発想は、ときに異種の掛け合わせから生じます。例えば、「イチゴ大福」とか「回転寿司」がそうです。この発想はどうしたら生まれるのでしょうか───?
それは論理的手順によって生まれるというより、“セレンディピティ”的な偶発の作用によることが多いのではないでしょうか(論理が不要ということではありません。論理は前提として、手段として不可欠なものです)。その偶発の作用を呼び込むために重要なものが「発想を生むレディネス(readiness)=意識・能力の準備状態」です。
この「レディネス」を鍛えるために、「コンセプチュアル思考」では『ポット・マジック・アイディエーション(ポットの魔法によるアイデア発想)』というワークを用いています。ランダムに引き当てた言葉のカードを掛け合わせて、新しいコンセプトの商品・サービスの発想をするという思考トレーニングです。
本記事で以下に紹介する答案サンプルは、「コンセプチュアル思考」ワークショップで実際に出されたアウトプットです。今回、受講者たちは旅行代理店の商品開発担当者になったと仮定してワークを行ないました。想定外の言葉(=概念・切り口)を掛け合わせて、さて、どんな旅行商品の発想をしたでしょうか―――
◆受講者の答案サンプル
自分の担当する商品・サービスの発想をするとき、私たちはどうしても既成の枠内で閉じて考えてしまいがちになります。それでは、「コロンブスの卵」的な大きな発想はできません。他社との差別化も難しいでしょう。枠を破るために、このワークのようにまったく想定外の言葉を強制的にぶつけて掛け合わせてみる。そういう思考・意識の鍛えをふだんからやっておくと、「セレンディピティ」を起こす確率を上げることができます。
「発想を生むレディネス」をつくっておくと、街角をふと歩いていても、自分の担当商品・サービスを蘇らせる異種の掛け合わせ概念を引き寄せることができます。偉大な科学者パスツールはこう言いました───
「チャンスは心構えした者の下に微笑む」。
Chance favors the prepared mind.
* * * * *
実施したワークショップの情報
◆ワークショップ名:
Discover Book College
仕事に価値を キャリアに軸を与える
『コンセプチュアル思考』ワークショップ〈第3回〉
「枠を外して」みよう ~目の前の製品・サービスは無限に変えることができる
◆開催日:
2016年7月13日(水)19:00‐21:00
◆会場:
ディスカヴァー セミナールーム(東京・千代田区)
◆ファーメンター(fermentor=受講者の概念“発酵”をみちびく人):
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
村山昇
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