失敗した! そんな時こそマーケティングで考えなおそう/竹林 篤実
INSIGHT NOW! / 2016年8月22日 7時0分
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竹林 篤実 / コミュニケーション研究所
最初にどう考えたのか
マーケティングのセオリーに従うなら、新商品やサービスを企画する際には、マクロ分析、ミクロ分析から始めることになる。具体的にはPEST分析や3C分析である。その上でVC分析、5F分析と進めていく。ただし分析といっても、ロジカル思考に秀でたコンサルタントじゃなければできない、などとたいそうに考える必要はない。
分析、すなわち情報を集めて、分類することだ。仮にインバウンド関連のサービスを立ち上げようとしているのなら、PEST分析で集めて来るべき情報は次のようになる。
外国人観光客の来日を促進するような政府の動きはあるのか(Political)
為替や海外の経済などの状況はどうなっているのか(Economical)
Airbnbのようなサービスが普及しているのか(Technological)
などの情報である。
また、立ち上げようとしているサービスが、外国人観光客を対象としているなら
彼らが来日時に困っていることは何か(Customer)
困っていることを解消するサービスは何があるか(Competitor)
を調べればよい。
あるベンチャーのケース
外国人観光客をターゲットとしたビジネスを考えた起業家がいた。彼はまず、アンケート調査を行った。訪日観光客が、何に一番困っているのか。同じ調査を総務省などでも行っているが、何より不便を訴えているのが、フリーWi-Fi環境のないことだ。
同じアジアでも韓国や台湾などでは、観光地ならたいていフリーWi-Fiが整備されている。ところが日本では通信キャリアが提供するサービスは、契約者以外使えず、行政などが提供するサービスもメールを送ってログインしないと使えない(そのメールを送れないから困っているのだが)といった状態で不便極まりない。
そして二番目に困っているのが、道案内である。外国語の表示が充実しているとはいえず、道を尋ねてもうまく答えてもらえない。ここにチャンスがあると、彼は考えた。
フリーWi-Fiと道案内あるいは通訳を同時に提供できるサービスがあれば、きっと成功する。ここまでには問題はない。だが、その先を詰めきらずに突っ走ってしまった。ベンチャーであり固定費をミニマムに抑えていたから、コスト競争力はある。特別なルートで人的リソースを確保していたから、通訳などのパフォーマンスも高い。つまり4PのうちProductとPriceは競合優位にある。
けれども、BtoCビジネスのカギとなる、PromotionとPlaceが致命的な弱点となった。つまり、せっかくのサービスも外国人観光客に知ってもらうことができず、使ってもらえなかったのだ。
失敗からの軌道修正
思うように売上は上がらず、抑えているとはいえ経費は毎月出て行く。そこで彼は素早く方向転換を考えた。ここで役に立ったのが、マーケティングのセオリーである。
彼は、自分のビジネスモデルを見なおしてみた。優秀な翻訳・通訳スタッフ(帰国子女もしくは留学生、それもトップレベルの大学所属)、スタッフのほとんどをバイトで回す低コスト体制といった強みに変わりはなく、外国人客は増え続けている。
ただ、セグメンテーション、つまり勝負すべきマーケットを間違った。確かに外国人観光客のニーズは顕在化しているが、ニーズが明らかになっているということは、それを狙う大手が参入してくることになる。実際に、そうなってもいた。格安のSIMカードを空港で提供するビジネスが立ち上がっていたのだ。
では、どう考えればよいのか。外国人観光客を巡るマーケットは他にもある。つまり、外国人観光客をターゲットとする企業を支援するBtoBマーケットである。幸いなことに、彼の商圏内には外国人相手にビジネスを展開する企業や店がいくらでもあった。そこに対して、単に質の高い通訳・翻訳サービスを提供するだけではなく、外国人観光客を集客するための総合プロモーション提案のできる企業であることをアピールした。
人脈プロモーションを徹底
最初に立ち上げたビジネスの失敗体験から、彼はプロモーションの重要性を学んだ。要するに、いくら優れた商品やサービスを持っていたとしても、それを想定顧客に知ってもらわなければ、買ってもらえないのだ。
だから、絞りこまれているとはいえ不特定多数を対象とするBtoCから、特定顧客を対象とするBtoBへと思いきった転換を行った。そうした顧客に対しては、代理店が機能することも理解した。自社でターゲットすべてにアプローチをかけるのではなく、ネットワークを活用する。この知人ネットワークが機能するのも、BtoBのメリットである。
ラッキーなことに、彼が当初立ち上げたサービスは新奇性があり、さらに彼自身が若手ベンチャーだったことも相まって、マスコミに取り上げられていた。だから、そうしたビジネスに関心を持っている相手、要するに彼が新たにターゲットに想定した相手の間では、彼の会社はある程度の認知度があった。だから受け入れられた。
その結果、初年度の売上が、次年度には10倍以上に伸び、さらに今期は5倍程度の成長を見込んでいる。当初のモデルに固執していたら、今の成長はなかっただろう。
失敗した時のマーケティング頼み
うまく行かなかった時は、もちろんピンチだが、チャンスでもある。マーケティングのセオリーに従ってプランを組んでいれば、どこが問題なのかがわかるはずだ。そこでサンクコストにこだわることなく、問題点を解消する。それができれば、ピンチはチャンスになる。
よくPDCAが大切といわれるが、マーケティングにおいてはPDCAのAはAdjustmentだと思う。セオリーに則ってプランを立て、実行してみて検証する。思い通りにいっていない場合には、セオリーに照らし合わせて修正する。マーケティングセオリーは、ビジネスを展開するための羅針盤として機能する。
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