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調達購買改革を巡る誤解 その1/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2016年8月29日 9時0分


        調達購買改革を巡る誤解 その1/野町 直弘

野町 直弘 / 株式会社アジルアソシエイツ

その1.「集中購買」=「サプライヤ集約」=「コスト削減」の誤解

最近調達購買関連でお客様や身の回りのバイヤーの方々と話をしている時に違和感を感じることがあります。それは、言葉が一人歩きしているように感じるのです。
まるで新聞や雑誌、Web記事の見出しのよう。

例えば「『集中購買』推進で『コスト削減』」とか、「『サプライヤ集約』で半減し『コスト削減』」とか、「『マルチソース』で『リスクマネジメント、BCPを推進』」などなど。

多くのケースでこれらのキーワードは目的(後者)と手段(前者)を示しています。しかしこの目的と手段ですが、よく考えてみると実は因果関係がないことも少なくありません。
もっといえば手段が目的化してしまい、目的が不明確なことも多いようです。

「どこそこの企業がこういうこと(例えばサプライヤ集約)をして大幅なコスト削減を実現したようだから、うちでも検討してみなさい」という経営陣からの指示で調達購買部門が動きだしました、とか。このような企業の多くは経営陣や調達購買本部長には調達購買部門の経験がなかったりします。

今後何回かに渡ってこのような調達購買改革を巡る誤解についていくつかのテーマを取り上げてご説明していきましょう。

まず一回目の今回は『1.「集中購買」=「サプライヤ集約」=「コスト削減」の誤解』について取上げます。

2007年7月に「集中購買は何故進まないのか」というレポートを執筆しましたが、その中で集中購買の定義について私どもはこのように定義しました。

「集中購買とは?「購買機能のうち少なくとも契約業務がある部門に集約されている状態であり、全社もしくはグループ企業を含む量的な集約を前提に、より有利な契約を行い、またその契約条件を適用させることを目的にした活動」。

これをもう少し簡単に言ってしまうと、契約業務をある部門に集約させて量的な集約を図りボリュームメリットを出しましょう、ということです。

集中購買が何故進まないのか、例えば本社調達本部が集中契約したにも関わらず各事業部や工場ではその契約を無視し、既存の取引先に価格を下げさせて発注を続けるなどが失敗事例の典型になりますし、それを防ぐためには、トップダウンでのルール徹底や事業部主導の緩やかな集中購買の仕組みがポイントとなりますよ、等は上記のレポートで詳細を書かせていただいております。

一方で「サプライヤ集約」の定義は言葉通り、支払をしているサプライヤの口座を減らしましょう、またできればこの活動でボリュームメリットを引出そうということでしょう。

このように集中購買もサプライヤ集約もボリュームメリットを活かしてコスト削減を実現しましょう、というのが目的になります。しかし、このボリュームメリットというのがクセモノなのです。ここでは、このボリュームメリットについてもうちょっと深く考えてみましょう。

ボリュームメリットとは要するに多く買うことでコスト削減を実現しましょう、ということですが、例えば全く同じモノをたくさん購入(生産)すればサプライヤの生産コストは下がります。しかし、これは金型などを仕様・図面に基づき製作するカスタマイズ品に関して言えることです。金型などの準固定費は生産量が増えれば増える程1個当たりのコストは薄まります。また生産効率も習熟されるため、生産コストも下がるでしょう。一方で汎用品はどうでしょうか。汎用品は生産規模によります。現状の生産規模が100あってそれがある一社のボリュームが増えることで110になればコストは下がるでしょう。しかし100から101になったとしても殆どコストは下がりません。
違うモノでも作り方が同じようなカスタム品(例えばプラスチック射出成形品)などは生産コストの大きい部分を設備加工費が占めるので、総生産量が増えれば設備の稼働率が高まりその分コストは下がりやすくなります。

このように購入するモノの種類や作り方によって、また個別企業の工場や設備の稼働状況によってもボリュームメリットが出て生産コストが下がるモノとそうでないモノがあるのです。

そうは言っても沢山買うと言えば安くしてくれるだろう、というご意見もあると思いますが、それはそれで理由があります。この場合、サプライヤ集約などがいい例になりますが、ある品目(群)の取引サプライヤを10社から5社にしますと1社当たりの売上は平均2倍になります。これらのサプライヤがこのバイヤー企業に対する売上依存度が高ければ高いほどサプライヤ企業の売上高の増加率は高くなります。売上が増加するということは固定費が増えなければ売上から変動費を指しひいたものが収益の増加です。
あくまでも固定費が増えなければですが、この場合、サプライヤの集約などによる売上の増加でサプライヤの収益が向上します。この場合にはサプライヤの販売価格を値下げしてくれという交渉が成りたちます。
しかし気をつけなければならないのは、このケースはあくまでもサプライヤの収益を買い手企業に還元してください、ということであり、純粋に生産コストが下がっている訳ではないということ。

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そもそも自社が発注金額を増やしたところでサプライヤの売上増加に貢献できるかどうかも個別企業によって異なりますし、売上が増えれば追加的な投資や人員などの固定費の増加も予想されますので、イロイロなモノをまとめて買えばコストが下がるとは言い難いでしょう。

そうすると同じモノを今まではバラでいろんなサプライヤから買っていました、それを集めて同じモノを同じサプライヤから購入しましょう、というのがサプライヤのコスト削減にもつながる手法となりますが、こういう機会は非常に限定的であることが理解できます。

このように考えると集中購買は初期のころは効果が出やすい活動と言えるでしょう。
例えば同じモノを買っているのにサプライヤが分散している場合にはメリットが出やすい。またチェンジコスト(サプライヤ切り替えにかかるコスト)が低いモノの方がコスト削減効果が出やすくなります。何故ならチェンジコストが低い場合には現状購入しているモノを含む全ての契約に関して多事業所の契約を集中できるからです。
一方でサプライヤの切り替えによって金型の新規製作が必要になるなどチェンジコストが高い品目は現状購入品についてはサプライヤの切り替えが難しくなり、新規案件からサプライヤ間で競争させましょう、ということになります。ですから集中購買やサプライヤの集約を行ってもコスト削減効果は出にくいです。

チェンジコストが低いモノも集中購買実施の初期は効果は出やすいですが、何度もサプライヤの切替えを行うことは考え難いし、一度削減された価格から追加で何度もコスト削減がでできるとは考えにくいでしょう。

このように集中購買を続けていても継続的にボリュームメリットが出続けることは考え難いということなのです。だからと言って集中購買をやめるかというと、それはまた、違った議論になります。集中購買集中契約を行うことによる様々なメリットが他にもあるからです。

しかし集中購買を続けていればコスト削減が継続的にできるというのは幻想。何故なら、サプライヤのコストが下がリ続けない限りコスト削減は有限だからです。

次にサプライヤ集約ですが、定義を読んでも「集中購買」=「サプライヤ集約」でないことは明確です。サプライヤ集約は「集中購買」や「競争化」を図ることであくまでも結果的に「サプライヤが集約されていた」ということになると考えるのがよいでしょう。

サプライヤ集約とコスト削減については、先ほどもふれましたが、サプライヤが集約されることで1社当たりの発注金額が大幅に増え、売上が増えれば、固定費が薄まり、あくまでも収益還元という形でボリュームメリットを享受することは可能です。しかしこのような機会につながらないことも多いでしょう。もっと言えばサプライヤの集約自体が難しいです。
例えばチェンジコストが高い場合、新規案件から集約せざるを得ません。またサプライヤ集約をしたくても地域性が強く結果的に集約できないこともあります。繰り返しになりますがサプライヤ集約は競争の結果にしかすぎません。競争した結果、強いサプライヤ2社に集約されました、というのが定石なのです。

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一方でサプライヤ集約の目的をモノのコスト(単価)削減ではなく業務コスト削減を目的としているケースもあります。所謂口座数を減らすことで管理コストを削減していきましょう、ということです。管理コストの測定は非常に難しいという点はあるものの、これはこれでありでしょう。
しかし、業務コスト削減を目的としたサプライヤ集約であれば別のアプローチをとる必要があります。例えばトップダウンでヘッド(発注金額の多い企業)を残しテール(発注金額の少ない企業)部分を切り取る、とか、商社は商社でまとめる、とかメーカー直接ではなく商社経由の取引にする、とか、メーカーとの取引であれば代替品の有無から集約するか否かの判断をする、などです。いずれにしてもこの場合はかなりの力技が必要になりますし、現場主導で動かなければ様々なリスクが残ってしまいます。

このように「集中購買」=「サプライヤ集約」=「コスト削減」と厳密な意味で繋がらないことは理解していただけたでしょう。集中購買を進めているのに何故サプライヤ集約が進んでいないのか、サプライヤ集約を進めているのに中々すすまないのは何故なのか、集中購買やサプライヤ集約を進めているにも関わらずコスト削減が進まないのは何故か、という疑問に対してこのような課題設定自体に誤解が含まれていることが理解できます。

次回はその2.「サプライヤ評価」=「サプライヤマネジメントの誤解」について述べていく予定です。

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