マーケティングの因数分解パート1/竹林 篤実
INSIGHT NOW! / 2016年9月5日 7時0分
![マーケティングの因数分解パート1/竹林 篤実](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/insightnow/insightnow_9415_0-small.jpg)
竹林 篤実 / コミュニケーション研究所
『価値と対価』の交換法則
ビジネスとは何か。コトラー先生は、次のように喝破された。すなわち、ビジネスとは「価値と対価の交換」であると。
顧客は、商品やサービスを求めているのではない。その商品やサービスを購入することによって得られる価値のために、対価を払っている。といえば多くの方が、マーケティングの教科書で一度は読んだ「ドリルの話」を思い出されるはずだ。
セオドア・レビット博士は、その著書『マーケティング発想法』で次のように書いた。「ドリルを買う人がほしいのは、ドリルそのものではなく『穴』である」
この格言は、筆者が行うマーケティングセミナーで毎回、次のようなたとえ話を交えて使わせてもらっている。
「この中に、電動ドリルが好きで仕方なくて、何台も集めている人はいますか? そんな人、いませんよね。必要なのはドリルそのものではなくて、ドリルで開ける穴なんだから。だから、もし皆さんの中に時給を計算して3万円を超える人がいるなら、ちょっと考えてみましょう。自分でドリルを買って来て穴を開けるより、時給3000円ぐらいでバイトを雇って、ドリル購入と穴あけをしてもらったほうが、たぶん安くつくのではありませんか。価値と対価の関係を理解するために、これから買物をする時に、自分に質問するクセを付けましょう。それは『これだけの対価を払って、得ようとしている価値はなんだっけ?』です」
『価値>対価=取引成立』の大原則
これがマーケティング方程式のイロハのイである。つまり顧客からみれば、自分が支払った対価以上の価値を手に入れることができれば、そのビジネスは成功である。価値を提供してくれた相手に対して感謝するだろうし、取引を継続する可能性が高まるに違いない。
これが逆の場合なら、「次」はない。例えば、ちょっと奮発して評判のフレンチに行ったものの、QSCAの総合評価が支払った料金に見合っていないとなれば、次はないはずだ。ちなみにQSCAとはQuality(料理)、Service(接客)、Cleanliness(清潔感),Atmosphere(雰囲気)のこと。
ただ難しいのは、価値と対価のバランスが、B2BとB2Cでは大きく異なることだ。B2Bの場合は基本的に極めてクリアである。すなわち価値とは投資対効果である。従って支払った対価(投資)以上の効果を得られるかどうかで、取引が行われるかどうかが決まる。投資対効果が数字的に明らかにならないと、まず稟議を通らない。
ところが、B2Cの場合は、価値観は個人によって異なる。同じフレンチで同じメニューを頼み、同じようなサービスを受けて、同じ代金を支払ったとしても、「めっちゃ良かったやん」と「二度とないな」に別れたりする。これがB2Cビジネスの難しさだ。とはいえ、これも考え方である。仮にフレンチを経営するなら、自分の店はどんな客をターゲットにするのかを、明確に打ち出せばよい。そこを曖昧にして、というかスケベ根性を出して、あらゆるお客様に好かれる店などと考えると、どんなお客様からも好かれることのない店(=特徴のない店)になってしまう。
マーケティング変数その1:3C
従ってどんなビジネスであれ、絶対に欠かせないのがCustomer、つまり提供する商品なりサービスなりに、価値を認めて対価を払ってくれる相手を考えること。あなたのビジネスでは、誰が顧客なのかが、はっきりと定義されているだろうか。ここでいったん、この記事のリードに戻ってほしい。リードには次のように書いてあったはずだ。
「素晴らしいアイデアを思いついた! これを活かした新製品を開発、あるいは新サービスを展開すれば絶対うまくいく……」
もちろん、これでうまくいくケースがあることを否定はしない。けれども、これだけでは、非常に危なっかしいとも思う。なぜなら、ここにはCustomerの視点がないからだ。この話をするときに筆者が例に使うのは、日本のS社と韓国のS社のエピソードである。
日本のS社「良いものを作れば売れる」
韓国のS社「売れるものが良いものだ」
日本のS社が言う「良い」とは、S社からみた価値判断である。そこに顧客の視点はない。だから、同じテレビを扱っていながら2つのS社には大きな差が付き、日本のS社は海外メーカーの傘下に入った。この事例から学ぼう。
残る2つのCは、Competitor(=競合)と、Customer(=自社)である。ここではCustomerを頂点として、底辺に競合と自社を置いた三角形をイメージすると良い。顧客はどちらを高く評価してくれるのか。顧客の判断基準は、あくまでも価値と対価のバランスに尽きる。
仮に、いま展開しているビジネスがうまく回っているなら、狙っている顧客が、自社が提供している商品なりサービスに対して、対価以上の価値を認めてくれていることになる。であるなら再確認すべきは、顧客にとっての価値と対価のバランスであり、競合の動きだろう。この関係を不変だと思い込んでしまうと、成功のジレンマに陥ってしまう。顧客の状況は、常に移り変わる。そもそも顧客を取り巻く環境要件が、簡単に変わるのだ。まず注目すべき変数としてPESTや5Fが重要だ。
逆に、いま展開しているビジネスが不振ならば、顧客と提供価値と対価のバランスを見直すこと、加えて競合との比較を行うことが喫緊の作業となる。もしかすると、そもそも顧客を想定していたのかとか、顧客にとっての価値をきちんと定義していたかとか、対価設定を原価の積み上げだけで考えていたのではないか、などの反省要素が出てくるかもしれない。
まずは、価値と対価について振り返ってみること、その際には顧客の視点を徹底すること。これがマーケティング因数分解その1となる(たぶん、続く)。
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