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キャリアカウンセリングで話す、内定ブルーになった時のこと/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2016年9月28日 7時0分


        キャリアカウンセリングで話す、内定ブルーになった時のこと/増沢 隆太

増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

・内定者の立場
内定とは、始期付解約権留保付労働契約といわれ、まだ社員の身分で働いてはいなくとも、その契約を会社が破棄=内定取り消しをすることに大きな枷をかけるものです。日本の会社の解雇規制が働き、社員ではなくとも内定取り消しには大きな制限があります。ではその逆、内定者が内定辞退をするのはどうでしょう。

この規制は労働者保護のためのものですから、労働者側が契約(内定)を反故にすることについては、道義的には大きな問題があっても不可能ではありません。内定目指してまっしぐらに突き進んだ結果、複数内定を得ることも珍しくありませんから、最終的に入社できる1社に絞らなければなりません。

1社に絞ったものの、自分の決定はこれで良かったのか、本当は別の会社に入るのが正解ではないのかと迷ったり後悔し出すことで内定ブルーが生まれます。そのピークはこの10/1内定式前と、4月の本入社前なのです。


・キャリアカウンセリングに来る学生
就活対策、エントリーシートや面接対策の個人指導・相談に比べれば数はぐっと減りますが、内定先の悩みを抱えてキャリアカウンセリングを受けにくる学生は毎年います。親や大学のキャリアアドバイザーではなく、わざわざお金と時間をかけて第三者にキャリアカウンセリングを受けるのはなぜでしょう。

彼ら彼女らはアドバイスを求めに来ているのは間違いないのですが、それは単に正解を指示してほしいのではありません。なぜ今せっかく苦労して得た内定そのものに悩み、その多くは将来への不安と夢のないまぜになった複雑な心境です。内定先への不満を語ることも非常に少なく、一見何に悩んでいるのか傍目にはわかりづらいことでしょう。

私自身はビジネスの経験上、またキャリアの専門家として企業や経営、特に人事の知見は人事コンサルティングや人事相談を長年担当するなど、一定以上持っていると自負しています。社会人として働いた経験のない学生より、私の判断は適切である可能性は高いはずです。それでもこの正解に近い判断を、学生にストレートに伝えるということは、キャリアカウンセリングの場ではまずありません。


・内定ブルーの学生にはどう接するべきか
一見何が不満なのかよくわからない、実際内定先企業がそれほど悪いとも思えない状況で、じっくり学生の話を聞くのは恐らくとても難しいと思います。カウンセラーの傾聴力をもって臨まなければ、聞き手側がしびれを切らして結論を急いでしまうことでしょう。

一番重要なことは、そこです。急がないことに尽きます。正しい判断を伝えること以上に、聞き手側が意見を発するのをがまんし、十二分に学生の話を聞くことが何より欠かせません。カウンセリングに初めて訪れた学生の中には、私が何も示唆を与えず、ただ学生のいうことを聞いているだけの姿勢に疑問を感じる人もいます。「なぜ何もアドバイスをしないのか」と聞かれるのは珍しいことではありません。私は「あなたの状況や考えを聞きたいので、もっと話してほしい。今いった〇〇のこと、詳しく聞かせて」などと話を続けます。

ほとんどすべての学生は善意からでも一方的に社会通念上の判断を提示してくる反応になれているので、さっぱり提示しないカウンセラーには肩透かしを感じるのでしょう。しかし逆に自分の意見をしっかり聞く姿勢は新鮮なのか、この辺りからカウンセラーとの距離は一気に縮まることが多いといえます。

キャリア決定において正しい・間違っているという判断は本当はありません。自分の人生ですから、コンプライアンスに反しない限り、他人の価値観など関係なく決定するのがキャリアです。ただ、コンプライアンス上は問題なくとも、社会通念上明らかに損をする、危険度が高いといった選択はもちろんあります。

貧困学生の存在が問題となり、貧困が原因で希望するキャリアを選べないことが話題になりました。しかし現状が経済的に厳しい環境にあるのであれば、選ぶべき進路もその厳しい経済状況を改善できる可能性が優先されるべきです。経済合理性から見ればそれが正解だと私も思います。しかしそうした正解という結論は、他人に指示されたとしても恐らく納得感が乏しく、もっともな意見だとはわかっても夢を捨てきれないという不整合状況は変わりません。


・「夢はかなう」キラキラフレーズに踊る
ネット上には「夢をあきらめない」、「やらずの後悔より、やって後悔」的なキラキラフレーズを唱える人たちが一定数います。ブラック職場やいかがわしい商法でもこうしたキラキラフレーズは大人気です。

貧困学生が、アニメーターや芸能人、司書やら学芸員など経済的にも厳しい現実にあるキャリアを選ぶことは限りなくリスキーであり、生活破たんの可能性が高いといえます。しかしそうした結論を諭すのではなく、まずその選びたいキャリアがどういうものなのかを自分の言葉で語ってもらうのは非常に重要です。内定ブルーの学生も、今内定先に感じる不安と不満が何であり、どういった進路選択ならそれがかなえられるのかを丁寧に傾聴する必要があります。

実は新卒就活学生どころか、再就職支援の40代50代の方のキャリアカウンセリングでも同じようなアプローチをすることが多いのです。現在の日本において、中高年の選択肢は極端に少なく、再就職が必要な状態になったり追い込まれた方の選択肢はさらにその何十倍も狭いものになっています。そんな方に現実を通告しても、まず心底から受け入れられることはありません。表面的にはその「答」を受け入れたように反応し、恐らく二度と面談には来られなくなるでしょう。


・気付きは自らの中で起こる
内定ブルーの学生も全く同じです。その選択が危険でない限り、個人の意思は尊重されるべきです。しかしビジネス的な視点、キャリア専門家の視点で見て、大いに危険性のある選択を実は学生が希望している場合、ぜひともそのキャリアについて詳しく説明してもらいましょう。今ある内定を捨ててまで選びたいその選択ですから、きっちりとした理解をしているはずです。その選択をしたものの、キャリアに行きづまる可能性やそんな時の対策についても聞いてみましょう。

明確なリスク感覚を持ち、現実的想定の上での選択であれば、たとえそれが無謀そうに見えても、最後は自分自身の人生です。それは自己責任で見守るしかないと思います。しかしこれまで何千人ものキャリアカウンセリングを行った中で、そこまでのリスク想定や選択肢の検証をしている学生はもちろん、中高年の方ですらほぼ皆無でした。今目の前にある何となく不安な気持ちや、二者択一の反対の選択肢への後ろ髪をひかれる想いにとらわれているだけの方が圧倒的です。感情としては少しも間違っていません。それを一切否定することなく、くわしく聞き出し、本人はそれを自分の言葉で語ることにより、感情と考えの整理ができます。

内定ブルーへの対処で何より重要なことは、正解の提示ではなく、そうした自分の思いを徹底的に聞き出すこと、その結果としてカウンセリング効果により、自分自身で決断ができるようになることだといえます。北風と太陽を地で行く対応が、きっと効果があることでしょう。

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