コンセプチュアル思考〈第18回〉 類推~ロールモデルを探せ/村山 昇
INSIGHT NOW! / 2016年12月27日 7時0分
![コンセプチュアル思考〈第18回〉 類推~ロールモデルを探せ/村山 昇](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/insightnow/insightnow_9497_0-small.jpg)
村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング
前回、類推(アナロジー)とは、物事Aと物事Bの間に類似性を見出し、その似ている点をもとにして何かをおしはかることであり、その能力に強い人は、物事Aで引き出した本質を物事Bに適用することがうまい人であることを学びました。ケーススタディ学習やビジネスモデルの横展開も「πの字思考プロセス」による類推のひとつでした。
では、演習をひとつやってみましょう。「ロールモデルを探せ」と題したコンセプチュアルワークです。ロールモデルとは「その役割を果たす模範的な存在」をいいます。簡単に言えば、「あの人のようになりたい」と思い、その人の行動や考え方から学ぼうとするお手本です。「学ぶ」という語は、「真似(まね)る」から来ていると言われるように、だれかにあこがれをもって、その人を真似ることは、人間の学習の原形でもあります。
この演習はロールモデル(模範的存在)の解釈を人だけでなく事物にも広げ、「生き方」「働き方」「事業・商品・サービス」「会社・組織」の4項目に分けて探そうというものです。
【演習】下のワークシート使用
〈1〉具体的なモデルをあげ、
〈2〉なぜそれを選んだのかという模範要素を抽出し、
〈3〉その模範要素をどう現実の自分の活動に応用できるかを考えなさい
単にあこがれるものをあげるだけなら簡単です。子どもでもアイドルグループやスポーツ選手をあげることができます。この演習は、〈1〉~〈3〉の項目をセットで強く書けることが重要です。そこではじめて、コンセプチュアル能力が鍛えられます。もちろんこの一連の思考の流れも「πの字プロセス」です(下図)。さらに、ロールモデルから得るのは行動のヒントだけでなく、情熱ももらおうというのがこの演習の狙いです。情熱は伝染するからです。
私は研修でこの演習を行うとき、受講者の書いたシートを次のような観点でながめています。この作業で試される力といってもいいでしょう。
1)いかに世の中や人間に幅広く関心を持ち、モデルをあげることができるか
→コンセプチュアル能力の「広さ」の観点
2)いかに本質的な要素を抽出できるか
→コンセプチュアル能力の「深さ」の観点
3)いかにモデルに対し情的に共振できるか
→コンセプチュアル能力の「熱さ」の観点
4)いかに意を起こし、具体的な行動に変換できるか
→コンセプチュアル能力の「強さ」の観点
◆補足:「守・破・離」の観点から
この世界を「essence:本質」と「form:形態」という二元でながめると、下図のように、2つの円で内側に本質、外側に形態を描くことができます。ここでは「本質は形をまとい、形は本質を強める」という相互作用がはたらいています。
本章で行っている類推の演習を含め、コンセプチュアル思考では「πの字思考プロセス」によって自分なりの解を創造していくことを訓練します。そのとき重要な点の一つはどれだけの“厚み”の「πの字思考」をするかです。
例えば「ロールモデル探し」の演習において、企業研修などで受講者の答えを観察してみると、厚みのある思考ができる人と、厚みのない思考に留まる人が出てきます。それをイメージ的に表わしたのが、上図右のような思考プロセス①と②の厚みの差です。思考①は、form→essence→form(外から内へ。そして内から外へ)という大きな抽象と具体の往復をしています。ところが思考②は、essenceがひそむ内奥にまで抽象化が進まず、form→form(外から外へ)という具体の次元のみに留まる縮こまった思考運動になっています。
日本の伝統芸能・武術の世界で「守・破・離(しゅ・は・り)」ということがよく言われます。「守」は師匠から型を教わり、それを徹底的に身に覚え込ませるフェーズ。「破」はその型を破って自分なりの型を創造していくフェーズ。そして「離」はいっさいのことを超越し、自在の境地に至るフェーズ。弟子がその道を会得していく段階を3つに分けて言い表したものです。
「守」の段階でもっとも大事なことは、型の表面的な模倣だけに終わらないことです。型の奥にある本質を修めることをしないかぎり、次の段階の「離」は訪れません。型破りなことをやったとしても、おそらく薄っぺらな試みに終わってしまうでしょう。型というformをとことん突き詰めて、essenceの次元に上がっていき、本質的なこと、根源的なことをつかんで、再びformの次元に下り、目に見えるものに表現する。これを絶え間なく繰り返すところに、「守」から「破」へ、そして「離」へという道を究めるプロセスがあります(下図)。
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