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ものごとのとらえ方[3]~信念に生きる・信念に死す/村山 昇

INSIGHT NOW! / 2017年1月3日 8時0分


        ものごとのとらえ方[3]~信念に生きる・信念に死す/村山 昇

村山 昇 / キャリア・ポートレート コンサルティング

〈じっと考える材料〉

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師:1929-1968年)は、アフリカ系アメリカ人の公民権運動の指導者である。アメリカ合衆国における人種差別撤廃の運動に生涯を捧げた。「I Have a Dream.(私には夢がある)」の演説は、時を超えて人びとの心に訴えかけるものがある。1968年4月、遊説先のテネシー州メンフィスで暗殺された。


2001年9月11日、アメリカ合衆国ニューヨークにある世界貿易センタービルに2機の旅客機が突入し、爆発炎上した。「9・11アメリカ同時多発テロ事件」の発生である。その後の捜査によって、旅客機はハイジャックされた後に、犯人たちが機体を操縦し、ビルに突入させたことが判明した。


人は成長するにしたがって、なにかしら信念を持つようになります。信念とは、自分の心の奥に持つ「ものごとはこうあるべきだ・こうすべきだ」という考えの軸になるものです。

信念は、自分が受けた教育内容や育った環境(家庭や場所、時代)、読んだもの、見たもの、出会った人、体験したことなどに影響を受けながらつくられます。その意味で、あなたもいま、いろいろなところから影響を受け、じょじょに信念をつくりつつあります。よく、大人で「自分には信念のようなものはないよ」と言う人がいますが、信念のない人はいません。人間は強弱の差こそあれ、なにかしら信じることがあって、その方向に考えの軸が傾いていくものです。

信念は強くなると、主義や思想、信仰といった形になって表れてきます。たとえば、「世の中は結局、お金がものを言う。だからできるだけ多く金もうけしたほうがいい」と考える人は、その信念が強くなると拝金主義に傾いていきます。また、「世の中は結局、人びとの信頼や愛情によって成り立っている。だから争いをなくして仲良く暮らそう」と考える人は、その信念が強くなると、博愛思想を持つようになります。また、「科学で説明がつかないことは迷信である。だから神や霊魂のような存在は信じない」と考える人は、その信念が強くなるにつれ、科学的合理主義で世界をみようとします。「いや、科学ではとらえきれない超越した法則がこの宇宙にはある。だから私は神や仏を信じ、祈りを捧げたい」と考える人は、その信念が強くなると、なにか信仰を求めるかもしれません。

信念は、よくもわるくも、あなたの考え方や行動に方向性を与えます。それはあたかも地球には目に見えない磁力の軸があって、どんな場所に方位磁石を置いても、針を南北方向に動かすことに似ています。

信念が与えるこの方向性はあなたの個性であり、能力をその方向へ集中させる重要なはたらきをします。その意味で、信念が明確で強い人ほど、なにかを成し遂げる可能性は高いといえます。逆に信念があいまいで弱い人は、ほどほどのことしかできないかもしれません。言い方を変えると、なにかを成し遂げようとすれば、いやがうえにもそこに懸ける信念は強くなるということです。信念が強いことと、夢や志を抱きやすいこととは無関係ではありません。

さて、〈考える材料〉に移りましょう。この2つの例は、信念というものが起こす力の大きさを示しています。

キング牧師は黒人の解放運動に身を捧げました。彼には巌(いわお)のごとき信念があった。「生まれつきの肌の色の違いだけでこのような差別がこの世界にあってはならない」と。彼の信念の叫びは、「I Have a Dream.」の演説となって表れ、人道主義・非暴力の運動となって表れました。こうした革命的な指導者はだれでもそうですが、命の保障はありません。そしてそのとおり、キング牧師は暗殺されました。

そしてもう一方のテロ事件の例。ハイジャック犯たちは、最初から自分の命を捨てて航空機ごとビルに突っ込む計画でした。彼らにとって、それは「聖戦」と呼ばれるもので、みずからが信ずる宗教の原理を貫くための行為でした。彼らは信念のために死ぬことをまったくいとわなかったのです。

これらの事例は、かたや黒人解放に捧げた崇高な生き方の話であり、かたや無惨きわまりない大量殺人の話(しかし犯人たちにとっては、これは罪などではなく、むしろ崇高な戦いであると思っているところが問題の複雑なところ)です。この2つはまったく対照的な話のように思われますが、ある点ではまったく共通しています。それは、「きわめて強い信念が、きわめて強い行動を生み出す」ということ。そして「人は信念に生き、信念のために死ねる動物である」こと。


こう聞くと、信念は怖いものだと思うかもしれません。だから、信念はゆるいものにしておこうと思うかもしれません。しかし、そういうことではありません。人間の歴史を振り返って、いかに強い信念が夢や志となって大きなことを成就させてきたか。また、いかに多様な主義や思想がこの世の中を進展させてきたか。いかに深い信仰が多くの人の心を癒やし、高めてきたか。そうした揺るぎない事実は無視できません。ほんとうに満足のいく人生は信念とともにあり、ほんとうに豊かな社会は個々の信念の融合で生まれます。

ただ問題は、信念はよい思い込みになる場合もあれば、わるい思い込みになる場合もあることです。すなわち、強い信念は気高い使命感へとつながってもいくし、同時に、危険な狂信にもつながっていく。信念は「考えの軸」です。その軸をどこに向けるかが、人間に投げかけられる重要な問題なのです。

さて、あなた自身はこれからの人生で信念をどうつくっていくでしょう。あなたは信念を強く鋭く持つことも、ほどほどに鈍く持つこともできます。また、信念を360度どの方向に向けることもできます。それと同時に、他の人の信念をどう見守り、応援し、ときには拒否するか、これも自由です。

信念をどう扱うかは、すべてがあなたに任されています。世の中は、自分を含む人びとの信念と行動の綱引きによって、どんどん動いていく。信念がぶつかり合って戦争が起こるときもある。しかし、戦争など起こさずに別の方法で解決していこうとみなで話し合う。そうさせるのもまた信念の力です。

[文:村山 昇|イラスト:サカイシヤスシ]


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